62 転校生
学園生活が開始して、二週間がすぎた。
フィリティは、今日やっと学園に登校している。
主治医のセシルからは先週中に登校してもいいと許可が下りていたが、ジョーカスとアルバートが週の途中からだと気まずいはずだと言い張って、翌週にまで延びてしまった。
目を覚ました日の夕方に五班のメンバーとナタレイシア、ヴァランティーヌに手紙を書いた。キースにも手紙を書いて、心配をかけたことを詫び、バトンの父エデルにも伝えてほしいと添えた。
アナスターシャは翌日お見舞いに来てくれた。
フィリティの顔を見るなり、瞳を潤ませて抱き着いた。
「一人にしてごめんなさいっ」
今日まで心配をかけて気に病んでいたのだろうと思うと胸が痛んだ。
「こちらこそ、心配かけてごめんなさい。もう大丈夫よ」
フィリティがほほ笑むと微笑み返してくれた。
「もうカフェテラスには、行ってしまった?」
「まだよ。カフェテラスには、貴族用の個室もあってフィーリの快気祝いをしましょうって話になっているわ」
「なんだか恥ずかしいわね。でも楽しそう!」
「ええ。楽しみにしているわ!せっかくだから快気祝いにはバトンとレジェンも呼びましょうってお誘いしているの」
「なんだか大事のようで恥ずかしいけれど、皆と一緒にワイワイできるのはきっと楽しいでしょうね」
二人でクスクス笑い合う。
このあとも他愛ない会話をして帰っていった。友との会話はやはり楽しい。
その後にもヴァランティーヌとナタレイシアから手紙が届き、皆フィリティを気遣う内容に心があたたまった。
いつものように馬車に乗り正門付近で降りる。
少し歩くと学園の塀にもたれかかってバトンがいた。
(誰かと待ち合わせでもしているのだろうか?)
まだ距離があったけれど、預けていた背中を塀から離し、フィリティに向かって手を上げた。
「よぅ、元気か?」
フィリティが走り寄る。
「おはようバトン。うん、もうすっかり。いろいろありがとう」
「ならいい。行こうか」
(ん?誰と待ち合わせだったのでは?)
「バトン?誰かと待ち合わせだったんじゃないの?」
バトンはフィリティに向けていた視線をそらした。
「あー、いいんだ。目標は達成したから」
「??それなら良いんだけど、じゃ一緒に行こう」
少し前かがみになってバトンに微笑みながら隣を歩く。
(フィーを待ってたなんて言えるわけねぇって)
フィリティが学園に来るのがトラウマになるのではと、心配になったバトンが一時間も前から待っていたことは内緒である。
* * *
あれからもうすぐ二か月が経とうとしている。
校内探検の日以来、奇怪なことは起こらず、平和な毎日を過ごしている。
予鈴がなり、いつもの女子三人と談笑していたフィリティは、自身の席に着席した。
相変わらず、窓際の一番奥の席がフィリティの席である。
春の風に新緑の香りが乗り、心地のよく肌を撫でて通り過ぎていく。
フィリティの隣の席は、入学してから空席のまま、静かに主人を待っている。
ガラガラッ
「今日も天気がいいなぁ」
キースの第一声が教室に響き、生徒も賛同する。
教壇に一限目の教材を置きながらホームルームが始まる。
座席順にひとりひとり顔を見ながら名前を呼び、出席の確認をしてはキースがニッコリと微笑む。
フィリティが一番最後。
「フィーリ・ミローリンデ」
「はい」
「今日も全員元気に登校できましたっと!Aクラスは出席率から優秀だな!がははは」
いつもながらキースも生徒に負けず元気がいい。
「よし!じゃぁ今日は転校生を紹介するぞぉ~」
その言葉にあちこちで声が上がる。
ようやく、隣の席が埋まるらしい。
「ほらほら、お前ら廊下まで聞こえるだろうがっ!男子諸君残念だったなっ!転校生は、男子だ」
男子と聞いた瞬間、今度は女子がキラキラした熱い視線を教室前方の扉に向けている。
フィリティは、こういったことに淡白で自身の生活に影響がなければ、それでいいぐらいに思っている。だからこそ、皆が熱い視線を向けるのとは別に窓の外を眺めていた。
「よし。いいぞ、入ってこい」
キースが転校生を教室に引き入れる。
そのとき、窓から強めの風が吹きカーテンがフィリティの視界を隠した。
その間に転校生が教室に入ってきたらしい。
うねるカーテンで彼は見えないが教室に響く黄色いため息のような歓声。
「自分で自己紹介ぐらいしろよ」
何やら先生に促されているらしい。
前の席のバトンが「なっなんで…」とつぶやく声が風に乗りフィリティの耳に届いた。カーテンで遮られているが窓の外へ視線を向けていたフィリティは、教壇へと向きを変えた。
そこでやっと風が弱まりカーテンがひらひらと、窓に吸い寄せられるように戻っていく。
そこで転校生の彼と目が合った。
「ジョルテクス王国から来ました。アルール・オルフェッディオです。遅くなりましたがAクラスのみんなと一緒に学びたいと思います。よろしくお願いいたします。」
感心のなかった瞳は、大きく見開き、思わず口に手を当てる。
「……アル?」
ささやくような…そんな声すらもアルールは、拾うのだ。
「やぁ、フィーリ。君と同じクラスになれてうれしいよ」
クラス全員が一斉にフィリティへ向く。
その中には『なんで知り合いなのよ?』と言った視線がほとんどだったが、ヴァランティーヌ、アナスターシャ、ナタレイシアの三人だけは、ニヤニヤしたり、口だけで“やったね”と言っていたり、うっとりと手を頬にあて二人を交互に見ていたりと三者三様の反応を見せていた。バトンの表情は伺うことができない。
「なんだお前ら知り合いか?ちょうどいい。ミローリンデの隣がオルフェッディオの席だ。いろいろ教えてやれ」
知っているはずのキースもニヤニヤしながらアルールを先に促し、指定された席へ歩みだす。
フィリティには、時がゆっくりとゆっくりと進むように瞳に流れる。
「すぐに会えるって言ったでしょ? 今日からよろしくね」
フィリティにだけ届くように小さな声で言い、さりげなくウィンクしたアルールを見て、頬を赤く染めたのだった。
やっと第一章の終わりに繋ぐことができました。
大変お待たせしましたm(_ _)m
ジョルテクス王国王立学園では二年生になるアルドルトですが、二年生として編入してしまうと周りの年齢も上になるので一年生として入学しまています。これはアルドルトだけではなくジョルテクス王国とアンジュール国での留学の際の規約になっています。ただ、本人の希望でそのままの学年で転校することは可能です。ただし、自身の学年より上の学年を選択することはできません。




