57 校内探検2
五分後、私たち五班は音楽室の前に着いた。
レジェンが興味深々に校内図を片手に“俺やっていい?”と聞いて来たので全員で肯定した。
ドアノブに紙を当てる。三秒も待たずにガチャリと金属音と共に鍵が解除された。
「本当に開いた…すごい」
「本当に開くんだね!!凄い凄い!」
「これは、便利ですわね」
「合鍵に使いたくなるぜ」
それぞれが感想を述べて、音楽室内に入る。
「わぁ!!ひっろーーーい!」
中に入ると入口に似つかわない広さで、オーケストラが何組入れるのかと考える。棚には楽器が入ったケースがずらりと並んでいる。
棚は三段造りになっていて、その上には楽譜と思われる冊子が同じようにずらーーと並んでいる。この光景は圧巻だった。
「ピアノが八台もある…」
「八重奏ができそうですわね」
「入る時にこんなに広いなんて思わなかったね!」
「見てください。ちゃんと印が付きましたわ。次に行きましょう」
アナスターシャが校内図を見て印がついたことを確認する。全員がちゃんと印があることを確認し、音楽室を出ようと扉に向かう。
最後にフィリティが外に出るとガチャリと鍵がかかる。
再度、バトンが紙を当ててみたが開くことはなかった。
「二度目は開かねぇんだな」
「だから先生は、二度もいかないようにとおっしゃったのでしょうね」
「二度も行ったら時間のロスだな。絶対に一度で全員が印をもらおう。もし誰かの印がつかなかったら全員が戻ることになるからね」
レジェンの話を聞いて“気をつけなきゃね”とフィリティは心の中でつぶやいた。
*
順調に教室を回り、あと図書室で全教室制覇となったフィリティたち五班。
途中ほかの班ともすれ違い、お互いの進み具合を交換しあった。
『げっ五班はやくねぇ。まだオレら半分だぜ』
『二班にもさっき会ったがなかなか早そうでしたわよ』
『おい一班!頑張ろうぜ!』
皆、それぞれに一番のりを目指して、翻弄している姿が楽しい。
「なんだかこういうのって楽しいですわね。ふふっ」
「あぁ。地味だなと思っていたが、相手がわからないからこそ面白いのかもしれないね」
レジェンもアナスターシャも嬉しそうに笑う。
「ま、一番はオレたちがもらってやろうぜ」
ニカッと笑うバトンが一番楽しそうで、フィリティも一緒に笑った。
五班最後の鍵はフィリティが開ける。
図書室の扉は、今までのどの扉よりも大きくて立派だった。
木目に繊細な模様が木彫りされていて、遠くから全体を見れたらきっと意味のある模様になりそうだった。近くまで来てから気づいたので、今度、ゆっくり遠くから眺めてみようとフィリティは思う。
「この扉…なんか意味がありそうなものが描かれてるよな」
「バトンもそう思う?」
「あぁ。今は時間がねぇから、今度一緒に見に来るか?」
「それはぜひ俺も一緒に来たいな」
「あら?抜け駆けなんてひどいわ。私も一緒ですよ」
四人で見合って、女子は、ふふっと鈴の音が転がるように男子は、はっはっとにぎやかに笑う。
扉を開いて中に入る。
図書室は、薄暗く扉を開けた外の光で中を照らしている。
「今日は、図書室やってねぇのか?」
「まだ入学式の翌日ですからね。司書の先生がまだなのかも?」
「皆この図書室に来たんだよね。真っ暗で中がみえないね」
「でも、とっても広そうですわ。今度、どんな書籍があるのか見に来るのが楽しみですわね。知ってます?アンジュール国王立学園は王城に続いて書籍数が多いんですのよ」
「アナは詳しいんだな」
「父の受け売りですわ。学園を管理しているゴーリック公爵家が図書室の管理責任も担っているとか」
アンジュール国王立学園の理事長は、ゴーリック公爵家の身内が代々取り仕切っている。今はヴァランティーヌの叔父にあたるオルノア・ゴーリックが務めている。
「そういえば…」
そこでフィリティは口を閉ざす。
皆の注目を浴びてしまって苦笑いをする。
子爵家を名乗っているフィリティが公爵家の情報を口にするなど常識的に考えてないことだ。
「どうされました?フィー」
レジェンが首を傾げて、不思議そうにその先を促してくる。
「ううん!なんでもないの!思い出したことが違うことだったの。思わせぶりしちゃってごめん」
「そういうことよくあるよね。同じところだと思っていたのに実は違う場所だったとか」
「うん。そんな感じ。ごめんね」
「フィーこそ、気にしないで。あっ!地図に印ついたみたいだよ」
各自印を確認し、全員が頷いた。
「次は、開館しているときにこようね!」
図書室から順に外に出る。
いつもフィリティが部屋を一番最後に退出していた。理由なんてない。
図書室でも例外なく、フィリティが最後尾にいて、退出しようとドアノブをつかんだ時、予想外のことが起きた。
後ろからつかまれるようにして、フィリティの身体が引っ張られる。
「!!!」
声を出す間もなく、目の前の扉が閉まり始める。
持っていた校内図が手から滑り落ち、扉の明かりが徐々に細くなっていく。明かりが細くなる光景と重なるように、校内図が下から上へと音もなく燃え、消えていく。それはスローモーションのようにフィリティには見えた。
ガチャリ…
フィリティの前にいたバトンが金属音に反応して、後ろを振り返ると、そこにフィリティは、いなかった。
「…フィー?」
暗闇の中…フィリティは立ち尽くす。
肩越しに人の気配を感じているけれど動くことが出来ない。
《 や っ と み つ け た 》
空間に声がこだまする。背筋が凍るようなその声を聞きながら、フィリティは意識を手放した。




