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31 クッキーの味*Sideアルール


朝、まだ陽が昇る前に目が覚めた。

昨日、家の裏庭に雪の家を作った。僕の誕生日だけど、フィーリにも喜んでもらいたい。

それに…ここで告白したら…。


ぼわっと全身を駆け巡るような興奮が襲う。

ここを逃せば、しばらくチャンスは来ない。

四月から王立学園での生活が始まるし、早々この地に戻ってくることができなくなる。

カーテンを少し開けて空を見た。


(がんばれ。僕)


誕生会が始まる前にフィーリとおばさ…ミシェル王妃が来訪した。

僕の好きなグラタンを持ってきてくれて、これがフィーリが作ったやつ?かもと思った。


「アル…お誕生日…おめでとう」


(いつものフィーリの笑顔にしては、なんだか…照れてる?ような?)


「ありがとうフィーリ」


するとフィーリは、急にもじもじしだして、初めて見る姿に僕は驚いたけど、可愛くて釘付けになった。


「あ…あの…あのね…」


あぁ…恥じらうフィーリ可愛い…可愛ぃ可愛い。


(ん?なんだ?)


「プレゼン…」


(ちょっちょっと待て!これはもしかして、グラタンじゃないんだ!あーそういうこと!?もじもじしてたのってそういうこと!!?)


「あーー!!あれね!あれは…後ででもいい?」



「あ…う、うん」


(よし。ここで受け取っちゃったら双子の餌食になるじゃないか。僕のための僕だけのものなんだから)


あ…なんか隠した。


(もじもじしてたのは、手づくり品をいつ出すかってことだったのか…)



* * *



そろそろ抜けても大丈夫そうだよね?


「フィーリ…誕生日のリクエストをもって、ついて来てほしいところがあるんだ」


こくんって頷くフィーリが可愛いすぎる。

この時は、ちょっとだけ上目遣いになるんだ。ずーっと眺めていたいじゃないか!



僕は、フィーリと家の裏庭に向かった。

外は少し陽が落ちてきて、だんだんオレンジ色が挿しはじめていた。


繋いだ手の体温は室内にいた時からひんやりしていて心配だった。


「ごめん。寒くない?」


「…大丈夫」


フィーリの頬がほんのり赤くなってる…気がする。

空がオレンジ色に染まり始めてるのもあって気の所為かもしれないけど。


雪の家が近づいてきてドキドキしてる。

緊張して…言葉が浮かんでこないや…。


フィーリのために…作ったんだよ。

気に入ってくれるかな。


「ここに…入ってくれる?」


外観はいい反応?かな。驚いてる。可愛い。


「きれい……それに あったかぃ…」


きれいなのは…フィーリだよ。そんなに瞳をキラキラ輝かせて…抱きしめたくなっちゃうじゃないか。


「昨日…作ったんだ。魔法で」


「魔法で?」


フィーリにそんな顔をさせられたから…頑張ったかいがあったな。


「そう。習い始めて、思ったよりも習得が早くてね。フィリティを驚かせたかったんだ」


「…驚いたわ。とても…」


今日は…いつもよりコロコロ変わる表情が可愛いすぎて…困るな。


「大成功…だね」


「っ!!」


また、この顔。

ずーっと見ていたい。


「っあ!これ…」


フィーリが袋からエメラルドに似た緑色のリボンで結われた包みを出した。


(あれは…僕の…いろ?)


(ははっ…フィーリっ……参ったな…)


「あ…あのね…あの…ね…」


小さいときのフィーリですらこんなに狼狽えたことなかったのにな。


(…期待していいだろうか…)


「……お誕生日…おめでとう…」


差し出された包みを受け取った僕は、平常心を保つ自信がなくなってきた。


「リクエストしたもの?」


「……クッキーなの…。何かって話だったけど、そんな大したものは作れる自信がなかった…し…不安だったから…」


(クッキーなんだ)


ーーねぇ、フィーリ。

ーーどんな風に作ったの?

ーーどんな気持ちで作ってくれたの?


ーーこの色にしたのはなんで?


包みを受け取り、リボンを解く。


「……僕の色だね。作ってくれて…ありがとう」


リボンを大事に胸のポケットにしまう。

そして、包みの中を見た。


いろいろな形があった。

丸型に…星型…それに……ハート型…。


「食べていい?」


声が震えそうになるのを必死に抑えた。

どうか気づかないで。


パクっと食べた瞬間からバターの風味が広がる。

サクッと音がした。

咀嚼音がやけに大きく聞こえる。

甘さが控えめで食べやすい。


「ん、おいしい」


フィーリがぱっと顔を上げ、目を見開いていた。

その顔が…愛おしくて愛おしくて。


僕の中の何かが音を立てはじめる。


奪われる可能性があることにもこの間気づいた。

目の前のフィーリが…


「ほんっーー」 


フィーリの言葉を待てなくて、ぐいっと勢いよく抱きしめた。


「っ!!!…アッルッ!?」


戸惑うフィーリを気遣ってやれない。

バクバクとうるさい心臓の脈が全身を支配している。

抱きしめる力を強くする。


「ア…ル…?」


あぁ…もうだめだ


すきだ…

すきだ

すきだ、フィーリ…


「……すき…だ…」


気づいたら声に乗せていた僕の気持ちを。

擦れた声しか出なかった。


今…僕を見ないで。

情けなくて…自信がない…弱い僕を見ないで。


腕の中でフィーリが身悶えているけど、見られたくなくて抱きしめてる腕の力を強めた。


僕より背の低いフィーリ。

バクバク…ドキドキ…心臓が…うるさい。


ーーあぁそうか…僕だけの音じゃないんだ。


「………すきなんだ。フィーリ…」


ささやくような声は、震えていた。


「………」


沈黙が怖いなんて…初めてだ。

怖い…怖い…怖い…


すると…背中に温かい何かが触れた。

ビクッと僕は不覚にも身体が反応してしまった。


「……アル。私も…私も……すきっ」


心臓が止まるかと思った。


い…ま… な ん て?

フィーリが?僕を? す き ?


また腕に力が込もる。

耳を疑いそうになる。


もう一度、聞きたい。

いや…聞かせて欲しい何度でも。


身体を離してフィーリをみる。


(なんて…顔…してるんだよ…)


僕は…破顔していた。


「…もういっかい……いって?」


聞かせて。

愛しい人の言葉を。


「アルールがすきっ!すっ」


僕の理性は…そこで吹き飛んだ。


フィーリとのファーストキスは 

クッキーの甘い味だった。




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