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第13話 『歩美の攻勢──“昔の約束”という地雷』

「……ねぇ、幸喜。覚えてる?」


 


その一言で、すべてが変わった。


 


それは放課後の帰り道──

春の光が差し込む坂道を、俺と袋田歩美は並んで歩いていた。


制服の袖が風に揺れ、沈黙が心地よくなるかと思った矢先。


彼女は、唐突に言った。


 


「昔……結婚の約束、したよね?」


 


「──へ?」


 


言葉の意味を理解するのに、数秒かかった。


脳が一瞬フリーズし、バックグラウンドで“記憶スキャン”が始まる。


 


──幼稚園。

──砂場。

──貝殻の指輪。

──「大人になったら、けっこんしてあげる!」

──「ぼくもけっこんするー!」


 


「えっ、それ……あれ!? マジで言ってた!?」


「うん。あたし、ずっと覚えてたよ」


 


歩美の表情は、どこか誇らしげで、それでいて、ちょっとだけ寂しそうだった。


 


「私にとっては……あれ、すごく大事だったから」


 


「えっ、ちょ、ちょっと待って!? それ“正妻ポイント”に加算されるレベルの爆弾だぞ!?」


 


でも遅かった。


 


──その瞬間、草むらがざわめき──


「聞いたわよォォォォッ!!!」


 


飛び出してきたのは、金髪に制服が翻る転校生・舞香。


 


「“結婚の約束”? 何そのローカルイベント!?」


 


俺「ローカルって言うな!!」


舞香「しかもその約束、**“私と出会う前”**の話よね? 古いの! 期限切れ!」


歩美「契約って、履歴が一番大事なのよ」


 


──そして別の方向から、ピタッと気配が現れる。


 


「……なるほどね。“昔の約束”ね」


 


現れたのは、地味子系ヒロインにして静かな猛者──磐城玲奈。


 


「けど私は、今、“作品”という形で、先輩と繋がっています。

お互いの創作物を通じて、未来を共有してるんです。

……だから、私は負けません」


 


俺「お前も爆弾持ってきたァァァ!!」


 


玲奈の目は本気だった。


黒縁メガネの奥で燃えるその意志は、決して歩美にも舞香にも負けていない。


だが──そこに、最終兵器が微笑みながら登場する。


 


「ふーん、そんなもんで“契約”って呼ぶんだ……?」


 


妹・久慈川幸香くじかわさちか

制服の胸ポケットには“兄毛”入りの瓶。

常にニコニコしているが、地雷の本体である。


 


「私は血で繋がってるから。

つまり、これは遺伝子的運命ジーン・デスティニー

お兄ちゃんの遺伝子は、私の中でも活性化してる」


 


玲奈「怖い」


舞香「通報したい」


歩美「これ保健所案件でしょ……」


 


──その場にいた全員が、ドン引きした。


でも幸香はニコニコしていた。


「ふふ、でもね? 誰が正妻かって話なら──私たち、皆もう“戦友”みたいなものじゃない?」


「地雷同盟を組もう?」


 


「いや、嫌だわそんな修羅場のユニオン」


 


 


 ***


 


そんな“正妻争奪前哨戦”の余波を受けた俺は、その夜、自室でPCの前に座っていた。


画面には、真っ白なWord文書。


そのタイトルは──

【青春ラブコメ(第5稿):ヒロイン複数の正妻争奪戦、開始。】


 


……もう現実で起きたことを、そのまま書くしかない。


 


俺の隣では、妹が瓶を並べて言う。


「お兄ちゃんが書けるように、“今日の香り”も抽出しておいたよ」


「なんで俺の布団の匂い抽出してんの!? スポイドで!?」


 


夕食の後、歩美は静かにこう言っていた。


「でも……あの約束、今でも有効だよ。あたしにとっては──ずっと、ね」


 


舞香はスマホ越しに編集に話していた。


「次巻、表紙のヒロインは……私にしましょう」


 


玲奈は、ラノベ投稿サイトで俺の旧作レビューをアップしていた。


「作品と読者が、作者を正妻に導く──そういう時代です」


 


──青春。

それは、避けようのない修羅場だった。


 


そして俺は、今もなお──


「……なんで俺、青春ラブコメ書けないんだろうな……」

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