20 親友と出会いました
閲覧ありがとうございます!
すいません、今回も長いですm(_ _)m
パティリテ湖で保護したヤマガラは、【ルー】と名付けて、今は王宮の私の私室にいる。
なんでルーって名付けたかというと…アルールの真ん中、ルーをとったの。
だって、ずーっとお腹の茶色がアルの栗色の髪に似てるって思ってしまったから…。
だめ?だったかしら。アルもいいねって言ってくれたのだから良いわよね?
ルーは賢くて、こちらの会話が本当に通じているような錯覚になる。
これは、お母さまの言う以心伝心?というやつかしら。
毎日、寝る前に一日の出来事を話せるお友達ができたの。鳥だけどね。
* * *
十一歳の冬にバトンに誘われて「お火焚祭」に行ってきた。
なんでもサンカルミにある鍛冶の守護神を祀る洞窟があるそうで、普段は立ち入り禁止で管理されているらしい。冬のお火焚祭だけは、洞窟を解放して、秋の恵みに感謝を、冬の間の 厄除けを祈願するそう。冬は一年で太陽の恵みが一番短いことも起因しているそう。
お母さまが“稲荷神社みたいだわ”って、つぶやいていたから日本にも似たような催しがあったのかもしれない。
『どうしても連れて行きたかった』
バトンが行きの道中で熱弁していた。実際に体感して私も感謝した。
焚き上げられた炎の勢いが力強くて、熱風がその場を支配して、なんとも圧巻で、似つかわしい言葉が見つからない。不思議な力を目の当たりにした。
感激していると隣にいたバトンがツンツンと肘でこついて来て、すごいだろ?って誇らしげに笑っていた。
それから周りが炎に集中している最中、細長い小箱を渡された。
『遅くなって悪かったな』
なんのことかわからなかった私が首を傾げていたら、頭一つ分背の高いバトンが少し屈めた姿勢で頭を描きながら、訪ねてきた。
『誕生日だったろ?』
人の誕生日には敏感なのになぜか自分の誕生日は忘れがちで、侍女のエリーが誕生日当日に『おめでとうございます』と祝言を聞くまで気づかないことが多い。
そんな私が隠れ家にいると気恥ずかしくなるほどに周りがお祝いしてくれる。
バトンの瞳は、祭りの炎の灯りでメラメラして見えるのにそこに呆けた私が映り込んでアンバランスな雰囲気になっている。
感謝を述べて受け取り、開けようとすると即座に止められた。
『頼むからオレのいないところにしてくれ』と。
隠れ家に帰ってから開封した。
中身はペーパーナイフだった。柄のところにダリアが彫られ、上から赤いガラスでコーティングされていた。とても繊細でキラキラしていて見入ってしまった。
後日お礼を言いに行くと、こんな事言われた。
『まだ修行中のオレだから未完成品に近い代物でわりぃな』
職人から見たらそうなのかもしれないけれど私は、職人ではないし、本当にとても綺麗でバトンの修行の成果が詰め込まれている貴重な品だと感じた。
いつもキィじい宛の手紙が多かったから、これからはバトン宛の手紙の回数を増やそうと思う。
バトンお手製のペーパーナイフは、バトンからの手紙を最初に開封しようと決めた。
* * *
私は、十三歳になった。
今日は、王城でお茶会を開いている。
お母様が主催で、私は同伴者として出席。
先日、御爺様が王位をお父様に譲られた。お父様が国王になり、お母様が王妃になった。
お母様が王妃になって初めての茶会の場。以前も何度もお茶会をお婆様と一緒に行ったりしていたけれど、もうお婆様はお茶会には参加なさらないでしょう。
招待しているのは、パッシュリー侯爵夫人とアナスターシャ侯爵令嬢。モルディブクシー伯爵夫人とナタレイシア伯爵令嬢。そして、ゴーリック公爵夫人とヴァランティーヌ公爵令嬢。
ゴーリック公爵家は、お父様の妹の嫁ぎ先で、私にとってヴァランティーヌ公爵令嬢は従姉妹。
ヴァランティーヌは、双子の姉で弟がいる。
弟のヴァランタ公爵令息は、私の兄アルバートのところで男同士のなんたるかを話しているそう。
私にはよくわからないけど。
他二家は、お母様のママ友であり、私のお友達なの。お母様が、ママ友よと初めて聞いたとき、なんて的確な言葉なのだろうと思ったのよね。
少し前まで、一つの長テーブルで親子そろってお茶をしていた。
ある程度時間が経って、丸テーブルに移動して、母親同士子供同士の時間になった。
「それで、フィーリは《アル》様とどうなんだ?」
「ティーヌ…どうって何よ?」
「湖でアル様が犠牲になってから何かありまして?わたくしも気になっておりますのよ?」
「フィリティ様から殿方のお話って基本的にアル様だけですからね!私も気になっておりました!」
私をフィーリと呼ぶのは、ヴァランティーヌ。私はティーヌと呼んでいる。
次にアナスターシャが続き、最後に前のめりに話すナタレイシア。
「アナも私がアルに会ってないってどこからの情報なのよ。それにバトンの話もしていると思うのだけれど。もう…はぁ」
アナスターシャ改め、アナが悲しげな瞳で私を見つめながら言葉を続ける。
「バトン様についてはともかく…フィーリ様がここ最近めっきりアル様のお話をなさいませんから、もしや縁が途切れてしまっているのではと心配しておりましてよ。そう。心配なのですっ。」
顔は、心配って言うより嬉しい?って書いてあるわよ。
「私も!剣術を習うかどうかの相談をしたがあまり良い回答をいただけなかったとか。湖に落ちたとか。経過が!その後が!気になって気になって!安心して寝れませんわ!!」
「ナータ、随分前すぎる話は忘れてもらって結構よ。もうそんなに前のめりに瞳を輝かせて来ないで頂戴。言葉と表情があってないわ」
この三人とは、いつも一緒だった。
従姉妹のティーヌは、それこそ生まれた時から一緒にいた。
私は、ティーヌだけでも、とっても楽しくて、楽しくて、同性の兄弟がいないから姉妹みたいっていつも思っていた。
ある時、数人ずつ日にちを変えて、お母様やお父様が《お友達》候補を連れてこられた。
アナは、一人だけ雰囲気が大人びていたの。歳は同い年だったのに。
物静かで私にはない魅力がたくさん持っていて、憧れのお姉さんみたいで「いちご姫と剣士の大冒険」が好きということで話に花が咲いて打ち解けた。
ナータは、なんだか危なっかしくて危なっかしくて見ていられてなくて、何となくかまっていたら仲良くなっていた。ナータの魅力ね。
私は広く浅くの付き合いをお友達に求めるのではなく、深く狭くが良かったの。本当に《隠れ家》にいるような気軽さに近い、心の友が欲しかった。それがこの三人だった…。
* * *
『あなたも…すきかしら?』
そういって、広げていた絵本をパタンっと閉じて、彼女に差し出した。
彼女は、受け取るとそのまま部屋を出た。
『………』
それから少しして、はぁはぁと息を切らして走って戻ってきた。
手元には2冊の本。1冊は、先ほど受け取った絵本。それを私に返す。
そしてもう1冊の表紙を私に向けて話し出した。
『だいすきなの!!』
太陽の陽にてらされたひまわりのような満面の笑顔。
『…っ!!』
絵本を受け取った私は、目を見開いて彼女を見つめていた。
私、アナスターシャ・パッシュリー侯爵令嬢。
銀色の光沢のある艶やかな髪が印象的で彼女よりりんご一個分背の高い私。
誰にも相手にされない。相手にしない。それが私…だったの。
この時、私はフィリティ第一王女様と初めてお会いした。
そして、思った。
《…いちご姫がいる》
* * *
ガッ パッシャーーーーーンっ!!
『あわわわーーーっ!!!』
またやっちゃった。
おかあさまには、おしとやかにって いわれていたのに…。
お庭に出て私は、どうしてもお水をお花にあげてみたくて
《お友達》になるらしい彼女にお願いして、小さなバケツにお水を入れてもらったの。
それを受け取り、さ!あげますよ!って一歩二歩と歩き出したその時、盛大に転んだ。
それはもうこんなに小さなバケツだったのに
頭からバッシャリと水をかぶり、後ろにいた彼女にも盛大にかかる。
遠くで見守っていた親たちも一斉に近寄り、別室に移動される。
私には人の感情がオーラとして見ることができる。そのことで私は周りから奇人扱いされ、好き好んで近寄ってくる人はいない。
移動中もお母様とお父様は、青いオーラをしていた。その顔も青い。
『こちらのドレス、お嬢様のドレスになりますがよろしければ代替ください。』
両親のオーラは、青がより深まり、顔色が白に変わっていた。
《お友達》になるらしい彼女のドレスを一着いただいたようだ。
このお家の侍女さんたちが素早い手つきで着替えと髪を直してくれた。
鏡に映る私は、びっくりするほど綺麗だった。
両親に促され、彼女に謝りに行く。
着替えを手伝ってくれた侍女さんは優しい笑顔で案内してくれた。
『ごめんなさい』
彼女と彼女のご両親の前で私も謝った。
両親の謝罪の後に。
彼女は、私に駆け寄って
『ごめんなさい。さむくなかった?』と気にかけてくれた。
『たのしかったね!!しっぱいで おわっちゃったから つぎは せいこうさせよう!』
『……っ!!』
ニカっと八重歯がちらっと見えるぐらいの笑顔だった。
私、ナタレイシア・モルディブクシー侯爵令嬢。
この時、私はフィリティ第一王女様と初めてお会いした。
彼女のオーラは虹色だった。
そして、思った。
《…妖精がいる!》




