第12話 『恋の内政会議、勃発──ヒロイン評議会開幕!』
春の午後、放課後の教室。
生徒たちの大半は帰り支度を終え、部活へ向かったり、ゲーセンへ向かったり、カップルは桜並木の下で青春している時間帯──
その日、1-A教室の片隅で、ヒロインたちは秘密裏に集結していた。
集まったのは四人。
──料理万全幼なじみ・袋田歩美
──毛収集ブラコン妹・久慈川幸香
──金髪碧眼の爆弾転校生・舞香
──地味子にして観察者・磐城玲奈
机を囲む彼女たちの前には、なぜかホワイトボードと議題メモが置かれていた。
タイトル:
【第1回 正妻戦線戦略会議──略して“ヒロイン評議会”】
歩美が仁王立ちで宣言する。
「──さて、今日ここに集まった理由は一つ!
久慈川幸喜を、誰が“正妻”として手に入れるか、だッ!」
舞香「うわ、直球」
幸香「ついに来たわね……地獄のラグナロク(最終戦争)……」
玲奈「議事進行役は私がやります」
玲奈が黒板の前で静かにマーカーを構える。
【議題①:正妻としての“資格”とは何か】
【議題②:現時点での“攻略率”と戦績】
【議題③:正妻認定の定義づけ】
舞香が手を挙げる。
「まずは議題①。“資格”というなら、やはり幼なじみという理由だけでアドバンテージを得ているのは不公平かと」
歩美、即座に噛みつく。
「あ゛あ゛? 十年以上一緒に過ごしてきた信頼と共同生活力が“無価値”だって言うの?」
舞香「共同生活と言うが、実際には未だ進展ゼロ。進撃もゼロ。爆発力もゼロ。……いわば“長期停滞系ルート”よ」
歩美「ルートで語るな!!! 私は今、メインヒロインよ!」
幸香、静かに手を挙げる。
「ねえ……何人ルートだろうが、最終的に選ばれるのは、血で結ばれた者だと思わない?」
玲奈「いきなりホラー方向へ行かないでください」
幸香、淡々と続ける。
「だって、私は兄の“全て”を知ってる。好物も寝相も体臭の変化も。あと、毛根の成長速度も」
舞香「毛根は知らなくていい」
歩美「てか犯罪」
玲奈「収集家としては超一流」
──議題①、まったくまとまらず。
続けて議題②。
玲奈「“攻略率”については、イベント数・密着回数・呼び名変化などから得点化してみました」
ホワイトボードにスコア表が現れる。
【歩美】イベント8回/密着5回/呼び名「幸喜」=総合28pt
【幸香】イベント11回/密着10回/呼び名「お兄ちゃん」=総合36pt
【舞香】イベント5回/密着3回/呼び名「よっちゃん」=総合23pt
【玲奈】イベント6回/密着1回/呼び名「先輩」→(最近「幸喜さん」)=22pt+伸びしろ大
歩美「妹強すぎない!?あの子いつそんなに密着してたの!?」
玲奈「主に夜です。寝込みを襲ってますから」
舞香「ほとんど不法侵入なのよ、それ」
幸香「え? みんなやってないの? 寝てるお兄ちゃんの胸に顔埋めて深呼吸とか?」
全員「やってません(即答)」
議題③、もはや形骸化。
玲奈「このままでは収拾がつかないので、次回、決戦イベントを開催しましょう」
歩美「どんな!?」
玲奈「“ヒロインお弁当対決”」
幸香「これは勝ったわね……私、兄の好みでしか構成されてない“兄専用弁当”作れるから」
舞香「イギリス貴族仕込みの本気出すわ」
歩美「まさか……勝負する日が来るとは……! 負けたくない……!」
こうして、ヒロインたちは“言葉”から“戦術”へと移行することになる。
青春の内政会議は、次なる戦いへの布石だった。
***
その頃、当の本人──久慈川幸喜は。
自室の机に座り、キーボードを叩いていた。
──が、文字は一行も進んでいない。
「……なんか、最近……ヒロインたちの目が、怖い……」
何かを企んでいるような、静かな闘志。
微笑みの下に潜む殺意。
夕飯のとき、異様に鍋の出汁が濃かった気がする。
「……もしかして、俺って……何か巻き込まれてない?」
そんな気がしてならなかった。
でもまあいいや、とりあえず──
「おっぱいのサイズで揉めてないなら、いいか……」
甘い。
その油断こそが、ラブコメ戦争の燃料なのだった。




