第16話 『“正妻ヒロイン投票”騒動』
──その日、学園は静かに、しかし確実に狂い始めていた。
春の朝。
校門をくぐった俺、久慈川幸喜は、異様な人だかりを目にした。
昇降口横の掲示板前。
集まった生徒たちがスマホを構え、ざわざわと騒いでいる。
何かの発表? 進路? 遅刻者リスト?
……違った。
貼られていたのは──一枚の紙。
【投票実施中】
『正妻にふさわしいのは誰?』
候補一覧:
①袋田歩美(幼なじみ)
②久慈川幸香(妹)
③磐城玲奈(図書委員)
④舞香・A・C・リーヴス・天城(転校生)
投票方法:QRコードからスマホ投票
※複数投票可・応援コメント歓迎
主催:1-A【恋愛統計研究会】(非公認)
俺「……は?」
思考が止まる。
現実を受け入れたくない。
いや、受け入れてはいけない。
「なにこれ!? 誰がこんな投票……」
「うわマジかよ、“妹”に100票近く入ってる……」
「いや、俺は“転校生”派かな~。あの金髪マジで強い」
「でも地味子も表紙になったし、ガチヒロイン感あるよね」
「幼なじみが報われる展開って、やっぱ泣ける」
「なに!? この分析会は!?」
俺が顔を真っ青にして掲示板を睨んでいると──
「よぉ、久慈川」
背後から、うちのクラスの男子・広瀬が笑顔で声をかけてきた。
「お前さ、マジで人生ラブコメ主人公じゃん。羨ましすぎて嫉妬通り越して敬意払うレベル」
「敬意いらない!ラブコメいらない!!この投票、止めようよ!?」
「え? でもさ、1-AのWebサイト、今めっちゃバズってるぜ?
“リアル恋愛選挙”って感じで、外部アクセスまで来てる。お前、伝説だよ!」
「……伝説、なんかじゃない……地獄だよこれは……」
***
──そしてその頃。
ヒロインたちは、それぞれ“動いていた”。
■歩美(①)──正攻法主義
「ふふっ……“幼なじみの誠実さ”を見せつけてやるわよ」
彼女は、各クラスの友達にメールを送り、
「幸喜のこと、昔から見てきたのは私だけ」という感動エピソード付き投票依頼を展開中。
さらに──
「……この動画、幸喜が風邪ひいたときに私が看病してるやつ。添付っと」
→ 泣ける。→票が増える。
■幸香(②)──ダークサイド担当
「クラス掲示板に投票コードを埋め込み済み。寝てる間にクリックされて票が増える仕様……っと」
さらに、妹は手製の**“兄毛付きステッカー”**を配布し始めた。
「兄の細胞と共に……一票、お願いね♥」
→ ファンが誕生。→信者化。→得票数、爆増。
■玲奈(③)──静かなるテロリスト
「地味だからこそ、“推す理由がある”のです──」
彼女は図書委員の人脈を駆使し、図書室の机に“匿名応援カード”を設置。
さらにTwitterでは、
#地味子の時代
#静かな恋は強い
といったタグをトレンドに乗せ始める。
→ 地味系ファン層獲得。→ネット票、増加。
■舞香(④)──国家レベルの買収作戦
「各クラブに寄付金。額は10円単位で調整してるから、“買収じゃない”の」
お茶会を開き、生徒会にも潜入し、
最後には──
「“清き一票”を入れてくださった方には、ハグ券を差し上げますわ」
→ 男子全体が爆走。→100票近くを一気に獲得。
***
そして昼休み、結果速報が掲示される。
【現在の投票状況】
①歩美 :102票
②幸香 :183票
③玲奈 :95票
④舞香 :178票
俺「おかしいだろ!“妹”がトップって!!なにそれ!!誰が入れてんの!?俺か!?未来の俺か!!?」
そのとき、放送が入る。
「正妻投票において不正が多数見つかりましたので、恋愛統計研究会は解散となります」
→ 校内爆笑。
→ 投票用QRコード、翌日には物理的に焼却処分された。
***
その夜、俺は再び机に向かっていた。
原稿タイトル:
『ヒロインたちがガチで戦いすぎて、学園が一時自治崩壊した件』
LINE:渋谷(編集)
渋谷「今回の投票事件、シリーズ屈指の神回になりそうですね」
渋谷「アニメ化の会議、今月末にまたやります」
渋谷「本気でいきましょう。これ、“売れる”作品です」
俺「“死ぬ”作品だよおおおおおおおお!!!!」
──だが、まだ終わってはいなかった。
その夜。
俺のベッドの下に潜んでいた妹が、にっこり微笑んだ。
「……お兄ちゃん。投票なんて関係ないよ。
だって、私はもう……“布団の中”で、勝ってるんだから……♥」
──悪夢は、まだ続く。




