36 緊急ミーティングという名のお茶会
「いったいどういうことですの?」
「私たちにも全くわかりませんね」
「あの表情…きっとフィーリはしらなかったんだろうな」
デビュタントから間もない週末にゴーリック公爵家の客間でヴァランティーヌは、アナスターシャとナタレイシアを呼び、緊急ミーティングを開いていた。
ヴァランティーヌの双子の弟ヴァランタも同席している。
『デビュタントに参加して、私たちと一緒にいたんだ。共に話をするべきだ』
ヴァランティーヌに強制的に連れてこられて、ヴァランタは静かにお茶を飲みながら傍観していた。
「アルドルト・ジョルテクス殿下ってどんな方ですの?」
アナスターシャが全員を見回しながら問いかける。
「私もあまり存じ上げません。隣国の第二王子殿下ということと、今、王立学園へ入学し勉学に励んでいるということのみです。また、あちらの学園では、王子であることを隠して生活されているようですよ」
隣国の親戚がアルドルトと同じ学園に通っている。入学式の通達は全生徒共通事項だった。
ナタレイシアも自国の王立学園入学を控えていたために話題になり、王子に関する話を聞いていた。
「…変わった方ですの?」
アナスターシャが怪訝そうに声を潜めて三人を見渡す。
「いや、王命でということらしい。元々公務も城内以外ではされていないらしくてな、知っている人の方が少ないらしい」
即座に回答したのは、腕組みをして考え込む姿勢のヴァランティーヌ。普段なら頬杖をついて表情を変えないのだが彼女なりにフィリティを案じている様子が見てとれる。
「もうこれは決定事項なのですよね?」
「皆のところにも通達が来たと思うがそのように書いてあった」
「「………」」
皆が沈黙する。
それぞれがフィリティを案ずる沈黙である。
「…あのさぁ、なんでそんなに不満なの?第二王子でしょ?全く身分にも問題ないし、いいじゃん」
傍観していたヴァランタが口を出した。
ヴァランタにとってどうでもいいと言っても過言ではないこの緊急ミーティング。
それも当然。ヴァランタは、フィリティの恋の経過を知らないのだ。
昔は一緒に遊んだりもした。物心つくころから交流が減り、フィリティへの印象は、歳の近いただの親戚の子だった。
そうなったのは、フィリティを溺愛する兄アルバートによって、交流を阻止されていたからに他ならない。
ヴァランタを女子三人が一斉に睨む視線が突き刺さって痛い。
場の空気に気圧される。
「な…なんだよ?」
返答する当たりかなり度胸が据わっている。
それもそのはず、アルバートの圧にも耐えてきたヴァランタは、このぐらいでは怯まない…はずだった。
(ヒィッ!!!)
アナスターシャのただならぬ殺気に息を呑んだ。
「ヴァランタ…とても大事な話をしてやる」
姉の低い低い声にただ黙って、フィリティの恋の話を聞かされたのだった。
「――ということだ。わかるか?フィーリは今、想い人とやっと…やっと結ばれたところなんだ。しかもまだあの日から会えていないと言うじゃないか!!あれから一年だぞ?」
姉さんからの力説に俺は、口を半開きのまま、ただ黙って聞くことしかできなかった。
俺もまだ恋ってやつを知らない。それでもわかる。なんだ恋愛小説みたいなこの話は?
本当にそんなことってあるのかと、俺は思った。姉さんたちには悪いけど。
まぁ、姉さんたちがフィーリのことが大好きってことはよくわかった。
姉さんたちが気づいていないことにも気づいてしまったようだということも。
そのアルってやつは、きっと第二王子アルドルト・ジョルテクス、その人だと。
なんで気づいたかって?
こういう恋愛小説には《スパイス》が必要なんだろう?
あーー、これ…あれだ。原因は王妃様だ。
だって、この国のトップは、皆フィーリ大好きだからな。
フィーリが悲しむことなんてしないだろうよ。
なんで王族がそんなめんどくさい暮らしをしたがるのか俺にはわからないけどさ。
王妃様と仲いいんだろ?隣国の王妃様。
ならさ、そうなっても…不思議じゃぁないよな。
それにさ、フィーリもアルドルト殿下も二人そろって表舞台に出てないし、絵姿も出回ってないし、もう計画的じゃん。
……うん。たぶん俺の仮説はあってる…と思う。
だとしても、この話…する? 今する?
俺、いやだよ?面倒くさいのに巻き込まれるの?
王妃様がらみってことは、アルバート兄さんだって知ってるんだろう?
俺、あの人憧れてんだよ。
それにフィーリのこと大好きすぎるじゃんアルバート兄さん。
憧れてる人が口ださないんだから、俺もこれは、黙っといた方が無難だな。
「おいっ!ちゃんと聞いてるのか!?」
あ、やばっ!姉さんの話に集中してないのバレた!
「ちゃんと聞いてるよ…」
あーあ、早く帰りたいなぁ
ヴァランタは、公爵家の次男です。アルバートが小さい時からフィリティからヴァランタを遠ざけるために試行錯誤して、かなりの教養を教え込んでしまったため、めちゃくちゃ頭が切れます。そして将来はアルバートの補佐として力になりたいと思っている可愛い少年です。




