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94 属性2



キースと鑑定の間に入ったバトンは、水晶をみるなり怪訝な顔でキースに振り返って感想を述べた。


「うさんくさくねぇか?」


無言でバシッと叩かれる。さすがに直球すぎたかとバトンは反省した。


「わりぃな、じじい」


「じじい言うなっ!ここでは先生と呼べといっとろうがっ!」


バシッバシッ叩かれ、バトンは慌てて再び謝る。キースを怒らせて良いことはないと、これまでの十六年の人生経験から得たことだ。


「さて、お遊びはそれぐらいにして、バトン、その水晶に手をかざしてみろ。そうしたらお前さんの属性がわかる」


バトンは、”はいはい”と軽く返事をしてから、水晶に近づく。カツンカツンと靴音がやけに耳につき、身体が酸素を欲する。手をかざそうとして、はたと動きを止また。


「なぁ、じじい」


「ん?どうした」


「オレ…」


そこで言葉が詰まる。キースにはわかる。今まで散々ひどい目に合ってきて、それが属性による影響だった。

魔法は憧れる。けれど、こんな人生を歩む羽目になった元凶が今、ここで突き詰めて露わになることに、バトンは受け入れることが出来るのか。今更になって、不安が押し寄せる。


「お前さんなら大丈夫だ。フィーを守るんだろう?」


バトンは目を見開いて、キースの言葉を咀嚼する。そして、深く頷き、ニカッと笑った。


「そう…だった…な。この力で…フィーを守って見せるっ!」


勢いよく、水晶に手をかざした。

水晶から光が放たれ、光の中に炎が燃え盛り、パチパチを音がする。その奥に炎の影が移し出さた。


「バトンは、火・音・(シャドウ)の三属性…多種属性持ちだ。まぁ黒髪黒目だからな。なんとなく感じていたが」


「っ!!オレが三属性!?」


「あー、言ってなかったか?」


「聞いてねぇっ!!おいっ!じじいっ!!」


「おいおい、ここで吹っ掛けてくるんっーー」


《じゃない》と言いたかったのだが、泣きそうな顔でキースに抱き着いたバトンのおかげで紡ぐことが出来なかった。


小刻みに身体を震わせるバトンに手を回し、背中をさすった。


「お前さんは、生まれ持ったものが大きかったんだ。力を極めて、お前さんを馬鹿にしたやつらが困ったときに手を差し伸べてやれ」


やり返すのではなく、手を差し伸べて偏見をなくすように。今まで仕返しすることなく、()()()()()バトンの優しい心をそのままにと願って、キースは言葉を選んだ。


「それでフィーを守ってやれ」


ぎゅーっと抱き着いている力が強くなる。頭が何度かコクコクと動く。その度に春より伸びた黒髪が前後して鼻をくすぐる。だいぶ大人になってきたと、この間、アルバートの会話で感じたキースだったが、まだまだ子供だなぁと心で笑った。


「そろそろ出ようか。次はフィーの番、だからな?」


抱擁を解き、バトンはそっぽを向いて制服のシャツでガシガシと顔をこする。


(あーぁ、あれでは赤くなって皆にバレるだろうに。がっはっは。バカな息子()だよ)


「じじい…」


「んん?」


「ありがとな」


「がっはっはっは」


「笑うなって!調子狂うから」


バトンの背に手を預け、扉の方へ進むように促す。


「バトン。わしはいつまでもお前さんの味方だよ」


その言葉にはバトンは返事をしなかった。その代わり振り向いてニカッと目元に赤みが残った顔で笑った。





バトンが扉を開けて帰ってきた。

フィリティは、ドキドキしながら神妙な面持ちでバトンが輪に戻ってくるのを待った。


「わりぃ。時間かかったか?」


「んや、全く」


気遣うようにけれど、心に負荷のかかっている低い声音に加え、目元がほんのり赤かいことに誰もが気づくけれど、それを指摘することはなく、バトンを受け入れる。なんとなく皆がバトンのことを理解した。普段と変わらない口調で返事をするレジェンにフィリティは感謝した。


