48 カイル
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夕食の準備ができたと部屋付の侍女ジーナが呼びに来た。
外交用の騎士服に身を包んだアルドルトは、そのままジーナの案内で大広間の扉の前に着く。
そこでジョーカスと会い、共に大広間へ入った。
すでに、ミシェル、アルバート、カイル、フィリティが着席している。
晩餐の席は円卓で、ジョーカスが一番奥に座り、右からアルバート、フィリティが続き、アルドルト、ミシェルそしてカイルの順に着席。アルドルトの正面にジョーカスが腰を下ろしている。
円卓は、お茶会での定番で、晩餐の場では長方形が一般的で珍しい。ジョーカスが目配せするとファーストドリンクが配られる。皆がグラスを持ちジョーカスが挨拶をする。
「今宵は、アルドルト殿下がフィリティと婚約した記念すべき日。祝の席だ。新しい家族となるアルドルトとより縁を深くしたいと、我妻ミシェルの発案による晩餐会である。皆、楽に王族間の絆を深めようぞ。乾杯」
乾杯と同時にグラスを軽くあげ、和やかに始まった。アルドルトは、全員と瞳を混じり合わせながら視線で挨拶をする。フィリティとの挨拶だけ間が長い。
前菜に生野菜を使ったサラダが振る舞われた。アルドルトは目を丸くする。
「見慣れないわよね?お母様が考案したものなの。このシャキシャキしているのがレタスよ。ほら、よく湯煎された葉が巻かれたものがあるでしょう?火を通さないとこれになるのよ」
「あぁ、それはヤングコーンよ。小さいとうもろこしだと思って。柔らかいから芯まで食べれてしまうの」
「こちらはラディッシュね。丸くて周りは濃いピンク色をしているのに中は真っ白なの。ふふっ不思議でしょう?」
フィリティがアルドルトのために馴染みのない野菜の数々や調理法を説明する。
「生野菜そのままでも私は好きなの。でも特製のドレッシングをかけると、より野菜の甘みが強調されて、捨てがたいのよ…って…ア、アル?」
ひとつずつ自分のために説明してくれるフィリティの優しさが愛おしくて、つい見入っていたアルドルトに気づいて不思議がる。
「ふふっ。世話焼き女房みたいね。フィーちゃん」
「っ!!」
ミシェルの言葉に頬を染めて、目線を下げた。シュンっと小さくなる姿を見た男性陣からのアルドルトへの視線が痛い。
「いつもそんな感じなのですか?姉さま」
普段見ることのないフィリティの表情に発言がほとんどなかったカイルが口を開いた。
「いいえ。こんなに恋するフィーちゃんは、アルくんがいるときだけね」
ミシェルがフィリティをみながらカイルに返答をする。
「…ふ~ん。そうなのですか…」
“悔しい”とつぶやいたカイルの声は周りには届かないほど小さな小さな声だった。
* * *
僕の姉さまは、努力家で博識で…それなのに全く偉ぶらなくて、弟の僕にいつも優しくて…。
いろいろな優しさがある中で、時に優しさは残酷だ。
相手によかれと思って接し、優しさを分けてあげた。
なのになぜか相手とは解釈が異なり、誤解が生まれ、思わせぶりだと責め立てられる。
喜ぶ顔が見たかっただけなのに。助けを求められたから助けただけなのに。
勝手に勘違いしたのは、相手の方なのに。
何度かそういう事があって人との関わりに悩んでいた。
それから姉さまや兄さまを観察した。
姉さまの優しさは、僕とは違った。
一から十を教えるのではなく、相手に考えさせながら、相手を導く絶妙なタイミングで助言をし、自らの力で解くように誘導する。
姉さまの優しさは、難しかしいけど、いいなって思う。ただ与えるだけよりも素敵だなって。
僕が愛読している本の言いたいことが分からなかったとき姉さまを頼った。意味がわかったとき、姉さまのおかげなのに僕が頑張ったから読み解けたのよと褒めてくれた。
初めて教わったのは、フォークやスプーンの持ち方。それからテーブルマナーに虫の捕まえ方。辞書の引き方にトランプの遊び方。
女の子には優しく、でも意思をしっかりと。もちろん相手に流されない。
僕は姉さまにたくさん教えてもらってきた。
今では女の子のお友達が増えてしまった。本当は一番僕をみてほしいのは姉さまだ。僕が助けたいのは姉さまだけだ。
何度か隠れ家に行きたいってねだってみたけど、アルバート兄さんに止められた。なんでなの…僕は姉さまと一緒に外の世界を学びたいのに。
そんなこんなしている間に隣国のアルドルト殿下と婚約してしまった。
いずれ姉さまは、隣国へ行ってしまうのでしょう?
僕は、いつまで大好きな姉さまと一緒にいれるのかな。
返したい恩がたくさんあるのに…。
弟は僕だけだ。
僕の姉さまもフィー姉さまだけ。
婚約者の横で気恥ずかしく縮こまる姉さまは、まるで別人だ。こんな姿、見たことがない。
僕の知らない姉さまがアルドルト殿下の前だとたくさんあるらしい。
悔しい。
僕も姉さまの可愛い女の子の顔を見たい。引き出したい。
あぁ。僕は今、嫉妬してるんだ。
姉さまを取られたから。
「カイル」
名を呼ばれるまで周りの声が聞えなくなったいた。
アルバート兄様が僕を見てる。
《フィーの弟はお前だけだ。お前の姉さんもフィーだけだ。いいな》
読唇術が出来る僕に向けた言葉だった。それから姉さまを見る。
「カイル?」
コテンと首を傾げて微笑みながら僕を呼ぶ姉さま。
兄様が妹を溺愛していると聞いたことがある。この気持ちは、それと同じなの?かな。それとも…。
「姉さまは、僕のこと好きですか?」
「もちろんよ。カイルが大好きよ。私のたった一人の弟なのだもの」
今はそれで十分だ。
だって姉さまの弟は世界で僕だけ。
「僕もフィー姉さまが大好きですっ!」
僕が笑えば姉さまが笑顔で返してくれる。
姉さまの隣のアルドルト殿下が僕を見て微笑んでいるが目が笑っていなかった。
それでも僕は、自分の意思を曲げない。
姉さまが悲しむから姉さまと一緒の時だけ笑ってあげる。
そんな僕は、アルドルト殿下を好きになれるだろうか…。




