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宮坂家ほのぼのカレンダー  作者: 文具屋太郎
22/47

宮坂家の母子会話 その1

 二月は逃げ月と言いますが、あれよあれよと、気が付けばもう二月の最終土曜日。来週からはもう三月。いろいろ慌ただしい月になります。


 そんな土曜日のお昼過ぎ、宮坂家では・・・


 ここは、文香さんの自室。必要最低限、無駄なものはないけれど、かといって無機質な感じは全くなく、洗練された程よい温かみのある空間の部屋で、姿勢良く文香さんは机に向かっています。文香さんの中学校では、来週から三学期の期末試験。二年生最後の試験なので、来年決める進路の参考になるそれなりに重要な試験。この土日、文香さんは自室に引きこもり、試験勉強に没頭していることでしょう。


リビングのこたつでは、陽菜さんが颯太君を膝の上に乗せ、その隣で美咲さんがみかんを剥いて颯太君にあ~んして食べさせながら、近所のレンタル店で借りてきた、額に稲妻型の傷跡のある少年が魔法学校で活躍する物語のDVDを三人仲良く鑑賞中。


宮坂お父さんとお祖父ちゃんは、お座敷で将棋の対戦中。


と、まあ、それぞれ静かに土曜の休日を過ごしているようです。


ところで、宮坂お母さんとお祖母ちゃんはと言うと・・・

「よし、完成」

満足げにうなずく宮坂お母さんに、

「なかなか、良い出来になったわねぇ」

と同じく、満足げな宮坂お祖母ちゃん。


ここは、宮坂家の母屋と短い渡り廊下でつながった、二階建ての離れの六畳ほどの洋室。中は、ミシンや編み機、ボディートルソーなどが置かれ、まるで仕立て屋さんのよう。宮坂家の女性は、代々手先が器用で、縫い物などプロ並みの腕前。ちょっとしたスーツなども仕立てられるほど。そんな母子が仕立てていたのは、四月に小学一年生になる、颯太君の入学式用のフォーマルスーツ。ちなみに、上の三姉妹の入学式の服も、全部お母さん、お祖母ちゃんのお手製でした。

「しかし、ちょっと苦労だっわね」

と、お祖母ちゃん。

「そうね、初めて男の子のフォーマルスーツ作ったものね」

と、お母さんも感慨深げ。

 宮坂家はここ何代か女の子しか子供がおらず、お祖母ちゃんもお母さんも女の子用を作るのは手慣れていましたが、颯太君用に男の子用の礼服を初めて作ったので、半年もの間、だいぶ試行錯誤して大変だったようです。

「でも苦労し甲斐があったわね」

と、出来上がった颯太君用のスーツに目を細めるお母さん。

「しかし、颯太がもう小学生なんてねぇ」

お祖母ちゃんが、少し遠い目で言います。

「本当に、元気で大きくなってくれて」

出来上がったスーツを愛おしそうに撫で、お母さんも少し思い出に浸ります。


文香さん、陽菜さん、美咲さんの三人は、十月十日でポンポンポンと、助産師さんもびっくりするほど何の問題もなく元気に生まれ、その後も元気すぎるほどに育ってくれたのですが、颯太君の産れた時は大変でした。少し早くに産れた颯太君、難産でなかなか出てこず、三姉妹と違って、弱々しい産声を上げてようやく産れたその身体は本当に小さく、しばらくは保育器の中で過ごさなければなりませんでした。その後も2歳になるまでは体が弱く、入院などもして、家族みんなでやきもきしていましたが、3歳からは今までが嘘のように元気になって、ほかの子より少し小さいくらいで、すくすくと育ちました。

そんな颯太君が小学生になるので、お母さんの思いもひとしお。しばらく、母子二人それぞれの思いにふけります。


「ところで、母さん」

「なに?」

「引っ越しの日は決まったの」

「ええ、完全にこっちに移るのは、5月の終わりごろにしようかと思ってるわ」

「え、そんなに先なの?」

「颯太の卒園式と入学式もあるし、私たちの今の仕事もだいぶ縮小するから、何かとバタバタするし、いろいろ落ち付いてからね」


 宮坂お父さんとお母さんが結婚した時、婿養子の宮坂お父さんが気兼ねなく暮らせるようにと気を遣い、家を娘夫婦に任せ、今はいわゆる「スープの冷めない距離」のマンションで二人で暮らしている宮坂お祖父ちゃんとお祖母ちゃん。見た目は全くそうは見えませんが、もうすぐ還暦を迎える歳。今まで家族の事も仕事も遊びもすべて全力で当たり、それこそ世界中を飛び回っていましたが、世界で立ち寄る様々な国々の人々と触れ合ううち、人生、やはり連綿と続く家族の絆が一番大事なんだと感じさせられ、どんどん成長して行く孫たちが、これから大人になってゆくために直面するであろう様々な苦労を、大人の自分たちが少しでも手伝うこと、それに、勉強は学校の先生に任せるとしても、それ以外の事、自分たちが親から教わったさまざまな事や技術を孫たちに伝えるのが、人生最大で最後の仕事と考えるようになり、宮坂お父さんお母さんの願いもあり、再び同居することにしました。


引っ越しが五月と言われ、少し不満顔の宮坂お母さんに、

「まあ、そうは言っても、お正月以来、半分はこっちにいるんだから、一緒に暮らしているようなものじゃないの」

と言うお祖母ちゃん。

「そうなんだけど、父さんと母さんが引っ越してくることを、子供たちが五月蠅い位まだかまだかと心待ちにしてるのよねぇ。だから、できるだけ早くお願い」

と手を合わせる宮坂お母さん。

「ふふふ、わかったわ。またあの人と相談してみるわ」

そんなに孫たちに懐かれていることに、思わず笑みが漏れるお祖母ちゃん。

「母さんがこっちに帰ってきたら、子供たちにももっといろいろなことを教えることができそう。よろしくね、母さん」

「ハイハイ、あの子たちが将来幸せになれるように、これからできる限り手を貸してあげるつもりよ」

そんな風に母子二人で親子の会話をしていると、渡り廊下をどたどたと走ってくる足音が三つ。

「母ちゃん、腹減った!!お八つ、お八つ!!」

陽菜さんを筆頭に、美咲さんと颯太君がお八つの催促にやってきました。

「あら、もう三時なの。それじゃあお八つにしましょう」

と宮坂お母さんが腰を上げると、

「あ、そこにかかってるの、颯太の服?できたんだ」

と美咲さんが仕立てあがったばかりの服を見つけて言います。

「これ、ぼくの?わぁ~い、かっこいいい!!」

颯太君、大喜び。

「お、颯太に似合いそうだね。母ちゃん、着せてみて」

と言う陽菜さんに、

「はいはい、後でみんなそろってお披露目するから。今はとりあえずお八つにしましょ。美味しいどら焼きあるからね」

と宮坂お母さんがいい、みんな離れからリビングに向かいます。

「そうかぁ、颯太も小学生になるんだ」

と颯太君の頭をなでながら言う陽菜さん。

「そうだね。私と陽菜お姉ちゃんと一緒だね。小学生になったら、みんなで一緒に学校行こうね」

と嬉しそうに言う美咲さん。

「うん、お姉ちゃんたちと一緒に学校行くの楽しみ」

と、にこにこ答える颯太君。


宮坂家の暖かい春は、もうすぐそこまで来ています。


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