「それでどうだったっ!?」


「えっと…火と音と影?だったか」


頬をポリポリと掻き、皆から視線を外してバトンが伝える。


「「「やっぱり!複数属性!!」」」


見事に全員の言葉が重なり、バトンがまたも驚いて外していた視線が戻ると目を見開いた。それから眉を寄せて引き気味に見渡す。


「なんだよ…気持ち悪ぃなぁ」


「何属性かはわかならなったけど、バトンはいくつかの属性が混ざってるんじゃないかって話してたの!」


「さすが黒髪黒目だな」


「黒髪黒目は凄いな」


「羨ましいぜっ!黒髪黒目」


「やっぱり!ブラックスターサファイアは最高ね!!」


「っ!!」


レジェンとヴァランティーヌがからかうように黒髪黒目を強調し、それに乗っかったセリフォスだが、フィリティの一言でその雰囲気は吹き飛んでしまった。バトンの頬が赤く染まり、もうフィリティの方を見ることが出来ない。


「「「ブラックスターサファイア?」」」


レジェンとセリフォス、そしてアルドルトの声が合わさり、フィリティの言葉を復唱する。

ヴァランティーヌだけは「ほほぅ」と目を細めてニヤついていた。


「えっとね!バトンの…「ああ!!フィーもう呼ばれるぞ」」


説明しようとしたフィリティに慌てて、バトンが言葉を重ねる。

フィリティは「そっか!次私だ!」と意識はあっという間に鑑定へと移る。


「そのことはもうどうでもいいからっ。フィーは何属性だろうな?」


無理矢理話題をずらすバトンに不満顔で男三人は視線を向けるのだが、フィリティが考え込みながら「んー」と唸る姿をみて追求を諦めた。


「んー、んー、私ってどうなんだろう?」


この場にいる中でレジェンとセリフォスの二人がフィリティの本当の髪色を知らない。

バトンもヴァランティーヌも言いたいけれど言えない状況にどうしたものかと頭を捻って考える。


「やってみたらわかるよ。楽しみにしててごらん」


アルドルトがすかさず、微笑みながら赤子に語りかけるような優しい声で、フォローに入る。

そのタイミングでキースがフィリティを呼んだ。


「じゃ!皆っ!行ってくるね!!」


急足で駆け寄る彼女の小麦色の髪は左右に揺れ、踊っている。


「フィーリはどうなるのか」


「フィーは…わかんねぇな」


「………」


何か真剣に考えこむ周りの雰囲気にレジェンは不思議で仕方なかった。


「フィーに何か問題が?」


「いや…あの子は…ほら?他の子といろいろ違うから。ふるまいとか」


ヴァランティーヌはフィリティの性格を持ち出して、真意を悟られないようにする。


「まぁ確かに。性格は他の令嬢と全く違っていて規格外というか…笑ってしまうくらい面白い人だ。もちろんいい意味で、だよ?」


ふふっと何かを思い出すようにレジェンが笑う。

その笑い方が愛しさに溢れていて、バトンとアルドルトが眉を寄せて怪訝がる。


「何を思い浮かべてる?レジェン」


「レジェン、なんだかおもしろそうですね」


「あなた方もなかなか面白いですよ」


バチバチっと火花が散っているようなピりついた雰囲気にヴァランティーヌは”はっはっは”と豪快に声を上げて笑った。


「俺的には複数は確定だな」


突然発せられた確信めいたセリフォスの言葉にその場の全員が驚愕する。


「か、確定?」


バトンが皆を代表するかのように聞き返した。


「ああ。なんていうのか…まあ勘だけどな!オーラ?って言うのか、気配ってぇのかは、わからねぇけどよ?あったけぇーよな!あの温かさは一つじゃねぇーだろ」


感覚的な話を持ち出され、ポカーンと呆けた顔をそれぞれが浮かべる中、ヴァランティーヌだけは冷静にセリフォスを見つめる。


(こいつ…侮れんな)



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