宮坂家の文香さん
七月に入り、西日本では梅雨明け宣言がでてきた、そんなある日。
ここは昼下がりの中学校。
「キーンコーンカーンコーン」
ウエストミンスター寺院の鐘の音、と言えばオシャレにも聞こえますが、まあどこの学校でも良く聞く、ごく普通の学校のチャイムの音が鳴り響き、
「はい、そこまで。筆記用具を置いて、全員教卓に答案用紙を持ってきなさい」
と、担任の先生の有無を言わさない大きな声が教室内に無慈悲に響き渡り、その直後
「はぁ~・・・」
と安堵と絶望とが混じり合うため息が、同じ教室の中を満たしていきます。
今日は、文香さんの中学校の1学期の期末テストの最終日。文香さん3年生最初の定期考査が終わりました。
重いに軽いにと、その足取りを見ればだいたい出来がわかる生徒たちが、全員教卓に答案用紙を教卓に出し終え、
「よし、これで一学期の最後の試験終わりだ。できた者、いまいちだった者がいると思うが、来学期からの頑張り次第で、この先どうにでもなる。気を抜かず、悲観せず頑張ること!!今日はこれまで。気を付けて帰るように。日直、終礼!」
と先生が、みんなに言い、
「起立、礼!」
とお決まりの号令で、今日の学校はお終い。
担任が答案用紙を持って教室を出ていくと、一気に教室の中が騒がしくなります。
「おい、おまえどうだった?」
「ぜんぜんだめだぁ~・・・よし、明日の試験に全てを賭けよう!オイラに勉強教えてくれ!!」
「・・・ものすごく残念な知らせだが、今日で期末試験は終わりだ・・・」
「ええええっ!!!」
とまあ、冗談なのか本気なのかわからないお馬鹿な会話が行きかう中、
「ふぅ~」
と、静かに息を吐く宮坂さんちの文香さん。特に学習塾とかにも行くこともなく、普段からきっちり学校の勉強をし、どうしてもわからないことは、主に宮坂お母さん、たまに宮坂お父さんに教えてもらうだけで、毎回の試験ですべて、学年上位5番から下ったことのない成績を維持しているのですが、今回の試験は高校進学も見据える試験となるので、ここ半月ほど、大好きな妹達や弟との遊びも我慢して、真剣に勉強をしていたので、いつも以上にほっとしています。
「ねえねえ、文香どうだった~?」
「わたし、ヤマはずれたよ~」
「あたしゃもう、ボロボロ~」
文香さんの周りに、友達が集まってきます。
「う~ん、今回はまあまあだったかな」
文香さん、何しろ大好きな妹弟達との触れ合いを我慢してまで頑張っただけあって、かなりできた自信があります。
「ふ~んまあまあかぁ。文香がまあまあって言う時は、いつも全教科満点近くだもんなぁ」
と友達の一人が言い、
「「「そうだねぇ~」」」
とほかの友達も同意します。
文香さんのクラスでは、文香さんと幼馴染の賢太郎君が、テストの点数の上位争いに参加していて、毎回いい勝負をしています。(まあ、お互いは争っているつもりはなく、普通に頑張っているだけで、周りが騒いでいるだけですが)
「文香は、今日部活あるの?」
と友人の一人が聞きます。
「ううん、今日まで部活はお休みで、明日から再開だって」
答える文香さん。文香さん、運動神経も良いし、小学生の頃はテニススクールに通っていて、大会で優勝したこともあるのですが、中学生になって、運動部だと大会やら遠征で忙しくて、弟と妹達と遊ぶ時間が無くなるとの理由と、お母さんとお祖母ちゃんの影響で茶道・華道クラブに所属しています。
「そっか、いいなぁ。私はテスト終わったばかりなのに、今日からもう地獄の部活再開だよぉ~」
バスケ部の友達が肩を落としながら言います。
帰り支度をしながら、友達とわいわい会話をして、さて帰ろうとすると、
「お~い、宮坂」
同級生の賢太郎君が声を掛けてきました。
「な、なに?」
文香さん、少し動揺して答えます。
「あのさ、ごめん、明後日の委員長会・クラブ長の資料作り、ちょっと手伝ってもらえないかな」
賢太郎君がお手伝いのお願いに来たようです。
賢太郎君は生徒会の役員で庶務をやっています。まあ生徒会の中では一番の裏方のお仕事。なので資料作りやら各委員会との連絡、日程調整で、生徒会長よりも忙しいポジションです。
ちなみに文香さんは生徒委員会で整美委員長をしています。
「し、しょうがないわね。一個貸ね」
文香さん、つんつんしながら答えますが、内心は賢太郎君が自分を頼ってくれるのが嬉しくてしょうが無いようです。
生徒会室に賢太郎君と行き、テスト前に生徒会長や各委員長・クラブ長がパソコンで作成した資料を軽印刷機で印刷して、丁合・製本する作業を、黙々と進める賢太郎君と文香さん。仲の良い幼馴染だけあって、それと意識しなくても、阿吽の呼吸で手際よく作業を進めていきます。作業する二人の横で、会議当日の打ち合わせをしている、生徒会長と副会長、書記の三役が二人を見て、こいつら本当にお似合いだわと、改めて感心しているほどです。
途中、資料の差し替えやらなにやらがあり、結局一時間半ほどかかって、資料作りも終わり。
「ふう、おわった。宮坂、ありがとな」
ふんわりとした笑顔でお礼を言う賢太郎君。
「うっ。あ、ありがたく思いなさいよ」
賢太郎君の笑顔に、どぎまぎしながら、ついつい高飛車になる文香さん。
生徒会の仕事も終わり、自然な流れで、二人並んで下校する文香さんと賢太郎君。
歩きながら、テストの事や、生徒会の事、昨日のテレビの事などを話し、なかなかいい雰囲気。
「あ、文香お姉ちゃん!」
「あ、本当だ」
「おりょ?お隣にいるのは・・・」
丁度、小学校の校門の前に差し掛かった時、下校する颯太君、美咲さん、陽菜さんとしいちゃん、愛梨ちゃん、香織さんの幼馴染ズの小学生組とばったり。
「ほほぅ~姉ちゃん・・・」
「あらあら、お兄ちゃんたら・・・」
陽菜さんと香織さんが
「「いや~まだ梅雨時だというのに、おあついですなぁ。」」
顔をにまにまささせています。
「っちょ!あなたたち、なににやにやしてるよの!!そんなんじゃないからね!!!」
文香さん、顔を真っ赤にしながら、なにやら言い訳を。
「なに、姉ちゃん、なにムキになってるの~?」
「お姉ちゃん顔真っ赤~」
「まっかっか~」
弟妹が文香さんをからかってきます。
「っう!ちょっとあなたたち!!」
「「「ひゅうひゅう~」」」
「待ちなさい!!!」
からかう弟妹達と、文香さんの追いかけっこが始まりました。
何とも、いじりがいのある文香さんでした。




