表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
76/309

75 宿題は早めに



 キースとバトンを学園の正門まで送り届け、秋学期での再会を約束した。


「またなっ!フィー!ちゃんと九月に学園に来いよ」


馬車を降りる少し前、“あの約束忘れるなよ”と耳打ちされ、フィリティは何のことか分からなかった。


『チッ、これだからフィーは…』


バトンは、左胸を二度叩き約束を思い出させる。

思わず《ああ!》と声を上げそうになったフィリティは、ぐっと耐えたせいで、咳き込んでしまった。


『おいおい…大丈夫かぁ?』


心配しながら覗き込む黒い瞳。バトンの瞳はいつ見てもブラックスターサファイアみたいで本当に綺麗だ。


『…きれい……』


『『……はぁっ!?』』


バトンだけじゃなくアルドルトも声を上げる。

馬車の中は、フィリティを真ん中に左右にアルドルトとバトンが座り、対面にミシェルとキースが座っていた。


『あ…ごめん。大丈夫。覚えてる覚えてる…あと大丈夫』


前半の大丈夫は、忘れてないよの大丈夫で、後半の大丈夫は、咳込んだことへの返事…だったのだが、もう何を言っているのか分からない。


バトンは、予想外の返事の内容を理解し、頬をポリポリ掻きながら、明後日の方を見ている。ほんのり耳が赤く染まっていた。


対するアルドルトは、フィリティの表情は分からないもののバトンのその態度にメラメラと嫉妬の炎を燃やし始め、怪訝そうにしている。


『フィーリ、何が《きれい》なの?』


なぜかゾクッと背筋に悪寒が走る。アルドルトの声に壊れたおもちゃのようにギギギギッと、音が聞こえてきそうな首の動きで、瞳を向けた。


『えっと…えっとね『あぁ、それは!』』


フィリティの言葉にバトンが慌てて被せ、そこで一呼吸置き、今度は、いたずらをした少年のようにニヤっと笑う。


『…オレたちだけの話だから。アルには秘密だ』


《別に秘密ってほどのことでもないんだけどな…まぁいいよな?》


『だって。ごめんねアル』


《フィーが賛同してくれた。やべぇ。めちゃくちゃ嬉しい…》


バトンは内心のたうち回っていた。《ブラックスターサファイア》は、バトンにとって人生のターニングポイントになった魔法の言葉だ。本人が特別視しているだけで他人に言おうが、秘密にする必要もないなのだが思いつきで言った言葉が賛同されて、二人だけの思い出に出来ることがこんなにも嬉しいものなのだと知らなかった。


『………』


アルドルトの表情は「無」だ。

荒れ狂い始めた感情を抑えるために無表情で接している。


『ア、アル?』


呼ばれてアルドルトは微笑むが全く目が笑っていない。


『フィー大丈夫だ。アルは気にするな』


そう言ってフィリティの顎に手を置き、バトンの方に顔を向けさせる。

すると、アルドルトはフィリティの腰に手を回しグッと腰を引き寄せた。


『アっ、アルっ!?』


今度はフィリティが茹でダコのように赤面する。そこでやっとアルドルトは、ふっと鼻を鳴らし、慈愛に満ちた眼差しで笑いかけた。


すると、正面のキースから声が上がる。


『お前さんたち…フィーをおもちゃにするな』


キースから手を差し出され、反射的に手をとったフィリティをグイッと引き寄せ、ミシェルとキースの間に座らせる。


『『あっ』』


二人がぽかーんと同じ顔でフィリティが移動する動きに反応できずに固まった。


『えっと…キィじい?』


『嬢ちゃんは、わしの孫みたいなもんでな。まだまだ若いのには勿体ない』


ミシェルは、ふふっと肩を揺らして笑い、愛する娘がこんなにも周囲に愛されていることに幸せを感じた。


『フィーちゃん、皆あなたのことが大好きなのよ。ふふっ』


フィリティは、ミシェルの水色の瞳を見ながら言葉を咀嚼する。

それからアルドルト、バトン、キースと馬車の中を見回し、嬉しそうにはにかんだ。


『私も!皆が大好きよっ』


愛しの婚約者のぬくもりが遠くなり、仔犬がなくような悲しげなアルドルトもバツが悪そうなバトンもその言葉に微笑んだ。


頭を優しく撫で、手を握って微笑むキースに、


『おいっ、じじい!そこまでだっ!』


『キース先生、手を離してください』


ビィービィービィービィービィー


と、静かにしていたルーまでも加わり、抗議の声が上がった。



「バトンも身体に気をつけてね!また学園で!!キィじいも!元気でね!!」


手を振り別れを惜しむフィリティ。ミシェルもアルドルトも微笑み馬車を降りた二人に瞳で語り、アルドルトは軽く頭を下げた。


再び馬車が軌道に乗り走り出す。


「行っちゃったね…」


いつまでも車窓を眺め、流れる景色にもうとっくに見えなくなった二人を思う。


今年の夏は賑やかだった。


初めはパティリテ湖の満開のシレスコピィが見られないと、気落ちしていたのに、蓋を開けてみれば、ずーっと笑っていた。夏休みの宿題も早々に終わらせて、隠れ家の日々を謳歌した。


「お母様が言っていた夏休みの宿題は、早いに越したことはないってお話、やっと理解できました」


「ふふっ。楽しかったのね」


「はい」


「バトンは…終わってない気がする…」


「…かもね」「そうね」


ニーニーニー


「あ…ルーもそう思う?」



三人で顔を見合わせて、ふふっははっと笑った。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