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10話 田舎にあって王都に無いものって意外とあるんだな

本作「王都の学園に強制連行された最強のドラゴンライダーは超が付くほど田舎者」が、カドカワBOOKS様より10/10に発売致します!

読者の皆様、よろしくお願い致します!

「相変わらず学園のシャツは感触が硬いな。

もっと柔らかければ良いのになぁ」


早起きをした俺は制服への不満を誰に聞かせるわけでもなく一人でぼやきながら、手早く着替えて身支度を済ませていた。


「天気は……おう! 

快晴だな、ばっちりだ!!」


カーテンを思いきり開けると、雲一つない青い空が広がっていた。

一日動きやすそうでなによりだ。

今日の俺の計画は、討伐戦……つまりは山に行く準備をすることだからな。

そのために、これから外に出るつもりだ。


準備と言っても、基本的な道具やら物資は流石に学園側が出してくれるだろうから、今回はそう言う物は準備しない。

なら何を準備するのか、なんだが。

簡単に言えば、モンスター対策のアイテムだ。


――氷竜に出くわす前に山の中でモンスターと鉢合わせたら、それはもう出くわした生徒個人個人が魔法体術諸々を使って何とでもなるだろう。

それに、討伐戦に行く面子自体はそこそこの実力者だろうし、モンスターごとき余裕だろ……なんて適当な高を括っていた時期が、俺にもあった!


実はある重大な事を見落としていたと気が付いたのは昨日の夜、寝る前のことだ。

――よく考えたら、前に俺がヒラカに飛ばされる前、学園長が『特待生の面子は実戦経験が足りなくてうんぬん』とか言ってなかったか?

しかも『特待生は貴族とかのお坊ちゃんばっかりだから、実戦に出しにくくてしのごの』みたいな。


――呼び出された時には学園長はそんなこと一言も言ってなかったけど、王宮からの使いのヒュグやら特待生本人達やらの手前、流石に堂々と言いにくかった……って事か?


何て考察してもみたが、そこはどうでも良い。

問題はそこじゃないからだ。


……そうだ。

『実は特待生連中は実戦経験が足りない。それってつまり、モンスターにすら苦戦する可能性があるんじゃねーの?』ってところが問題だ。

少し前に尾段の連中のやった事を思い出せば、ワイバーンを無理やり引っ張った挙句、ワイバーンを本気で怒らせた始末だ。

その上ロクに魔法も使えねえ連中が少し前まで大半だった。

例え学年が上になっても、更にワイバーンに跨ったとしても……平和ボケしたローナスの生徒もまともに戦えるのか、正直怪しいところはある。

特待生連中の実力のほどは、そこそこできる生徒代表パツキン以外は正直分からないが、坊ちゃんお嬢様してるやつの寄せ集めなら実戦で何かやらかす可能性はそれなりにあると思う。


……本当に、こんな連中が討伐戦に行って大丈夫なのか?とかその辺の疑問は尽きないのだが。

大人連中は何を考えているのかよく分からんから、この辺の話はさておき。


――付いてくるだけの筈のカレンが、もしかしたら足手まといのせいで本当に戦う羽目にならねーか?

正直、俺はそう思った。

下手をすれば、テーラだって危なくなるかもしれない。


――なら、予め何かしらのモンスター対策をすれば良いか。


考えた末に、俺はこの結論に行き着いたと言う訳だ。

若干考えすぎかもしれないが、それでも考えておくに越したことはない筈だ。


生徒達の実戦経験の無さからくる油断が、どんな災難を巻き起こすのか分かったものじゃねぇ。

その上、目的地は吹雪の雪山……自然が猛威を振るう場所へ行くのであれば、やっぱりモンスター対策だけであっても準備は出来るだけしておくべきだろう。


『……シムル、今日はどうしたのですか?

こんなに早く起きるなんて……』


「おう、おはよソラヒメ」


窓から射す朝日で、ソラヒメも起きたらしい。

伸びをするソラヒメに、俺は今日一日の予定を端的に説明することにした。


「今日はセプト村で使われていた、モンスター対策用魔道具を作成する!」


『……はい?』


起き抜けのソラヒメのポカーンとした顔が面白くて、俺は少し噴き出すのだった。


***


「……そんな馬鹿な!?」


夕方、俺の声がローナスのグラウンドに響き渡った。

その声は絶望失念残念……ぶっちゃけ全部が混ざっていた。


「すいませんシムル君、力になることが出来なくて……」


「いや、先生のせいじゃないっすよ。

……ただ」


――ヒカリムシも太陽苔も王都にないって、嘘だろ!?


偶然近くを通りかかったマール先生によって明かされた、衝撃の事実だった。


それを聞かされた途端、俺の体はぐったりと萎えていた。

赤く染まった空に、鳴きだすカラス、更に欠伸をしている竜姿のソラヒメ。

……何だろう、俺のやる気をそぎ落とすかのような、この雰囲気は本当に何なんだろうな。


今日は一日、グラウンドの木とか草が茂ってる所を中心にソラヒメに協力してもらいながら、俺は目当てのヒカリムシやら太陽苔を探していた。


……そう、いる筈のない虫と苔を、日が暮れるまで探し回っていたんだ。

大の男と当代竜王のコンビが、文字通り草の根をかき分けて。

客観的になれば虚しくもなってくる。


「その……ヒカリムシも太陽苔も、山奥にしか生息しない固有種なので……」


「……成る程、そう言うことっすか……」


山奥にある田舎の村出身の俺が、そんなことを知っている訳がなく。

俺は一日を、丸々無駄にしたのだった。


『シムル、そんな顔をしないでください。

こういう日もあります』


だが、ソラヒメはこの通り案外元気だった。

……何故だろう、ソラヒメの顔が若干すっきりしている気がする。


「そんな事言われたってなぁ……。

寧ろさ、お前も丸一日無駄に潰したわけなんだが、やけに元気じゃねーか」


『私ですか?

