46 息子たち
「これは、誠に起こること。避けられぬことなのだ…信じがたいがな」
「王立学園には強力な結界が張られ、よほどのことがない限り破ることができないと聞きましたが…」
「外部からはな」
「っ!!」
「内部から攻めることで結界を弱め、外部から攻撃し破壊することが残念なことに可能なのだ」
「そ…そんなっ!」
「結界はあくまで保険なのだ。完全ではない」
「じゃぁ!フィーを学園に通わせなければいいじゃないですか!?」
「予も思考しなかった訳ではない。しかし、それではフィーの才能は開花せずに命を散らすだろう。相手にとって邪魔な存在であることには変わりはないのだ」
「だから…剣術を指導したのですか?」
苦々しい表情でアルバートはジョーカスへ問う。
「っ!!フィーリが剣術を?」
アルドルトは、フィリティが何かを始めたことに薄々気づいていた。知るのが嫌でフィリティに聞かなかった。
守るのは、アルドルトだけがよかったから。
「結果的にみればそういうことになる。だが言い始めはフィーの意思よ」
「…くそっ」
アルバートは拳を握り、真剣に剣技を極める妹を思い出す。
(万一のことだと思っていたのに。万一じゃないなんて思いもしなかったな)
ここまでの話になると見方を変えて考えなければならない。
フィリティは、どこまで出来るのか、どこまで通用するのかをすり合わせる。
学園では、手助けしてくれそうな友人はいるのかも必要になる。
「ミシェルが茶会にて三家とは、学友になりうるだろうと話しておった。とても仲良くしていると聞く。従姉弟のヴィラフォンテーヌもおる。また、サンカルミに住むバトンも王立学園への入学を予定している。やはり鍛冶師とのつながりは戦には必要不可欠であり、男手はあるに越したことはない。本人は知らぬがな」
バトンの名を聞き、アルドルトの周囲の気温が一気に下がる。
「シメリアンテ国だけではない。王族とは常に狙われる立場。例え王位継承が低くとも貶めようとする貴族も多い。フィリティは素直だからの。シメリアンテ国の件がなくとも心配は尽きぬ。教師に一人知り合いを送り込んどる。そなた等も知っておる。頼りにせい」
「父さん、兄である私は…どう手助けと?」
「そこは今潜行しておる。しばし待て」
「………」
アルバートは不満がにじみ出た表情で父を見ている。
「フィーはもちろんだが、お主らもフィーを狙う者たちを阻止することになるゆえ、危険なのだ。フィーには利用価値がある。すぐにどうこうされぬだろう。しかしお主らは異なる。そこを見誤ってはならぬのだ。わかってくれるか?」
フィリティのことで冷静に考えられなくなっているアルバートに対し、アルバート自身も危険であること。ヘタをしたらフィリティよりも命が危ぶまれることを父であるジョーカスは危惧している。それはアルドルトも同じ。
アルバートは、先ほどの不満顔から考えていなかった自身の立場を思い、口を閉ざす。
「二人とも予の大切な息子たちよ……そろそろ戻らねばならぬな」
「「………」」
息子と言われ、つい先ほど婚約者になったことを思い出す。想像を遥かに越える内容に喜びに浸る間もなく過ぎてしまった。
「お主らがそんな顔をしていたらフィーが心配するぞ」
ジョーカスが息子二人の神妙な面持ちを見て、困ったように微笑んだ。
ビィービィービィー
「「「っ!!!」」」
三人がギョッと窓の方を見る。そこにはヤマガラのルーが居た。
窓は開いた形跡はない。どこからやってきたのか…いつからいたのか…。
「…ルーよ。いつから居ったのだ?」
ニーニーニー
「っ!!!」
反応できるのは、一人しかいない。
息を呑むアルドルトをジョーカスは見過ごさなかった。
「アルドルトよ。もしや…ルーが何を話しておるのかわかるのか?」
「………」
「無言は肯定とみなすぞ?よいな」
ミシェルがジョーカスにルーのことも話していた。
『はっきりとはわからないが、何かある。普通の鳥ではないと勘が訴えている』と。
(「光と影の彷徨~心に虹を輝かせ~」にヤマガラは登場しない。ましてや保護してペットになるなんて…。これも俺達が変えてしまった未来なのか)
「ふむ。アルドルトよ。今は良い。また別の時にでも聞かせてくれぬか?」
「……はい。わかりました」
「フィーを頼むぞ」
「はいっ」
* * *
「ねぇ、どう?婚約者になってみて」
貴賓室に残ったフィリティとミシェルは、今までのことを聞いたり、その時々の気持ちをすり合わせていくように語り合う。
女同士の恋の話。盛り上がらないわけがない。
基本的にミシェルが質問し、フィリティが恥じらいながら答え、ミシェルが絶叫するというパターン。
先ほどの大泣きを思い出すと、情けなく気落ちした様子を見せる。それと同時にアルドルトのプロポーズを振り返り、赤面し瞳をうるうると、恋する乙女になる。
ミシェルはそれを見ているだけで幸せになり、自身にはなかった恋の期間を娘は楽しめただろうかと思いながら耳を傾けていた。
盛り上がっていた女子会にコンコンコンっと扉をたたく音が割る。
「どうぞ~」
ミシェルが答え、アルバートとアルドルトが入室する。
いつ見ても正装姿のアルドルトにうっとりとした視線を向けてしまう。その眼差しを受けて、アルドルトは慈愛に満ちた瞳で見つめ、微笑み返す。
「まぁまぁ、お熱いことね」
ふふっと笑うミシェルにアルバートはムッとしている。
フィリティとアルドルトは、二人の反応に気恥ずかしくなり、お互いに視線を逸らした。
「で、ジョーカスはなんですって?」
「今日は泊っていくようにと。父様と今後のことも少々話してきました」
「…そう」
表情を曇らし、視線を下げる仕草を見せたが、それはほんの一瞬。いつもの明るいミシェルに戻る。
「今夜のディナーは豪勢に行きましょう!料理長と話をしてこないとね」
部屋を出ようとして、ミシェルは何かを思い出し、フィリティに近寄り耳打ちする。
「残念ね…せっかく側にいるのにいちゃいちゃできなくて」
バッと身体を離した。
気を抜いている時こそ、狙い時だとミシェルはウィンクする。
恋に翻弄された日々をフィリティは忘れない。これからも振り回される事に覚悟なんて出来ない。
「お母様…」
フィリティは、いろんな思いを乗せて横目で睨むことしかできなかった。
視界の片隅にルーがいた。
どこからともなく、やってきてフィリティの左肩に乗った。
アルバートとアルドルトは、表情に出さずに驚いていた。
ルーは、つい先ほどまでジョーカスの客間にいたのだ。客間から出た形跡はない。
窓辺からジョーカスが扉を閉めるまでこちらを見ていたのだから。
ニーニーニー
「ルーもご馳走用意してあげるからね」
アルバートがアルドルトに耳打ちする。
「…今なんて言った?」
「後程お話します」
ミシェルはそのやり取りを静かに傍観していた。




