仲間
俺がタイムリープをしてから2日目。朝起きた俺は早々に学校へ向かった。
結論から言うと、俺は橘さんのことを覚えていた。さすがに昨日あったことのすべては覚えていないと思うが、ある程度のことは覚えている。俺の今日の目標は展望台に行くことだ。そこで俺は失った記憶を取り戻す。
教室に入る時、覚悟はしていたつもりだった。しかし、人間はそう割り切れるものではない。俺は自分の前に座っている人物を見て、少し落胆してしまった。昨日はこの席に橘さんが座っていたからだ。その人物は俺を見るなり、陽気に話しかけてきた。
「なんだ、えらく辛気くさい顔してんじゃん。どうしたよ?」
そう話しかけてきたのは川崎和希である。彼は野球部に所属しており、性格はさばっとしていていいやつだ。俺の親友でもある。
「いや、なんか色々あってさ。」
ここ数日間、本当にいろんなことがありすぎた。
「いろいろねぇ。よかったら相談に乗るぜ?」
こいつのこういうところは本当に助かる。
「なになに、何の話してるの?」
そう言って近づいてきたのは山下昴。中性っぽい顔立ちをした彼の性格は、とにかく温厚である。怒ったところなんて見たことがない。もう聖人ってレベル。
「いやさ、楓なんか悩みがあるんだとよ。」
和希が俺の代わりに答える。
「そうなの? 何でもいってよ、力になるよ。」
ん? 今なんでもするって(以下略 今はふざけている場合ではない。
それにしても和希にしろ昴にしろ、本当いい友達を持ったなぁとしみじみ思う。
この2人になら、この途方もない話を打ち明けてもいいかもしれない。
「実はさ…」
そこで教室のドアがガラッっと開いた。自然に目がそちらへ向かう。入ってきた人物は他のクラスメイトをあいさつを交わしながら俺の隣の席までやってきて、やがて俺に視線を向けた。
「おはよう。なんだか楽しそうだね。」
可愛らしい笑顔で俺にあいさつをしてくれたのは、春日葵である。何を隠そう、俺の好きな女の子だ。
身長は小柄。髪はショートカットで目は大きくクリっとしている。気さくでだれにでも優しく、男女問わず人気が高い。
太陽みたいな笑顔を向けてくれる彼女は、まさに俺の天使。
昨日橘さんの告白で気持ちは揺れたけど、やっぱり俺はあおちゃんのことが好きなんだと改めて実感した。
「おはよう。」
あいさつを返した俺は和希と昴を見た。
「悪い、続きは昼休みでいいか?」
俺の様子が急に変わったことから悟ったのか、二人は何も言わずにうなずいてくれた。察しがよくて助かる。
いきなり話が途切れてあおちゃんは少し不審がっていたが、さほど気にしてないようだ。一応フォローを入れておく。
「そういえば、今日英単語のテストあるけど、ちゃんと覚えてきた?」
「うん、だいたい覚えてきたよ。けっこう自身あるんだ。」
少しドヤ顔なあおちゃん。そういうところも可愛い。
「俺は今から覚えるぜ。」
前の席の和希も会話に乗っかってきた。
「お前それで点数とれるからほんとうらやましいよ。」
「ねー、すごいよねぇ」
「だろだろ?」
そんな風に話していると担任の真田先生がやってきて、朝のHRが始まった。
授業を淡々と消化し、そして迎えた昼休み、俺たち3人は再び集まった。あまり人に聞かれたくない話だったので、校舎の外で弁当を食べることにした。本当はあおちゃんと談笑しながら食べたかったんだけど、そこは我慢だ。
「で、何があったよ?」
和希がド直球に聞いてくる。途方もない話なのでやはり話すかどうか、もしくは一部事実を伏せて話そうかと思ったが、俺は覚悟を決めた。
「実はさ…」
俺は、宇宙人の存在、地球の時間停止、俺がタイムリープしていることなど、ここ数日間で起きたたくさんの出来事を2人に話した。上手く説明できたかはわからないが、2人は最後まで話を聞いてくれた。そして俺は長い話を終えた。すると、
「お前、それマンガとかアニメの見すぎじゃねーの?」
「すごい壮大な話だったね。」
2人の第一声はこんなだった。予想はしてたけど、やっぱりそう簡単には信じてもらえないか。そう思っていると、
「でも、マジなんだな?」
和希がそう確認してきた。だから俺は自身を持ってこう答えた。
「あぁ、大マジだ!」
「正直とんでもない話だけど、楓が嘘をついてないことくらいわかるよ。付き合い長いからね。」
「昴…」
「こんなにあっさり信じてもらえるとは思ってなかったよ。2人とも、ありがとう。」
「もっと俺たちを信用しろよ。親友なんだからよ。」
「あぁ、そうだな。」
グッと心にくるものがあり、胸が熱くなった。俺はそれをごまかすかのように話を続けた。
「で、話をまとめるとだな・・・」
今日やるべきことは、展望台に行くことである。ただ行くだけなら簡単だが、橘さんの話によると、行く途中で妨害が発生するらしい。だから俺は2人に協力を仰ぐことにした。
「今日は部活休みだし、いいぜ。」
「僕も大丈夫だよ。」
2人とも快く引き受けてくれた。持つべきものは友達である。
「しかし妨害ってなんだろうな?」
「さぁ、俺もそこまではわからないな。」
和希とそんな話をしていると、昴が感心するように言った。
「いやぁ、言われて初めて気付いたけど、そういえばもうずっと展望台には行ってないなぁ。」
「俺もそうだよ。なんか忘れてたというか、興味が向かなかったというか…」
昴の話に乗っかった和希の発言あいまいなものだったが、まさにそうとしか言いようがなかった。暗示とはそういうものなのかもしれない。特に昴と和希は昔から俺と近しい存在だったので、暗示によって受ける影響も大きいのだろう。
とりあえず、放課後に3人で展望台に向かうことにした俺たちは、話に時間を使いすぎたため、急いでほとんど手つかずの弁当を胃袋へと掻き込んだ。授業の始まる少し前に教室に戻った俺をあおちゃんが迎えてくれた。
「今日は外だったんだね。」
「あ、うん。たまには外もいいかなって。」
さすがにあおちゃんに真実を話すわけにはいかないので、うまく会話を合わせることにした。
「何か楽しいお話してたの?」
「うん、放課後久しぶりに展望台に行こうかなって」
「えっ? 展望台?」
あおちゃんの不思議そうに首をかしげた。
「楓くん知らないの? 展望台は数年前の事故の時から立ち入り禁止になってるよ。」
「…へ?」
そこで無情にもチャイムが響いた。
どうやら早速前途多難かもしれない。




