宮坂家の春休み
お彼岸も過ぎ、ますます暖かくなってきた、三月下旬。
街中には、梅の花に、花桃、木蓮の花も咲きだし、冬枯れ色一色だった街中が急に色づき始めています。
春休み真っ只中の宮坂家の子供たち。今日は、大人たちはみんな仕事で出かけているので、子供たちだけで家でお留守番。
「こら陽菜、ここの計算間違ってるでしょ。もう一回やってみて」
「え~、あ、本当だ」
「颯太、ひらがなもう全部書けるんだね、えらいえらい」
「うん!美咲お姉ちゃん、ボク漢字の数字もかけるよ!」
春休みに入って、冬休みの終わりに文香さんが宣言した通り、毎日朝ご飯の後、午前中は陽菜さんの春休みの宿題の強制勉強が続けられています。それにならって、美咲さんも一年生になる颯太君も一緒にリビングのテーブルを囲んでお勉強会。文香さんが先生役で、自分の勉強がてらみんなの勉強を見てあげています。まあ、美咲さんも颯太君も優秀なので、主に陽菜さんに付ききりなのですが。
「む~ん」
苦手な算数に四苦八苦の陽菜さん。それでも文香さんのスパルタ・・・丁寧な教え方のおかげで、かなりできるようになってきました。
「よし、今日の分はこれで終わり」
文香さんが作った、陽菜さん用春休みお勉強スケジュールの本日分が終わりました。
「ほへ~、疲れたぁ~~」
慣れない勉強で疲れ切った感じの陽菜さん、デロンとテーブルに突っ伏します。
「ははは、陽菜お姉ちゃんご苦労様、大丈夫?」
「陽菜お姉ちゃん、ヨレヨレ~」
美咲さんと颯太君が、両側から突っ伏している陽菜さんのほっぺを指でツンツン突きながら言い、
「ふにふに」
と陽菜さんがされるままで、答えています。
「あ、もうこんな時間かぁ」
文香さんが柱にかかった柱時計を見ると、針は11時半を指しています。
「そろそろ、お昼ご飯の準備するけど、みんな何がいい?」
長期休みで、大人たちがいないときは、だいたい文香さんがみんなのお昼ご飯を用意しています。
「「「オムライス~!!」」」
陽菜さん、美咲さん、颯太君は声をそろえて、即答。
「また?おとといもそれだったじゃない」
「たって、姉ちゃんのオムライス、おいしいんだもん」
と言う陽菜さんにうんうん頷く美咲さんと颯太君。
「はいはい、わかったから。美咲、ちょっと手伝って」
「は~い」
文香さんと美咲さんはキッチンへ。
「颯太、できるまで姉ちゃんとゲームしてようか」
「うん!!」
陽菜さんと颯太君は、リビングのテレビでひげのおじさんたちがカートで競うゲームを始めます。
「「「ごちそう様~」」」
「はい、お粗末様」
「ふぅ~、食べた食べた、満足~~」
ごろんと寝ころぶ陽菜さんと同じように、美咲さんも颯太君も、満足顔でにこにこ。
食器を片付け、
「さて、みんな午後はどうするの」
文香さんがみんなに聞きます。
「う~ん、私は特に予定無いなぁ」
「わたしも無い」
陽菜さんと美咲さんが答えます。
「颯太は何して遊びたい?」
陽菜さんが颯太君に聞きます。
「う~んとねぇ、ボク、小学校に行ってみたい」
「小学校?」
「うん、学校に行く練習する!」
「そうか、それじゃみ散歩がてら小学校行ってみようか。姉ちゃんに美咲もそれでいい?」
「いいわよ」
「は~い」
柔らかい春の日差しの中、宮坂家の子供たちが仲良く並んで、のんびりゆっくり歩いていきます。
「本当に暖かくなったね~」
寒さが大の苦手な美咲さんが、嬉しそうに言います。
「うん、そうだな。あれだ、暑さ寒さも・・・なんだっけ?」
「はぁ~、彼岸までよ。陽菜、明日は国語をみっちり勉強するからね」
「えええ~」
「陽菜お姉ちゃん、頑張って」
「がんばれぇ~」
「あ!アリさん見っけ」
颯太君が道端に蟻の行列を発見。
「へぇ、もう蟻が出てきたんだね」
「あ!大きな花」
「うん、それモクレンの花だよ」
