22 王妃の願い
何やら娘たちは、盛り上がっている様子で、声を潜めているようないないような、あんなに楽しそうにコロコロ表情の変わるフィーちゃんは久々だわ。
母親のテーブルでは、その様子を皆が微笑ましく見守っていた。
「若いわねぇ」
「若いですわね」
「我々にもありましたわね」
それぞれがそれぞれにあの頃を思い出しているようで瞳を細めていた。
話題が途切れたところでミシェルは、さっと軽く手をあげ、新しいお茶の替えを侍女たちに支持する。瞬く間にゲストのカップが新しいものへ交換された。一番にミシェルが一口飲み、周りもティーカップへと手を伸ばす。
「先ほどとは、少し異なる茶葉ですか?とても香りが立っていて爽やかな口当たり…これはどちらの茶葉ですの?」
「気に入っていただけて嬉しいですわ。パッシュリー侯爵夫人。これは…お恥ずかしながら私の手製ですの。今日のために皆さまに楽しんでいただきたくて。お土産に用意しております。よかったらお持ち帰りくださいませ」
「まぁ!手製なのですか?」
モルディブクシー伯爵夫人がカップの中を覗き込みながら一驚する。
(この方はわかりやすくて好ましいわ。ふふ)
「ええ、ジョルテクス王国の王太子妃とは学友のころからお付き合いをさせていただいていましてね。あちらの特産であるカモミールの苗を数年前にいただいたのよ。カモミールを茶葉にして就寝前に飲むと気持ちも穏やかで目覚めがよくてね」
「そうなんですね。最近寝つきが悪かったものですからとても嬉しいですわ。肌も少し荒れ始めておりましてね。悩んでいたのです」
ゴーリック公爵夫人がそう言いながら右手で頬を撫でる。
「皆そろそろデビュタントに向けての準備、学園入学に向けての準備と忙しなくなりますものね。今から気苦労が絶えないでしょう」
デビュタントは十五歳の年の二月に行われる。そして四月には王立学園への入学が待っている。中、二か月なので同じ時期にデビュタント用のドレスと学生服を仕立てることになる。
仕立て屋によっては、さばききれないため早々に予約を打ち切るところもある。
今、子供たちは十三歳で二年あるとはいえ、作製に一年かかるようなデザインもあるためあと二か月もすると人気の仕立て屋では、予約がはじまるだろう。
ミシェルは、ゲストを見回す。
(皆さんもまだってところかしら?)
「ミシェル様は、始められていますの?」
「始めているか始めていないかという問では、《始めている》のではないかしら。娘をどんな風に着飾り、デビュタントを迎えるのか。考えない日はないわ。ふふっ。楽しくてよ。学園入学についても、現時点での学業でこれからどこまで身につけ送り出せるのか。一人の母として、不安もあるけれど」
ゴーリック公爵夫人が娘ヴィランテーヌに一瞬視線を預け、向き直り口を開く。
「私も…まだ想像の中ですが、娘にはマーメイドタイプのドレスが…と、考えてしまいますね。ふふっ。今が一番楽しい時期だったことを忘れておりましたわ」
パッシュリー侯爵夫人も唇をほころばせる。
「アナスターシャもマーメイドタイプやストレートビスチェをイメージして作らせたらどうかと思っておりますの。あの子…女子の割りに背が高いでしょう?今はそうではないけれど、ちょっと前まで気にしていたんです。デビュタントでそのコンプレックスを武器にしようと思っていますのよ」
「まぁ!それは良いことだわ。きっと似合うわ。モルディブクシー伯爵夫人はどうです?」
「ナタレイシアは、元気だけが取り柄みたいなところがありますからね…そうですねぇ~。本人次第なところはありますが王道のAラインやプリンセスラインで刺繍を刺してもらおうかしら。うふふふっ。皆様と話していると楽しいですわね!」
(皆様は、子供想いの母でよかったわ。楽しそう…さて本題を切り出すかしらね)
「デビュタントが終わってすぐに王立学園への入学ね。是非その時も学友としてよろしくお願いいたしますね。私、学生生活が彩り豊かな思い出が今も胸に花開いているの。子供たちにも私が感じた学んだ学友との思い出を持って社会へ巣立ってほしいと願っているわ」
ゴーリック公爵夫人、パッシュリー侯爵夫人、モルディブクシー伯爵夫人が私を見つめる。
その瞳には、学友との思い出を宿し、子供たちの幸せを願う母の顔。
「ティーヌもそれを望んでいることでしょう」
「えぇ、もちろんですわ」
「おてんば娘ですけれど、共に」
私は微笑んだ。
王妃として、内心を悟られない笑みを。




