9話 心配のしすぎだったかもしれねーな
本作『王都の学園に強制連行された最強のドラゴンライダーは超が付くほど田舎者』
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『シムル……本当に良かったのですか?』
「仕方がねーって。
今回ばかりはどうしようもねーだろ?
……まぁ、生徒代表の言う通りになったって言うのは気に食わねぇけどよ。
そんな顔をするなって」
廊下を歩きながら、少ししょげた顔をしたソラヒメにフォローを入れる。
別に今回の件は、ソラヒメのせいじゃないしな。
ヒュグに氷竜討伐戦への参加意思を見せた後、生徒代表以外の生徒は一旦帰された。
どうも学園長と生徒代表、それにヒュグの三人でこれからの予定を詳しく固めるみたいだった。
今回俺達が呼び出されたのは、氷竜討伐戦の参加意思を確かめる為だったらしい。
「取り敢えずはカレンにこの事を伝えなきゃな。
それに、勝手に話を進めて悪かったって謝らねーと」
『ええ、そうですね。
カレンは恐らく、テーラの部屋に居る筈です』
「……そう言えば、カレンって俺達の近くに居なきゃいけないって事だったけどよ。
ぶっちゃけ、今じゃそんな近くじゃなくても学園内に居れば大丈夫、みたいなところはあるよな」
最初の頃はできるだけカレンと一緒に居なきゃいけないなー、くらいに思ってたんだが。
意外なことに、そんな事は無かった。
その証拠に、学園長室にカレンを連れていかなくても文句は言われなかったし。
『そこは彼女の処遇を決めた学園長達が、カレンには既に敵意が無いことを理解しているからではないでしょうか?
時たまカレンを見つめる学園長の瞳は、とても優しいものであると感じます』
確かに、学園長もカレンを見ている時には悪い顔はしないな、と曖昧な記憶を引っ張り出して思い出す。
『それに……』
「ん?」
『一部の、アルスのような生徒にはカレンの素性が露見していますが、それでもアルスはカレンの為を思った発言をしてくれたではないですか。
そう言った所からも、カレンは既にローナスに受け入れられるように思えます』
「……生徒代表がカレンの為を思って言った、か」
カレンを氷竜討伐戦に連れて行った方が良い、って下りのアレか。
……正直、そう言われてもやっぱり素直に受け入れられないところはある。
寧ろあれだけ目の敵にされて気にしない奴っているのか?って話だ。
俺の様子を見て何か思ったのか、横を歩くソラヒメがふと足を止めた。
それにつられて、俺も足を止める。
『シムル、先程も言いましたが、貴方の言いたいことは分かります。
ですが、これからアルスは肩を並べて共に戦う仲になる者です。
少しは仲良くしてはいかがでしょうか?』
「……まぁ、考えといてやるよ」
理屈は分かるけど、俺の心がなぁ。
人間は頭で判断して心に従って動く……何て柄にもない言葉が俺の脳裏を掠めた。
――はてさて、これからあの生徒代表にはどう接したら良いもんかなぁ。
俺は止まっていた足を動かしながら頭を捻って、頭と心の妥協点を探しにかかるのだった。
***
「……そういう訳で、カレンを今度の討伐戦に連れて行く事になった」
「また急な話ね……」
カレンを膝の上に乗せながら、テーラは複雑そうな顔をした。
テーラはこう見えて頭だけは鬼のように良いから、多分今回の件についても上手く理解しているのだろう。
「それで、問題はカレンなんだが……悪い。
勝手に話を纏めちまった」
「ううん。
だいじょーぶだよ、おにーちゃん。
行けば良いんでしょ?」
テーラに抱っこされているカレンは、案外あっさりと討伐戦への同行を快諾した。
「……良いのか?
