8話 一枚取った
今日は早めに投稿します。
それにしてもリアルで行なっている研究がちんぷんかんぷn(ry
書籍化作業も頑張ります()
「オイオイ……そりゃまたどう言うこった?」
俺の呟きに、周囲の視線が俺へと集まる。
あー余計なこと言っちまったか、なんて思っても時既に遅しだ。
ここに居る生徒全員が思っていることは恐らく、俺が聞きたいことと同じだろう。
生徒代表を含めた生徒連中の視線が俺に刺さる。
「早く続きを話せ」と。
「……ハァ。
分かったっての。
で、ヒュグさん……で良いっすかね。
あんたは今、他の生徒を守りながら氷竜を討伐しろって言ってたけど……それってつまり、ここに居る連中以外も連れて行くって事っすかね?」
「ええ、そうです。
君の言う通り、この氷竜討伐には他の生徒の皆さんも同行して頂きます。
王宮側が望んでいるのは、あくまでローナスの生徒達に「実戦とはどういうものか」を知っていただき、経験を積ませること。
大切なのは、一握りの生徒のみがずば抜けて優れていることよりも、学園全体のレベルが高いことなのです」
「尤も、生徒全員を連れて行くわけにはいかないので、多くても志願者三十人ほどになるかと思いますが」とヒュグは付け足す。
「ほーん……そっか」
ヒュグの満足そうな返事を聞きながら、俺は目を細める。
今の俺は多分、見るからにつまらなさそうだろう。
……そりゃそうだろうよ。
だって要するに、今俺達が頼まれているのは、ただ氷竜を倒せって事だけじゃなく……他の連中の面倒も見ろ、って話も込みなんだからよ。
流石にそりゃゴメンだ。
「それじゃ悪いが、俺は抜け『受けましょうシムル』はい?」
今聞こえちゃいけない言葉が聞こえた気がするんだが。
「オイコラ何言ってんだよ?」
目の前に居るソラヒメの肩をガシッと掴む。
ソラヒメはくるりと振り向き、落ち着いた口調で俺を説き伏せにかかってきた。
『シムル、貴方こそ何を聞いていたのですか?
この異常気象は氷竜のせいかもしれないと、先ほど説明を受けたではありませんか。
つまり、氷竜を放置すればまたあの雲のような物体が空を覆うかもしれないと言う事です』
「あー、そう言う事か」
と言うか、言われてみれば確かにそうか。
俺やソラヒメからしても、また訳の分からん雹を降らされて寒くなっても困るし、わざわざ退かした雲もどきが増えても気に食わないし。
んー、ソラヒメも行きたそうだし、行った方が良いのかこれ?
「そうか……君がシムル君か」
「ん?」
見れば、ヒュグが俺へと頭を下げていた。
「……なんすかね?」
「我々としても、今回の氷竜の討伐には君の存在が必要不可欠であると考えている。
どうか氷竜討伐にご同行願えないだろうか」
「今悩んでるところっすよ。
行ったら行ったでまた面倒になること間違いなしだしな……ちなみにあんた、何で俺をそんなに連れていきたいんすか?」
「……正直なところ、我々が生徒の皆さんを氷竜討伐に連れて行くと言う強硬策に出たのは、君の存在が大きいのです」
「それってつまり、俺を既に戦力の頭数に数えてるって事っすか?」
まだ参加するとは一言も言ってないわけだが。
この氷竜討伐戦の予定を組んだ奴は早とちりな連中だ。
「それは勿論。
君の規格外とも言える戦闘能力は、今回の討伐戦においても重要ですし……それだけではない。
君が来てくれれば竜王様も来て下さるでしょうし、例のバーリッシュの概念干渉使い、彼女もきっと力を貸してくれる筈」
――成る程分かった。
今更だが少し纏めよう。
つまり、この氷竜討伐戦は勿論ながら……勝ちが決まった作戦だ。
生徒を連れて行くんだから下手な事は出来ないし、当たり前と言えば当たり前だが。
俺やソラヒメ、それにカレンに加えて、生徒代表を始めとした王都選抜特待生の連中による過剰戦力で、氷竜を当たり前のように完封し。
そこで起こった実戦を安全圏から生徒達に見せようって話か。
確かにこれなら、生徒達に被害は殆ど出ないだろうな。
だって、ワイバーンに対してソラヒメだけでも十分だろうし。
……でもだな。
「おい待て。
あんた……カレンまで引き合いに出そうって言うのかよ?
まだガキの上に、やっとバーリッシュから自由にしてやったあいつを?」
俺は努めて声を低くする。
正直、ガキまで動員しようって言うこいつの……こいつらの魂胆は、正直受け入れがたい。
それとさっき、こいつは「例のバーリッシュの概念干渉使い、彼女もきっと力を貸してくれる」とか言ってやがったのだが。
――言い方が胸糞悪い。
よくよく考えれば、「カレンは俺やソラヒメが近くに居ないと自由にできない都合上、学園に置いていくわけにもいかないから俺達が討伐戦に行けば、強制的に連れて行くことになる」って事じゃねーか。
それを「きっと」だとこの野郎……!