いえいえ、今日は有意義でしたから』


「……どゆこと?」


有意義だった、だと?

そんな要素が一体どこに。


『今日は丸一日かけてワイバーンに立場と言うものを教えることができ、とても良い日でした』


「お前は本当にぶれないな!?」


そうだった。

この横暴な当代の竜王様は、昼寝をしているワイバーンを威嚇して無理やり退かしながら虫苔捜索をしていたんだった。

その上ワイバーンが撤退した先ばっかりを次々捜索していて、ワイバーンはソラヒメに一日中追い立てられている状態だった。


「……もう突っ込まねーぞ。

毎度のことながらワイバーンが不憫だけど、俺はもう突っ込まねーからな!?」


『ええ、シムルも分かって来たようですね』


ふふん、と鼻を鳴らすソラヒメに向かって、俺は口には出さずにこう返してやった。

――だってもう、無駄だってなんとなく分かってるからな!


当代の竜王様が更正する日は、残念ながら……多分、来ない。




『ところでシムル、貴方はヒカリムシと太陽苔を使って、何をするつもりだったのですか?

それらが恐らく、シムルが作ろうとしている物の材料であることは分かるのですが……』


部屋に戻ってベッドに転がりふて寝していたら、ソラヒメがそんなことを聞いてきた。

俺はグイッと体を起こして、ソラヒメの方へと向き直る。


「あれ?

ソラヒメには言ってなかった……と言うか、ソラヒメは知らなかったのか。

あの虫と苔を使うと、良い感じの手投げ式の光爆弾が出来るんだ」


『……光爆弾?』


聞き慣れないらしい単語に、ソラヒメはそれは何かと反応した。


「そ、光爆弾。

ぶん投げると昼間でも目が眩むくらいの閃光を出す、戦えない村人でも大型モンスターを怯ませられる超便利魔道具だ。

炸裂したら、三十秒はモンスターの視界が効かなくなる」


山に囲まれたセプト村の住人は、自給自足の生活をしなきゃいけない。

だが、山に囲まれている分、やはりモンスターにも襲われやすい。

だからこそ、モンスター対策用の魔道具などがセプト村にはそこそこ充実していて、光爆弾もその内の一つと言う訳だ。


――あ、と言うか。

俺はそう言うのを作って村にもっていくことはあっても、ソラヒメと一緒に居る時に使った事はなかったな。

ソラヒメと一緒なら、モンスターは怯ませるまでもなく仕留めきれてたし。

ソラヒメが光爆弾を知らなくても当然か。


『ほう。

今朝は他の生徒の為のものを作る、とだけ聞いていましたが……その光爆弾をある程度の数作っておけば、生徒達がモンスターに襲われても簡単に安全を確保できる、と。

考えましたね』


「……ただ、ヒカリムシも太陽苔も王都に無い以上、光爆弾は作れないけどな」


光爆弾の代用品は一応あるんだが……数が足りない。

しかも使い方もよくは分からない。

まぁ、それはテーラにでも持たせるとしても、肝心の光爆弾はどーすっかな……と思っていた丁度その時。


『ではシムル、王都の街中で素材を集める、と言うのはどうですか?』


ソラヒメが微笑みながら、そんな提案をしてきた。

……ソラヒメよ、妙案を閃いたって顔だけど、街中なんて行ったら余計に虫も苔も生息していな……。


「……いや、そうか。

もしかしたら、それが良いかもしれないな」


ソラヒメの言いたいことが分かって、俺も一気に閃いた。

無いものは、買えばいいのだ。

ここは自給自足の生活をする田舎じゃなく、金銭の取引が発達した王都なんだし。

王都の街中には色んな店があったから、ヒカリムシや太陽苔を打っている店もあるかもしれない。

ただし、問題はやっぱり金だ。

金が無いと何とも……。


『ふん!』


「ん!?」


バシュッ!と言う音と共に目の前で起こった光に、思わず目を瞑る。

ーーそう言えば、光爆弾の眩しさはこんなもんじゃ無かったなぁ、文字通りの目潰しだったし。


セプト村にいた時の事を懐かしんでいたら、光がおさまった事に気がついた。


「おぉ」


瞼を開けてみれば、ソラヒメがいつかの様に星結晶を作っていた。

それも、ソラヒメの両手いっぱいに。


『これがあれば十分でしょう』


「あぁ……この手があったか」


背に腹は代えられない。

今回ばかりは仕方が無いと、俺は金がない事に若干の不甲斐なさを感じながらも、ソラヒメから星結晶を受け取るのだった。

次回の更新はここまで間が開かない予定です!


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