35 ジョルテクス王国王立学園1年A組
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R6.9. 9 一部加筆しました。
デビュタントが滞りなく終幕を迎えた。
フィリティ第一王女は、この世界に降り立った妖精とまで噂になり、それは近隣の諸外国にまでとどろいていた。例外なく隣国ジョルテクス王国にも。
ジョルテクス王国王立学園一年生の教室。
朝からクラスでは、隣国のデビュタントの話題で持ちきりである。
それもそのはず。
自国の第二王子が噂の妖精の婚約者に名が挙がったのだから。
* * *
入学式で、理事長から聞かされた衝撃的な挨拶。
『新入生の中に母国第二王子アルドルト・ジョルテクス殿下が入学された。国王の命により、身分を明かす事なく一学生として、様々な視野で学ぶ機会を与えたいとのことで、この場では殿下の紹介はしない。もう一度言う。王命を受け、我が学園では殿下をこの場で紹介しない』
アルドルトは、アルールとして、入学していた。
髪色を変え、メガネをかけるだけの変装だった。
公の場への出席もほぼなかったため、知名度は低い。それが層を奏している。
会場がざわつき出し、周りをキョロキョロ見渡しだす生徒たち。アルールも周りの生徒に溶け込むべく似た動きをする。
(意外とバレないもんなんだな)
理事長と目があった。彼はアルールの行動に《さすがです》と一瞬苦笑しながらスーッと表情を戻し、挨拶を続けるべく、ざわついた空気をピシッともとに戻した。
* * *
『一年A組一番』
これがアルールのクラスでありクラス番号だ。
クラスに関しては、成績と貴族の爵位によって割り振られている。クラス番号のみ、その学年の教師たちによって決められていく。
第二王子の正体は、理事長を始め幹部数名と一部の教師のみに知らされている。
ほとんどの教師は知らない。
最初の授業で自己紹介をした。
『はじめまして。アルール・オルフェッディオと申します。国境付近に家があり、自然豊かな土地で育ちました。よろしくお願いします。』
無難な挨拶だった。
あそこでの生活のおかげか、高位貴族令息にはない振る舞いが出来、誰も第二王子だなんて疑うことはなかった。
* * *
もうすぐ一年が経とうとしている今も学生でアルールの正体を知るものはいない。
そんな平和な学園に突如舞い込んだビッグニュース。
学園全体で王子探しがあった四月のようなソワソワ感はない。
この日を今か今かと待ち望んでいたにも関わらずアルールは、なにかと落ち着かない。
「アルール〜!おはよう!!」
「おはよう。セリフォス」
クラスメイトのセリフォス・フロンジャート公爵令息が声をかけてきた。
二人は、魔法の授業で行われるペア作業の相手になった。さっぱりした性格や魔法の相性がいいことから仲の良い学友となった。
彼が今後アルドルトの時に何かと関わりのある公爵家であることを知っていた。
入学してから彼の人となりに触れながら、友好を深めてきた。今では、名実ともに学友である。
第二王子の正体は時を見てこっそり打ち明けようと思っている。
アルールは、一年前に比べて背が伸びた。もうフィリティを完全に見下ろす自信がある。喉仏も立派に存在を主張して、声変わりも終わりに差し掛かる。ワントーン下がった自身の声に未だ慣れることはない。
「なんかさぁーめちゃくちゃ話題になってんな!第二王子!」
《第二王子》と言うフレーズに反応しそうになるのを堪え、返答をする。
「そりゃぁ…まあな。むしろ話題にならない方が怖くないか?」
「まぁ確かにそりゃそうか!でさぁー噂の妖精様だけど…今度、俺会えそうなんだよねぇ」
「……今、なんて?」
「だーかーらー、噂の隣国のお姫様に会えるんだよ」
「………」
「っ!!?そんなに殺気立つなよ?なんだ?羨ましいのか!?」
「…そりゃぁ、僕も会いたい…」
「会いたい?会ってみたいの間違いじゃねーか?」
「そ、そうだよ!で?なんで…会えるんだよっ?」
(なんか今日のアルールは、つっかかってくるな。いつもなら《そうなんだ》とか《よかったな》なのによぅ。まっ!さすがに噂の妖精には興味津々ってことか)
「俺さぁー、あっちの国に婚約者いるじゃん?アナスターシャ公女。今度向こうの王立学園に入学するんだってよ。でさ、俺も短期留学しろって親父に言われて、まぁ短期留学だから行ってもいいかなって思って、連絡してたわけ。そうしたらさ、アナスターシャ公女は、噂の妖精の友人らしんだよ!紹介してもらおうと思ってよ!んん?なんつー顔してんだ?」
以前、手紙にセルフォスの話をするとフィリティからの返信に親友の婚約者がセルフォスだと書かれていたことがあった。
(おいおいおい…お前も行くのか?アンジュール国王立学園に…)
胸の内ポケットにしまった学生証に無意識に手を当てていた。
誕生日におばさんから贈られた幼い彼女の絵姿を一枚選んでそっと収めていた。
「まっ!そういうことで、二年の夏から行くことにしたってわけ。いいだろう?いいだろう!」
(こいつが…フィーリの学友になるのか…)
この日、アルールはセルフォスに無闇に殺気をぶつけたのだった。
* * *
「…アルドルト・ジョルテクス」
私は、ベッドに仰向けに身体を預けて、天幕を見つめながらつぶやいた。
ニーニーニー?
ルーが私を気遣ってくれているのがわかるけれど、私はそれに反応できなかった。
突然の婚約発表。
お母様も私とアルの気持ちは知っている。
お父様にはお母様から伝えることになっていた。
『任せて頂戴。男親は娘から言われると衝撃を受けてしまうものなの』
あの日…そう言ってお母様はとても喜んでくれた。
クッキー頑張ったね。告白頑張ったねって抱きしめてくれた。
それからお料理にも挑戦することになって、いろいろ教えてくれた。
まさか…そんなお母様から別の男性の名で婚約発表をされるとは夢にも思わなかった。
厳密に言えば、お父様からだけど…。
お兄様の複雑そうな顔は、今でも忘れられない…。
「………アルに…なんて言えばいいの…」
両手で顔を覆う。
ビィービィー
静かな部屋にルーの鳴き声だけが響いた。
ミシェルからの誕生日プレゼントの中身を加筆しました。R6.9.8




