第17話 『お弁当戦争──“愛情こもってる”とは何か?』
春のある日、昼休み。
1-A教室の後ろの窓際──。
俺、久慈川幸喜は、完全に──詰んでいた。
「……食えねぇよ、これ全部は……!!」
机の上に並ぶ、4つの弁当箱。
どれも、“ヒロインたちが心血を注いで”作ってきた愛の結晶である。
ことの発端は、数日前。
例の【正妻ヒロイン投票】事件が起きたあと、教室での空気は微妙にヒリついていた。
その緊張を“日常”へ戻すため──
ヒロインたちは、それぞれ**「手作り弁当」という名の戦場**へと舵を切ったのである。
そして今日──
俺は、愛情という名のカロリー地獄の中心に座っていた。
***
■①袋田歩美(幼なじみ)のお弁当
・和食一式
・出汁に命をかけた煮物
・昆布と鰹で二日寝かせた玉子焼き
・漬け込んだサバの味噌煮
・手書きの「今日も原稿、頑張ってね♡」メモ付き
「ふふ、口には出さなくても、これ食べたら分かるよね? 私が“妻”ってこと……」
(……出汁が……うますぎて泣ける……)
でも、まだ一つ目である。
■②久慈川幸香(妹)のお弁当
・キャラ弁
・“お兄ちゃん”の顔を象った海苔アート(完成度高い)
・中身はすべて俺の好物(唐揚げ、明太卵、ミートボールなど)
・おしぼりに香水と“兄毛”を挟み、香り強化済
「お兄ちゃんを“口に入れる”のって、ちょっと背徳的でしょ♥」
「セリフの意味がわからんけど怖すぎるぅ!!」
唐揚げはうまい。だが味よりも視線が刺さる。
胃袋、50%超え。
■③舞香(転校生)のお弁当
・英国貴族風ランチボックス
・ローストビーフ、キッシュ、レモンバターの紅茶サンド
・すべて手作り。見た目は高級ホテルのコース料理
・内蓋に「あなたの胃袋は、私の心の一部です♡」という英文直筆メモ
「今度は……ディナーをご用意しますわ。“夜のお弁当”もぜひ♥」
「夜の弁当って何!? なんか怪しいぞ!?」
美味しい。だが味が“高尚すぎて”胃が混乱。
すでに、限界近し。
■④磐城玲奈(図書委員)のお弁当
・極めて普通のおにぎり2個
・だが──“彼女が直接、手で握ってきた”
・さらに──「あーん」して食べさせてくる仕様
・地味に見えて、破壊力が凄まじい
「……先輩、口、開けてください」
「えっ、ええっ、いやその、ま、待って……」
「……あーん……」
(……っ! こ、これ、やばい。味以前に心臓が持たん……)
→ おにぎり1個で、他3弁当の満腹感と同等の威力。
***
教室の一角で。
俺は4人の視線を受けながら、必死に弁当を詰め込み続けていた。
歩美「私のから先に食べたってことは、正妻認定でいいのよね?」
舞香「最後の“満腹で食べたくなさそうな顔”は、私のローストビーフへの侮辱?」
幸香「お兄ちゃんのお腹で、誰が一番消化がよかったか、記録しておくね」
玲奈「このあとの“胃薬”も、私が飲ませてあげます」
俺「──胃が死ぬ!!! でも! 断ったら命も危ないッ!!!」
まさに、ラブコメ界の死刑執行ランチタイム。
***
その日の夜。
俺はベッドにうつ伏せで倒れていた。
「……しばらく、食事というものを……見ることもできない……」
スマホに渋谷(担当編集)からのLINE。
渋谷「弁当戦争、いいですね。グッズ化できそうです」
渋谷「“ヒロインの手作り弁当レプリカ”とか、食玩にしてシリーズ展開しましょう」
「胃がやられてるって言ってんだろぉぉぉぉぉ!!!」
──だが、その日の記憶は、俺の心にも確かに残った。
味覚の奥に、残る想い。
誰かのために、時間をかけて弁当を作るっていうのは──
やっぱり、それだけ“本気”なんだ。
でも次の日。
玲奈がこっそり言った。
「次は……“お味噌汁対決”です」
俺「もうやめてくれええええええええ!!!!」