「あ!つくしんぼ」
「どれどれ、お、たくさん生えてるなぁ。採って帰ってお味噌汁にでもいれようか」
三姉妹は通いなれている、短い通学路ですが、颯太君にとっては初めての道。目に入るものがすべて珍しく、いろいろ発見してあちこちで立ち止まります。
ちょこちょこと歩き回る颯太君を優しげな目で見守る三姉妹。
颯太君に合わせながら歩き、いつもよりかなり時間をかけて小学校に到着。
「ほら颯太、ここが小学校だよ」
文香さんに言われて、
「うわ~、幼稚園より大な建物だぁ」
目を丸くする颯太君。
「ふふ。そうだね、幼稚園よりいっぱい生徒がいるからね」
美咲さんが颯太君の頭をなでながら言います。
「運動場も大きいね~」
「そうだな、広いから思いっきりかけっことかできるよ。入学したら姉ちゃんとかけっこ競争しようか」
と陽菜さんも颯太君の頭をなでながら言います。
「ここが昇降口。ここから学校の中に入るんだよ」
「へぇ~。下駄箱がいっぱいある」
「ここが一年生の教室棟」
「わぁ~机がいっぱいだ」
春休みで、校舎の中には入れないので、校舎の外側を周り、窓越しに中を覗きながら、この学校で一番の先輩の陽菜さんが颯太君に校舎内の説明をしています。
「あら、宮坂さん。お久しぶり」
年配の女性が文香さんに声を掛けます。
「あ、田中先生。お久しぶりです」
「美咲さん、陽菜さん、こんにちは」
「こんにちは~」
田中先生は、美咲さんの担任の先生で、文香さんが小学校の頃の担任だった先生です。
「今日はみんなで遊びにきたの?」
「はい、4月からお世話になる弟が学校を見ておきたいて言うので、散歩がてら連れてきました」
「おや、君が弟君?」
田中先生、ちょっと不思議そうに颯太君を見ます。まあ、確かに颯太君、可愛すぎてちょっと男の子には見えないかも。
「お名前は?」
「宮坂颯太です!」
颯太君、元気に自己紹介。
「颯太君ね。私は美咲さんの担任の田中真理です。よろしくね」
「はい!よろしくおねがいします!!」
颯太君ぺこりとお辞儀します。
「ふふふ、颯太君、元気でお行儀が良いですね」
田中先生が優しく言うと
「えへへへ」
颯太君ちょっと照れ気味。
「おや、宮坂じゃないか」
田中先生と分かれ、体育館へ向かうと今度は大きな男性の声がしてきました。
「げ!岩田先生だ!!」
思わず後ずさる陽菜さん。
近付いてきたのは、体の大きい、いかにも体育の先生と言った感じの先生。ちなみに、陽菜さんの担任の先生。
「岩田先生、いつも陽菜がお世話をおかけしています」
と頭を下げる文香さん。
「うん?宮坂姉か、ひさしぶりだな。元気か」
「はい、元気です」
「そうか、それは良かった。ところで、宮坂!!」
「はい!!」
直立不動になる陽菜さん。
「ちゃんと春休みの宿題やってるか?遊び回ってばかりじゃだめだぞ。今回の通知表もアヒルの行列だったじゃないか」
「せ、先生、姉ちゃんの前で通知表の話は~」
「え、陽菜の通知表見てないけど、アヒルの行列ってまさか・・・」
「わ~!わ~!!」
「岩田先生、いつも陽菜がご迷惑をおかけしているようで、本当にすみません。この春休みは、私が陽菜の勉強を見てやっているので、もっと厳しく勉強させます」
「え~~!!!」
「うむ、宮坂姉に勉強を教えてもらえば、大丈夫だろ。手加減なしでビシビシやってやれ」
「ハイ!!」
「や~め~て~」
「ううう・・・」
思わぬ展開で、明日から勉強時間が倍増するのが決定した、校庭の隅でうなだれる陽菜さんに、
「陽菜お姉ちゃん、ドンマイ」
「ドンマイ」
他人事のように、明るく声を掛ける美咲さんと颯太君。
明日から、陽菜さんをどうやって鍛えようかと、黒い笑みを浮かべる文香さん。
まだまだ、宮坂家の子供たちの賑やかな春休みは続きます。




