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第34話 『歩美、妹に宣戦布告』

──それは、昼休みのことだった。


 


俺・久慈川幸喜は、弁当の箸を止めていた。

空気が重い。

殺気、というやつだ。


 


その元凶は、目の前の2人。


1人は──妹・幸香

もう1人は──幼なじみ・袋田歩美


 


2人は、机を挟んで睨み合っていた。


いや──これはもう、睨み合いなどという生易しいものではない。


いくさだ。


 


歩美「アンタさ、さすがに最近……調子に乗りすぎじゃない?」


幸香「えー? なんのことかなぁ?」


歩美「“なんのこと”って……昨日の布団侵入と録画の件!

それと、“学校で恋人宣言”までしておいて、まだトボける気?」


 


幸香「だって、事実だもん♥

私とお兄ちゃん、あったかい布団の中で、心を通わせてるし……♥」


歩美「黙れ地雷妹!!!!!!!!」


 


──机が揺れた。


歩美の拳が、ギリッと鳴った。


 


俺(……誰かこの女神たちに、ラブコメという言葉の意味を思い出させてくれ)


 


 


 ***


 


廊下。移動中。


歩美が俺の腕をつかんで、グイグイ引っ張る。


 


歩美「いい? 幸喜。今日、はっきりさせるから」


俺「な、何を……?」


歩美「妹だからって、甘えてんじゃないってことを。

“正妻の証”は、血縁でも、既成事実でもなく、気持ちだってことを──」


 


その目は、本気だった。


 


──袋田歩美。

俺の幼なじみで、家も隣で、

小さい頃からずっと一緒で、

おせっかいで、怒りっぽくて、でも……優しくて。


 


そして今、

妹に奪われそうな“立ち位置”を、全身で取り戻そうとしている。


 


 


 ***


 


放課後──


学校裏の中庭ベンチ。


そこにいたのは──


・歩美(正妻候補)

・幸香(合法妹)

・観戦ヒロインズ:舞香&玲奈(※ノンアル審判)


 


俺は、呼び出されていた。


「──これより、“正妻の証”争奪戦、第一回会議を開きます」


玲奈が資料を読み上げる。


「競技内容:

①“家事力”勝負(弁当対決)

②“添い寝評価”勝負(過去記録分析)

③“兄がドキッとした台詞”勝負(リアル再現)

④最終決定権は──本人の判断とする」


 


俺「ちょっと待て、なんだこの裁判……!」


舞香「口を出したら、即失格ですわよ?」


 


 


 ***


 


第一競技──弁当。


その場で歩美が取り出したのは、

手作りのだし巻き玉子弁当+梅干しとだし汁の小瓶付き。


 


歩美「出汁を制す者は、家庭を制すってね」


 


幸香が出したのは、

兄好物で固めた“キャラ弁”+兄の顔を模したウインナー盛り。


 


幸香「見て見て~お兄ちゃん弁当♥」


 


俺(見たくなかった)


 


 


 ***


 


第二競技──添い寝実績。


玲奈「過去の記録を分析したところ──

・妹の布団侵入:年平均85泊

・歩美:風邪の看病などで3泊(うち2回はリビングで)


添い寝回数では妹に軍配が上がります」


 


歩美「……くっ!」


幸香「数だけじゃなく、“濃度”も違うよ♥」


舞香「やめなさい、倫理の地平線がかすんできたわ」


 


 


 ***


 


第三競技──ドキッとした台詞勝負。


歩美、前に出る。


そして、俺の目を真っすぐ見て、口を開いた。


 


「──ねぇ、幸喜。

私は“幼なじみ”って立場に甘えたくない。

だから、ちゃんと向き合って、言うね。


──私、お前のことが、好き」


 


俺「……ッ」


 


……ストレートだった。


あまりにも、不器用で、真っすぐで、

でも、胸に刺さる言葉だった。


 


幸香は、ゆっくりと前に出る。


そして、にっこりと笑った。


 


「私は……“妹”って立場に甘えていいと思ってるよ。

だって、それが最強なんだもん♥

血の絆に勝てる想いなんて、この世にあるの?」


 


歩美「……あんた、本気でそう思ってるんだ」


 


幸香「うん。“正妻”って言葉、

本当に似合うのは……私、だと思う」


 


──その瞬間。


空気が弾けた。


火花は見えなかったけど──


たしかに、“戦い”が始まった。


 


 


 ***


 


帰宅後、俺は机に突っ伏していた。


(妹……歩美……)


 


両方、大切だった。


でも、それが恋なのか、情なのか、家族なのか、俺にはまだわからない。


わかっているのは──


彼女たちは、“正妻”という言葉を本気で信じて戦っている。


そのことだけだった。

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