第33話 『布団が合法になる日』
──“日常”が崩れたのは、ある夜のことだった。
俺・久慈川幸喜は、風呂上がりの体で汗を拭きながら、自室の電気を落とす準備をしていた。
時計は23時27分。
いつものように、ラフ案のメモを少し書き足し、寝る準備を整え──
「……さて、今日は一人で寝られるよな……?」
ベッドに近づいた、そのとき。
布団の中から、むくりと起き上がる影。
「おかえり♥ お兄ちゃん♪」
「──お前、もう寝てたのかよ!?!?!?」
そこには、もはや“定位置”と化した妹・幸香が、当たり前のように布団にいた。
ピンクのパジャマ。
頬には寝跡。
片手には──
スマホの自撮りスタンド。
俺「え……ちょっと待って? なにそれ」
幸香「うふふ。“今夜の記録”を残しておこうと思って。
だって、お兄ちゃんと一緒に寝るって、もう合法でしょ?」
「どこの法律に則ってんだよ!!!!」
***
布団の中。
狭いシングルサイズに2人で横になる。
妹は、自然に俺の腕に抱きついてくる。
スマホは頭上にセットされ、タイムラプス録画中。
「……おい、幸香。録画って……これ、どうするつもりだ?」
「保存して、編集して、“私たちの日常”ってタイトルでフォルダ作ってる♥」
「この世で一番やめてくれ!!!!!」
そして、耳元で囁く。
「でも……安心してね。
絶対外には出さないから。
これは、**“私たちの未来のため”**なんだもん」
──寒気がした。
愛ではなく、
未来の証拠として保存する妹。
それは、ただの想い出作りではない。
**“既成事実化”**という名の、
合法侵略の始まりだった。
***
そして──翌朝。
事件は起きた。
朝、俺が起きると、机の上に置かれていたのは。
【ファイル名】
『第133夜/記録用映像(兄の寝息入り)』
サムネイル画像:
幸香、布団の中でピース。
さらに、付箋が貼られていた。
「次は“寝言で名前を呼ばれた回”を狙うね♥」
「もう寝れねぇよォォォォォォ!!!!!!」
***
登校後。昼休み。
俺は、事情聴取を受けていた。
会議場所:中庭のベンチ
出席者:歩美、舞香、玲奈(※幸香抜き)
歩美「で、これは……本当なの?」
舞香「布団の中で録画……? 何その実績解除みたいな行動」
玲奈「事実なら、これはもはや“布団型独占兵器”です」
俺「ちがうんだって!! 俺、寝てただけで!! 俺は何もしてない!!(本当に!)」
玲奈「その“何もしてない”状態が、妹にとっては一番尊いんです。
“無抵抗=受け入れてる”と認識されますから。」
舞香「完全に“既成事実ルート”じゃない」
歩美「幸香……本気で“妹卒業”しようとしてるな」
***
その夜。
再び布団に妹が入り込もうとする直前──
俺は、ドアに外側から鍵をかけた。
ギィ、ガチャッ。
扉の向こうで、幸香の声がする。
「えっ……? あれ? 入れない……?」
そして──
「お兄ちゃん……閉め出すなんて、ひどいよ……
“私たちの夜”は、もう“日常”だったのに……
記録は……記録は続けないと、意味がないのに……」
──静かに、廊下を歩いて去っていく音。
俺は震えた。
ドア一枚越しに伝わる“情念”が、異常に重い。
そして、机の上に置かれたメモ。
【今夜は録画できなかったので、イラストで再現します。】
※添付:妹による手描きの“想像再現布団イラスト”
俺「誰かこの家、浄霊してくれ……!」




