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剣術の稽古2

「わしがお前さんらに教えるのは、剣術だけではない。剣術を含めた戦いの基礎じゃ。戦いの中では、通り一遍の剣術など役に立たないことも多い。その中で重要となってくるのは、戦いに対する心構えや柔軟な発想じゃ。わかるな?」

レイヴンは、笑って細くなった目に一瞬鋭い光を宿して私たちの顔をサッと見た。

コクリ、と私と姉さんは頷く。


「ただし、心構えや柔軟な発想もまた、師匠から聞いて学ぶのでは不十分なのじゃ。百戦錬磨の戦士たちには、その戦いの中でそういったものを身につけたものが多い。わしの稽古では、その心構えや柔軟性をできる限り身につけさせていく。模擬戦闘や反復練習の中でな。よいな?」

私と姉さんは、またコクリと頷いた。


「もちろん、基礎的な剣術も大切じゃ。それに、精神的なことはどうしても実戦経験が必要な部分が多いからの。まぁ稽古は実戦経験を積めるようにするためにあると軽く考えればよい。」

フォッフォッフォ、と、サンタクロースのような声を出してレイヴンは笑った。

「軽く」というのも、レイヴンの本音ではあるのだろう。

「百戦錬磨の戦士」とレイヴンは言ったが、今目の前にいるレイヴンこそその風貌を持っているのだ。

しかし、基礎練習が大切だということは前世でもずっと言われていたことなので、怠る気は断じてない。

それに、地味な反復練習は前世でも好きな方だったのだ。

プレッシャーの掛からない努力は大好きだ。


「さてな、と。年寄りの話を聞いているのも若いお前さんらにはちとキツイじゃろう。体を動かしていこうぞ。」

そう言って始まった本格的な剣術の稽古。

まず初めに習ったことは、正しい走り方だった。


「柔軟な発想というものは、自分の体をどのように使えばどのように動き、どうすれば無駄なく動けるか知って初めて出てくるものなのじゃ。まずはお前さんらも自分について知らねばならぬ。」

そう言って、レイヴンに体の動かし方を微調整してもらう。

前世では走ること、もとい、体育全般が苦手だった私だが、今世ではこれが楽しくて仕方なかった。

ヴァンパイアの特性のなのか、今世の体のスペックなのか。

この体は教えられたことをどんどん吸収していってくれる。


私には「記憶Lv.3」のスキルもあるので映像記憶もお手のもの。

レイヴンのお手本に沿って少しずつ修正することもできた。

「ほほう。なかなか。筋のいい嬢ちゃんじゃの。ほれ、呼吸を整えるのじゃ。」

私の息が乱れてきたことを察したのであろうレイヴンに指摘されてしまった。

しかし嬉しいのは前半の部分だ。

こういう妥協を知らない師匠に独り言のように褒められるのは普通に褒められるよりも嬉しいものなのだ。


しばらくそうして走っていると、ルベルとスカーレットが飲み物を運んで来てくれた。

私と姉さんと、それからレイヴンの分だろうか。

ルベルの手にあるお盆の上には3つのコップが載っている。


「差し入れも届いたところで、いったん休憩としようか。そこの姉さん。それはわしももらってよろしいのかの?」

「はい。よろしければお飲みください。」

「では遠慮なく。ルル・フローライト、ルナ・フローライト。これを飲み終わったらさっきの応用をやるぞ。」

「「はい」」


ルベルたちがもってきてくれたのは、さっぱりしたレモン水だった。

コップに入っていた分をゴクゴクと飲み干すと、今更のように汗がダラダラと出てきた。

「ふふ、ルナ、顔が真っ赤。」

よっぽど夢中になっていたのね、と笑う姉さんの頬も、おそらく私と同じくらい火照っている。

姉さんも前世はそれほど運動神経がいいとは言えなかったから、初めての感覚だったのはお互い様だ。


芝生に足を投げ出して少し涼んだら、また稽古の再開だ。

レイヴンの言った「応用」は鬼ごっこのことだった。

私と姉さん、それからルベルとスカーレットも参加して庭中を走り回る。

レイヴンは参加せず私たちに指導を飛ばしてくる。


「これ、スカーレット。もっと粘らんか。ルル、姿勢が崩れておる。ルナ、そこは手を伸ばせば届いたぞ。」

レイヴンからの指摘に悔しくなるが、ここまで楽しい鬼ごっこは初めてだ。

前世では圧倒的に足が遅かったからか非戦闘員と思われており、そもそも鬼から狙われなかった。

・・・鬼ごっこにもほとんど参加していなかったが。


さっきまででかなりフォームを改善できた私は速く走れるようになったが、素のステータスの「俊敏」の項目は姉さんの方が上なのでいい勝負になっている。

ルベルとスカーレットもかなり足が速い。


体力を消費するって楽しいことだったんだな。

私はそう思い始めていた。


ところで、鬼ごっこでも戦いの心構えというのは育まれるものなのだろうか。

気にはなるが、一度も戦いというものを経験したことのない私には考えても答えの出ないことだ。

そのうちわかるようになるのだろう。





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