折角バーリッシュから解放されたってのに。
なんなら……学園長室に戻って、今から掛け合ってやっても良いんだぞ?」
俺も頭の中では、今回の件はカレンのこれからの為に必要だとは分かってる。
それでも、カレンが嫌がればすぐにでも戻って怒鳴り散らしてやろう、とも心の片隅では思っていた。
だって今回の件は、カレンからすればそれはもう理不尽なんだからよ。
しかし、カレンは。
「うん、良いの」
あっけらかんとした顔で、そう言い放ったのだった。
ーーこれからまたやばい場所に連れて行かれるかもって話をされてるのにな。
一体こんな小さな体のどこから、そんな簡単に「行く」なんて言える勇気が湧いてくるんだか。
もしかしたら俺は、カレンを少し見くびりすぎて……
「だって、おにーちゃんやおねーちゃんが行くのに、私だけ置いてけぼりなの、つまらないんだもん」
いるという訳では無さそうだった。
思わず肩が落ちたじゃねーか。
「……何か、俺達が心配する程の事でも無かったのかもな」
「……その様ですね」
ソラヒメも俺と同じ様な心境なのか、顔も声も見たまま聞いたまま微妙そうだ。
「二人とも、どうかしたのー?」
「いや、何でもねーや。
……さて、話の続きだ。
氷竜討伐戦にカレンを連れて行く訳だが、実際には氷竜は俺とソラヒメで秒殺するから、安心してくれ」
『数秒……とは言えないかもしれませんが、すぐに終わらせてみせます』
これらは勿論、カレンを安心させる為の言葉だったのだが。
「むー。
私だって、少しは戦えるんだよ?
役に立てるもん」
逆にカレンをやる気にさせたらしい。
「いやいや、お前まだ小さいんだし。
今回は大人しくしとけ。
少なくとも、俺が許さん」
セプト村に居た時に相手をしてやっていたチビ達が、何となくカレンに重なる。
やっぱ、危ない事はさせたくねーや。
「もー、子供扱いしてー!」
「見たまんまガキだろ」
「もーぉー!」
俺に飛びかかろうとするカレンを、テーラが「落ち着いて落ち着いて」と抑え込みながらなだめる。
「シムル、これ以上カレンちゃんを煽らないの!
カレンちゃんの、アンタの負担を減らしたいって気持ちくらい分かるでしょ!」
『テーラ、これもシムルなりの気遣いと言うものです。
言った所で無駄ですよ』
「……それもそうですね」
「『ハァ』」とため息をつく二人を見た俺は、この場でどんな反応したら良いんだろうな……まぁいいや。
「兎に角!」そう言いながら俺は立ち上がり、テーラの膝の上のカレンをビシッと指した。
「今回はカレンに危ない事をさせるのは一切なし!
作戦は俺とソラヒメの全力による氷竜の撃破!
生徒が何人か氷竜討伐戦には付いていくらしいから、カレンは生徒連中の護衛役って名目でそいつらの近くで待機!!
以上だ、分かったな!!!」
「もぉー、おにーちゃんったらー……でも、おにーちゃんが危なくなったら助けるからね?」
「おう、危なくなんかならねーから大丈夫だ」
ガシガシとカレンの頭を撫でてやる。
すると、カレンがニコニコしだした。
ーー本当に、セプト村のチビ達と何ら変わりねーな。
「さて、それなら私も準備しないとね。
竜舎の掃除当番もあるし、これからまた忙しくなりそうね」
「ん?」
俺と一緒になってカレンを撫でながら、テーラもニコニコしながらそう言い始めた。
「待て待て、お前まで付いてくるのか?
別に良いんだぞ?
……割と危ねーだろうし」
「でも、アンタやソラヒメ様が居るから大丈夫でしょ?
それに、カレンちゃんも私が居た方が良いわよねー?」
「うん!」
カレンをギューッと抱きしめるテーラに、カレンはご満悦だ。
……こりゃ本当に行く雰囲気だ。
「テーラが居たらそれはそれで面白くなりそうだし、いっか。
よし、それじゃあこの面子で行くか!」
「「『おー!』」」
ーーと、こんな感じで意気投合した俺達は、氷竜討伐戦に向けて動き出すのであった。