――これじゃあカレンがあんまりだ。
俺は思いの丈を、ヒュグへと叩きつけてやろうとしたが。
『シムル、確かに貴方が言いたいことはよく分かります。
ですが、よく考えてみて下さい。
私達が本気になれば、カレンを危険に晒す前に片を付けることが出来ます。
それで、良いのではないでしょうか?』
ソラヒメに思い切り遮られた。
「よく考えるのはお前だ。
ここで俺達が断れば全部済む話だろうが。
俺やお前が要らない戦闘を避けられる上に、カレンも無事。
……それじゃいけねーのか?」
『それは……』
ソラヒメは珍しく黙り込んだ。
空を守る星竜として、今回の話についてはソラヒメにも引けないところがあるのは分かる。
それでも、俺の言っていることも正しいだろう。
やっぱり、俺達やカレンの無事が一番の筈だ。
「シムル、貴様は今回の話を受けるべきだ」
「はぁ!?
……何言ってんだお前?」
終わりかけた話に割り込んできた生徒代表を睨みつける。
しかし、そんな俺の態度など気にも留めないとでも言うように、生徒代表は話を進める。
「客観的に考えろと言っているのだ。
現在捕虜と言う形でこの学園に滞在している、バーリッシュの概念干渉使い……彼女は現在、この国に有益であると考えられているから生かされている。
少なくとも、無益であると判断されたなら、今頃こんなに自由な生活はさせていまい」
「何が言いたいんだよ?」
「つまり、彼女の有用性をこの国に示せと言っている。
これからの彼女の処遇を向上、もしくは安定させるために、彼女を今回の討伐戦に参加させ、彼女がこの国に対して友好的であることを示すべきだ」
俺は拳をグッと握り込む。
こいつの言う事は正直無視したい位だ。
固い理詰めの思考と考察にはうんざりしている。
「……ヒュグさんよ、そこの生徒代表様の言ってることって、どうなんだ?」
だからこそ、俺は生徒代表の言っていることが本当なのかどうか、国の人間に直接聞くことにした。
理詰めの固い考察より、大切なのは、本当のことだ。
間違ってる考察ならとっとと切り捨てるまで、合っているなら……。
ヒュグは、少し後ろめたさそうな声で答えた。
「シムル君……彼女の言う通りです。
バーリッシュの捕虜……カレンさんは、本討伐戦に参加するべきだ」
ヒュグが言ったのはそれだけだったが、俺が覚悟を決めるには十分だった。
「……そっか、なら仕方がねーや。
ソラヒメも行きたいって言うし、カレンのこの先に必要なら……な」
別に生徒代表の言う事を聞いた訳じゃないが……この話はもう俺だけの話じゃない。
この先のカレンの扱いにかかわって来るって分かっちまった以上、もう無視は出来ねえ。
「ただし」と俺は声を強めて付け足す。
「カレンを前に出せってのは無しっすよ?
今のあんたの話ぶりなら、ただカレンは付いて行かせて討伐戦に参加するって『事実』があればいい筈だ。
一応なりとも危険な作戦に参加はするんだし、ユグドラシル王国に対して、カレンは十分『友好的』ってもんっすよね?」
「ええ、あぁ……そうですね。
……そう言ってしまった」
俺の言いたいことに気が付いたのか、ヒュグは頭を掻きながら「一枚取られたか」と呟いた。
最初のヒュグの言い方は、あくまで「俺が氷竜討伐戦に行けばカレンが力を貸してくれる『かも』」と言う言い方だった。
それに次ぐこいつの言い方は、「ユグドラシル王国にカレンが友好的であることを示すため、討伐戦にカレンを参加させる『べき』」と言う話の肯定だ。
つまりこいつの言い草は、カレンを討伐戦に行かせろって話であって、戦わせろ、という言い方にはなっていない。
ヒュグ本人としては、カレンには戦ってほしかっただろうが……言質は取った。
前言撤回は許されないし、許さない。
そんな俺の気迫を感じたのか、ヒュグは「分かりました」と言った。
「では、他の王都選抜特待生の皆さんと同じく……貴方と、竜王様の活躍に期待しますよ」
「うっす、それは当然。
必要なことなんで」
ヒュグの呆れたような笑いに、俺は「してやったり」と思いながらニヤニヤした。
――さて、今回は気合入れていくか!!
ちなみに、俺にはセプト村に居た時から大切にしていることが二つある。
一つ、友達や、俺をよくしてくれる人達は大切にするべし。
そしてもう一つは……俺が親父にしてもらったように、小さい子供は、大切にしてやるべし、だ。
精神と時の部屋に入って無限に執筆したいです




