19.5 離さない
閲覧いただきありがとうございます。
18話を18話、19話の2話に分けました。
その関係で今回の話、アルドルト視点のお話を19.5話とさせていただきます。最新話をお読みいただいている皆様は、既読されたお話になりますのでお間違い無いようにご注意下さい。
ご理解のほど、よろしくお願いします。
ヤマガラのお世話をしながらアルールは、保護することになったあの日を思い出していた。
* * *
王城から国境沿いの家にアルール一家が到着するほんの十分前。
フィリティがアルールの家を訪れていた。誰もいない家の様子を見て、来た道へと帰る。
アルールは、母のイネスと双子の弟たちと共にやっとこの地を訪れた。
着いてすぐにアルールは、焦がれて仕方のないフィリティに会いに彼女の家へと尋ねに行った。
「おばさん!こんにちは。ご無沙汰しております」
「あら!アルくん!!いらっしゃい。元気にしてた?フィーがね…って、あれ?フィーと一緒じゃないの?」
「…え?」
「あらまぁ、あの子ったらどこをほっつき歩いているんだか…」
「フィーリは、僕の家に来てくれたんですか?」
「そうよ。三十分前くらいかしら?毎日行ってアルくんがいなかったらトボトボ帰ってくるのよ。あ、いつもならそろそろ帰ってきてもいい時間ね」
ここまでは一本道といっても過言ではない。
「僕、いつもフィーリが行きそうなところ寄ってきますね!」
* * *
僕は、焦っていた。
おばさんは、フィーリが僕に会いに毎日通っていたと言っていた。今日も。
どこにいる?
あぁそうか。きっとあそこだ。この時期必ず一緒に行ったパティリテ湖。
今ならシレスコピィが満開だ。きっとそれを見に行ったんだ。
……あれを実践してみるか。
僕は少し前から魔法の勉強を始めた。
その中で感知魔法というのは、なかなか難しいらしい。
ただ、僕には簡単だった。
だからここでもやってみたんだ。まずは、フィーリの魔力を探る。
いつも手紙をもらっていたから、微量に乗せられた魔力残滓からこれがフィーリの魔力だと覚えた。
好きな人の魔力は覚えたいじゃないか。
まさかそれが早くもこんな場面で役に立つなんて思わなかったけど。
感知魔法を放って、すぐにフィーリは見つかった。
(やっぱりシレスコピィを見に行ってるな)
さっきまでの不安は、魔法のおかげで取り除かれた。
僕は、かくれんぼでもしているかのようにフィーリを追いかけた。
パティリテ湖でシレスコピィをうっとりと眺めるフィリティをちょっと遠くから眺めていた。脳内で小麦色の髪は、蜜色に変換して。
(可愛いな。いつみても可愛いな)
そろそろ声でもかけようかと、身体を起こそうと思ったその時。
ビィービィービィー
鼻にかかった鳴き声が上から聞こえてきた。
(ヤマガラか…ん?飛び方がちょっと変?かな)
なんとなく違和感を覚え、ヤマガラの飛行ルートを目で追う。
(あ!!まずい、あれじゃぁ落ちるんじゃないか!?)
僕が思ったのと同時にフィーリがヤマガラに気づいた。
あろう事か彼女は、手を伸ばしていた。
( っ!!)
「フィーリ!!」
そこから早かった。
魔法で加速して、背後からフィーリの腕をつかんで引いた。ギューッと瞑っていたフィーリの瞳が見開き、目が合った。すごい驚いていた。僕は、そのまま湖に落ちた。
もし、フィーリに何かあったときは絶対に僕が守る。それが身代わりとなったとしても後悔はない。
パティリテ湖に落ちる瞬間、今まで思っていた気持ちがより強くなった。
だから笑った。ただ湖にダイブするだけ。
今回はダイブするだけだから。
水中に漂ったのは一瞬だったけど、フィーリが僕を呼ぶ声が聞こえた。ビックリするぐらい切羽詰まった声だった。大丈夫だよ。僕は泳ぎが得意なんだ。
そんな声を僕のために出させてしまったことを申し訳なく思った反面うれしかった。
絶対に僕だけのフィーリにしたくなったよ。
湖の中は思ったよりも冷たくなくて気持ちよかった。
「ぷはっ!」
「アル!!!」
可愛いフィーリを安心させなくては。
二カッと普段よりも明るく見えるように大げさに笑った。そうしたらなんだかフィーリの様子がおかしいんだ。
「ん?フィーリ?大丈夫?」
僕は心配になった。
フィーリは心根が美しいから過剰な負担をかけてしまっただろうか?僕が気づかないうちに身体が湖で冷えてしまったのだろうか?
僕の手は今濡れているから、赤みのさした額には少しは気持ちいいだろうから当ててみよう。
(っ!!?青ざめてきちゃった!本当に体調悪くなっちゃったみたい!!大変だ!!)
ヤマガラのケガも心配だな。
ちょっとだけ、治癒魔法かけちゃおうかな。《癒せ》
よしこれで血は止まったかな。
「こっちも手当が必要だね。早く戻ろうか。どうせおばさんに内緒で来たんでしょ?」
こくんと頷くフィーリ可愛い。
後ろに束ねた髪は、この二年で腰のあたりまで伸びて揺れている。
水がポタポタ垂れてくる。手をつないだらフィーリに当たるかな。
服を脱いでとにかく絞って、髪もちょっと拭いて絞って…うん。これなら大丈夫かな。
あんまり魔法使ったらフィーリにばれちゃうもんね。
もっと上達してから驚かせたいから今は、髪も服で拭いちゃおう。
「早くいこう!」
フィーリをいつの間にか見下ろしていた。
僕、フィーリより身長伸びてきたんだ。
前を向いて、僕はフィーリの小さな手を取った。
可愛い可愛いフィーリの小さな手。
何度もつないだこの手を離さないようにしなくっちゃ。
* * *
ヤマガラを森に還すまであと少し。
見た目には問題なく、飛行距離も伸び、ツツピーツツピーと元気に鳴いて動き回っている。
フィリティは、必要以上に感情を寄せないようにしていた。これは妃教育でも必須項目であり、外交には欠かせないもの。
(わかってる。もう少しでお別れだって…わかっているわ)
ヤマガラに向けていた慈愛に満ちたその瞳は、時々鬱々しい表情を浮かべ、フィリティの心情の変化を表していた。
* * *
ヤマガラを森へ帰す日が来た。
フィリティは、普段通りといった様子でヤマガラを森へ連れていき、野に放った。アルールも一緒にその様子を見守る。
ツツピーツツピーとヤマガラは鳴きながら、ちょっと飛んでは、フィリティの元に戻ってきてを繰り返す。
「………行きなさい。もう自由よ」
フィリティの言っていることが伝わっているのかいないのかは定かではないが、ヤマガラが小首をコテンコテンと担げながらフィリティの側から離れない。
「………」
これはどうしたものかと、眉を寄せ困った顔になるフィリティはアルールに視線を向け肩をすくめる。
「…この子、フィーリの側にいたいんじゃないかな?」
「えッ!?」
バッとフィリティは、ヤマガラへ視線を戻した。小麦色の髪が扇のように広がり、右肩に舞い降りたとき、ヤマガラもフィリティの足元に静かに降り立った。
青灰色の翼が光の加減でキラリッと光ったように見えた。
フィリティは、しゃがみ込み手のひらをヤマガラの前に差し出す。
「……うちに来る?」
「ツピーッ!!」
「「ッ!!!」」
二人で目を大きく見開き、ヤマガラを見やる。
「お…おまえ…」
アルールが何か言おうとしたがフィリティには届いていない。
「いいよ!!おいで。今日からあなたは私の家族よ!」
ヤマガラに頬ずりしながら喜ぶフィリティを見てしまったら、アルールは苦笑いするしかなかった。
「“僕たちの”家族ってことにしてほしいな」
肩をすくめながら微笑むアルールの言葉を聞いて、フィリティはアルールに弾けんばかりの笑顔で答えた。
「もちろんよ!!」
(……その顔が見たかったんだよな)




