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63 婚約後の彼

閲覧いただきありがとうございます!


 婚約を正式にかわし、アルドルトがアンジュール国から帰還した日、ジョルテクス王国の国王の執務室にいた。

苦々しい表情でアンジュール国国王ジョーカスからの手紙を読む国王マルク。


手紙を読んだ後、魔法を展開し手紙はみるみるうちに灰と化した。


「そうか…ジョーがたまに言う言葉が理解できずに尋ねると濁すことが多々あったのだ。ミシェル妃とは通ずることで、アンジュール国内の流行り言葉かと思っていたが…なるほど。合点がいった」


「…父上」


「あぁ、気にするな。以前より何かあるが話せないと言われていたことだ。やっと時が来たということなのだろう」


一度瞳を閉じてマルクが考え込む。室内に沈黙が続き、アルドルトの背中に汗が流れる。

瞼が上がり、緑の瞳が息子を見つめる。


「アルドルト。この先は苦難だぞ?フィーリ嬢を守れるのか?…いや愚問だったな。守ってみせるといい」


「はい」


「ただ…お前も守りなさい。自分自身を」


「……はい」


「可愛い息子だからな。必ず戻れ。それとこちらでもかの国については調査を続けている。何かあれば伝達しよう」


「ありがとうございます」


そこで相貌を崩すマルクだったが改めて国王として凛と表情を作る。


「アルよ。行く前に一つ魔法を伝授したい。その魔法を習得してからアンジュール国へ行きなさい」


「それは…習得にどのくらいかかるのですか?」


「私が半年かかった」


「っ!!!そ、それでは入学式には間に合わないということですか!?」


「まぁ焦るな。入学式に間に合うかどうかアル次第だ。これが留学の絶対条件だ。いいな」


「………」


「きっと良い武器になるはずだ。アルなら…アルドルトなら出来る。励め」


「……はい」


この日からアルドルトは、魔法を習得するための鍛錬を続け、一ヶ月弱で身につけた。

学園への入学が遅れた理由である。





魔法鍛錬中に父上に呼び出された。

そこで驚愕の出来事を知る。


「フィーリが襲われたっ!!?」


「ああ。入学二日目に、だそうだ。幸い命に別状はないらしい」


「らしい?というのは…」


「出来事から三日経った今も眠り続けて意識はまだ戻らないそうだ」


「なっ!!!」


信じられないという思いで目を見開くアルドルトは、その場に立ち尽くす。


「落ち着きなさい。彼女はすぐに目を覚ますだろうとジョーから連絡が入っている」


(…魔女に頼ったらしいからな)


ジョーカスは魔女の里へ伝令を出し、フィリティが意識を取り戻せるのかを尋ねたという。


「詳細は彼女が目覚めてからになるだろう。アルドルトにも何が起きたのかを伝えて欲しいとジョーから言付かっている…が今話を聞けるか?その前に殺気をなんとかしなさい 」


「これが落ち着いていられますか…」


地を這うような低い声。自身の拳を力いっぱい握りしめ白くなっている。


「まぁ無理もない、か…だがジョーからヤマガラのルーについて聞きたいと言ってきている。話せるか?」


「お話はします。ですが先に襲われた状況を教えてくださいっ!」


それからマルクにより図書室での出来事が語られた。そばにバトンがいたこともアルドルトは気に食わなかった。その場にいなかった自身を許せなかった。


自室に戻り、やり場のない怒りや嫉妬が渦巻いている心を落ち着けようとフィリティがいつも贈り物に巻いているリボンを手に取る。


未だに目が覚めないフィリティを想い、リボンを握りしめた手を組んで額に当てる。


「フィーリ…」



翌日からの鍛錬は、昨日よりも凄まじい速さで遂行していく。朝から晩まで魔力が許す限り鍛錬する。

鍛錬が終わると身体は、鉛のように重く、いつ眠ったのかも分からないほど、無我夢中だった。


父上から言い渡された課題は、闇属性の一部を弾き返す魔法だ。我が国の影仕事を担う騎士団員に闇属性持ちがいる。闇属性の魔法を繰り返し放たせ、対抗しながら【弾返(バウンドバック)】を繰り返した。

魔法でこんなに苦戦したことは今までなかった。


父上は、消し去る魔法を習得させたかったと言っていた。それこそ学園生活が終わってしまいかねないからと妥協点として、この魔法を選んだらしい。


ジョルテクス王国は、王国だけあって、禁書扱いとなった書物の保管にも他国に比べて数が多い。その中に過去、闇属性を悪用した魔法・魔術に特化した書物が存在する。かなり古いものは、時空封じの術でなんとか保管しているが修復師らに協力を煽らなければ近未来で消滅するだろう。

問題とするのは、その修復師も信頼のおける人物を人選、内容を記憶されないなどの漏洩に対する対策を厳重にしなければならない。それが今現在、現実的に考えて不可能に近い。


そのため王家には、【伝承】という形で受け継いでいく魔法・魔術がある。本来なら王太子が受け継いでいくらしいのだが、今回は例外だ。


周りから鍛錬する姿をどんなに称賛されても習得出来なければ意味はない。


(早くフィーリに会いたいんだっ)



フィリティが眠りについたと知らせが届いた日から四日後に無事に目を覚ましたとジョーカスより連絡が入った。アルドルトは、心の底から安堵し、まだ会うことのできないフィリティに思いを馳せた。


一ヶ月後、マルクより魔法習得を認められ、晴れて留学となった。



アルドルトのアンジュール国滞在中はフィリティとひとつ屋根の下になる。

といっても、アンジュール一家が住まう王宮だ。二人きりというわけではない。

それでも毎朝顔を合わせ、学園にも一緒に通学し、同じクラスで勉学に励み、一緒に下校して、夕飯をともにする。


寝るとき以外は、常に一緒に過ごせると思うと嬉しい反面、心配事もつきない。


(僕は常に冷静にならなくては…)


アルドルトは、それからすぐにアンジュール国へと旅立った。

自国の友人に挨拶するのを忘れたまま。





教師に促されて、指定された席へ歩みだすアルドルト。

フィリティには、時がゆっくりとゆっくりと進むように瞳に流れる。


「すぐに会えるって言ったでしょ? 今日からよろしくね」


ウィンクしたアルドルトに頬を赤く染めるフィリティが可愛い。


「…オレのことは無視か?」


「あぁ、ごめん。居たんだ。気づかなかったよ」


バトンは姿勢を横向きにし、恨めしそうにアルドルトを見る。アルドルトは全く気にしない様子で微笑んでいる。


目には見えない火花が散っているがフィリティは、アルドルトの登場に未だ困惑していて、それどころではなかった。


教壇にいるキースは、バトンとアルドルトのやり取りを見て見ぬふりを続ける。


(おうおう。初っ端からエンジン全開じゃねぇか。フィーが困ってるだろうが…ってあれは気づいてないな…これから大丈夫か?)


「じゃぁ、昨日の続きいくぞ。教科書―――」




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