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51 あの日以来



 どのくらいの時が経過しただろうか。

お互いの体温が心地よく感じ始めたころ忘れていたルーが鳴きだす。


ニーニーニー


ゆっくりと身体を離し、アルドルトがフィリティの顔が見えたのと同時にコツンと額に自身の額をくっつけた。なかなか瞳を合わせないのでアルドルトは瞳が合うまで動かない。

挙動不審だった水色の瞳がやっと緑色の瞳と交わる。


淡いキャンドルの灯が潤んだ瞳を照らす。

頬も赤みがさしているのだろう。キャンドルの灯に交じっていて、分かりづらさは否めない。それでも至近距離だからかほんのり熱を感じる。


「「………」」


「……もう…逸らさないで…」


フィリティが恥ずかしさで今にも泣きだしそうにクシャリと表情を変えた。

アルドルトは息を呑んで、奪い取るようにフィリティの唇に自身の唇を重ねる。


「っふ……ん…ん…」


婚約者になったからなのか、人生初のキスとは違い、深く長い。

呼吸の仕方がわからずに苦しく感じた時、一度、唇が離れる。

はぁはぁはぁと、乱れた呼吸を整えるのに彼女は、必死だった。


「…先に煽ったのは…フィーリ…だから…」


そういうなり、まだ呼吸が整いきらない彼女の唇を再び彼は奪う。


ビィービィービィービィー


ルーが鳴く声も気にならないほどに口づけに夢中になる。

やっとお互いを離した時には、ルーがアルドルトの髪をクチバシで器用につかんで引っ張っていた。

乱れた呼吸と潤んだ瞳でアルドルトを見ていたがフィリティがルーのその姿をみて、ふふっと笑った。


「……ごめん」


「ううん……アル…ありがとう…」


「!!!」


触れ合いたかった気持ちはフィリティも同じだった。一年もの間、会うことはできず、再会は叶ったもののあの状況。明日にはもう会えなくなる事実。

フィリティにとっても明日から溢れる()()への想いを一時的とはいえ、閉じ込めて過ごすつもりだった。


恥じ入りながら微笑む水色の瞳が綺麗でアルドルトは視線を逸らした。これ以上、フィリティの可愛い言動に揺らぐわけにはいかない。

自ら逸らすなと言ったにもかかわらず視線を外し、その先にルーがいて、アルドルトは困ったように苦笑しながら“ルーごめんな”と謝った。


フィリティは、入室時の寂しそうな表情が嘘のように何か吹っ切れたような笑みを浮かべている。

心にアルドルトを充電できたらしい。対するアルドルトは、自身の理性と戦っていた。


コンコンコンっ


扉が叩かれ、外からエリーが『姫様そろそろお時間です』と、声をかけてきた。


フィリティは立ち上がり扉の前へと足取り軽く進める。彼女の動きに合わせ飛び立ったルーは、真上を旋回してから肩に停まった。

アルドルトは今、立ち上がることが出来ない。視線だけを向けフィリティの背中を見つめる。


「アル…おやすみなさい…」


就寝の挨拶を告げてから扉を開けた。

外からの明かりがやけに眩しくて、フィリティがどんな表情をしているのかよくわからない。


「おやすみ…フィーリ…また明日…」


そう言うのがやっとだった。

アルドルトの言葉を聞いてからクルっと身体を回転させ、蜜色の髪が艶めきならが舞う。

パタンっと扉が閉まり、音だけが部屋に残る。


フィリティの気配が遠ざかって行くのを確認して、アルドルトは盛大にため息をついた。


「はぁぁぁ」


ソファの背もたれに埋もれるように体重を預けてつぶやく。




「……僕…これから先、耐えられるかな………」




* * *




 扉を閉めたフィリティは、ガクンっと膝の力が抜けて座り込む。

エリーは、その様子を見て近くにいた国王直轄の近衛騎士を瞳で呼び、人差し指を唇の前に立てながら指示を出す。ジーナもテキパキと動いていた。


エリーがフィリティに近づき耳元でささやいた。


「移動します。姫様、しばし辛抱を」


無言で近衛騎士がひょいっとお姫様抱っこで持ち上げ、フィリティになりすますように足幅を意識して私室へ連れて行く。


両手で顔を覆うフィリティを見ないように配慮し私室のソファにおろし、騎士は去った。

エリーは、ソファに座るフィリティに温かいホットミルクを入れて、そっと机の上に置いた。


「姫様、ホットミルクをどうぞ」


「………ありがとう…」


カップを手に取り口にする。


“ふぅ~”と息を吐きながらカップに視線を預ければ、先ほどの口づけを思い出してしまう。

ボッと音が鳴っているのではと錯覚するほど顔に熱が集まり、やがて全身を駆け巡る。


「姫様。よかったですね。これでしばらくは心も温かいでしょう」


「………」


エリーの言葉が羞恥心をさらに書き立て、また顔を覆う。

エリーが薦めてくれなければ、こんな気持ちにもなれなかったと思い直し、消え入りそうな声でもう一度“ありがとう”とエリーに贈った。


慈愛に満ちた笑みでエリーはフィリティの言葉を受け取る。


(エリーは、姫様第一主義ですゆえ…アルドルト殿下には申し訳ありませんが…これからもお付き合いくださいませね)


客間にいるアルドルトの心情を思い、心でつぶやくのだった。



蒸し暑さが身体に来ますね。

皆さんも御身体御自愛下さいませm(_ _)m

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