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Turn3~東真~

早朝。


部屋に響くノックの音で彼は目覚めた。時計を見てみるとまだ四時である。


窓の外は朝日が射しているが、普通ならまだ寝ている時間だ。

重たい目を擦りながら、ドアの方へ向かい、扉を開いた。


目の前に立っていたのはマリ子である。


東真「おはよう、マリ子。」


マリ子「おはようございます。」


東真「まだ早いんじゃないか?明るくなってすぐみたいだし。」


マリ子「そんな事ありません。六時には私達が居たマスへ戻らなければいけないんですから。すぐ朝食をとって行くべきですよ。」


東真「ろ…六時ぃいぃい!?」


マリ子「そうですよ。キャラメさんが申請したのは夜の間ですから。」


東真「だからって…早すぎだろ!」


そんな事を言っても、何にもならないし…ここは大人しく従うか。


ペナルティとか何とかになりたくないしな。


食堂へと足を運んだ俺達が見たのは、テーブルに並べられた豪華な食事と、東真と同じように起こされたプレイヤー達、そして平然と食事を採るスポンサーの姿だ。



やっぱ朝早くに起きるのは誰だって辛いよな。


テーブルに並べられている料理を一瞥し、俺の席らしい場所に座る。マリ子の隣だ。


皆と一緒に食事をとりながら、今日の予定について話始める。


叉玖埜「今日も東真からだね。」


夜弥「この前と一緒って事ぉ?」


禀「多分そうでしょうね。」


皆は俺より早く着いていたせいか、食事をとり終わったようだ。俺はテーブルの真ん中にあるパンの入った篭に手を伸ばしながら、話を聞く。


ゼリアム「今日は職業選択が主になるであろう。」


キャラメ「ここが分かれ目、でショ。」


スポンサーは今までの経験上、マスの効果を理解しているらしい。職業選択というのは普通の人生ゲームにもあるような、あんな感じだろうか。


タリス「ま、全ては運次第だな。」


そう言ったタリスが立ち上がった。それに来美が続く。


来美「では皆さん、マスの上で会いましょう。私は先に行くわ。」


そう言い残し二人はこの場を後にした。


禀「夢…叶うかな。この場所で。」


パティシエになりたいという禀。この世界で叶える事が出来るだろうか。


禀「…………。」


そんな他人の事を考えながらも一番心配なのは、自分の事だ。


人生ゲームは職業である意味決まる。これでエリートコースへ行ければ、一位への近道だ。

それに、借金になりにくい。

これは是非とも良い職業につきたいものだ。


目の前に出されたスープを飲みながら、そんな事を考える。


透き通ったオレンジ色のスープに映る自分の顔がスプーンを入れスープをすくうと同時に揺らめく。


すくったスープを口元に運び、そのまま飲む。


しっかりしたコンソメベースの味付けの中に、野菜の旨味がじゅわぁっと広がって凄く美味しい。あまりの旨さに次々とスープを口の中へと入れていく。


スープの中に入っている野菜はどれも柔らかく、こちらもスープが良く染み込んでいて美味しい。


最後の一滴さえもが勿体無くなるようなスープに俺は感動し、このレシピを教えて欲しいと思う程これを気に入ってしまった。


その時、こんな美味しい料理が作れるようなシェフになりたい、という考えが浮かんだ。


今まで、「普通」に生活出来れば良いという単純な思考だったのが、少し複雑な思考に変わったのだ。


これは俺にとって記念すべき初めての「夢」となった。


この職業ならば、他人を喜ばす事も出来るし、自身の好みを追及したり出来る。


もし、俺がこのゲームで一位になり生き返れた時には、役に立つ才能となる。


これ程いい経験はない。


ただここで問題なのは、

丁度良くマスに止まれるか、という事だ。

マスに止まれなければ、その職業にはなれない。それがこのゲームの決まりだからだ。


マリ子「東真さん?何小難しい顔してるんですか?」


マリ子に不意を突かれ、ハッと顔を上げる。どうやらいつの間にか下を向いて考え事をしていたようだ。それに俺が考え事をしている間にほとんどの人がマスへ向かったらしく、この場に残っているのは俺とマリ子、そしてキャラメと禀だけだった。マリ子は心配そうに俺を見つめている。心配を掛ける訳にはいかないと俺は即座に「考え事をしていた」とマリ子に告げた。


丁度食事も済んだ事だし昨日居たマスに行こうとマリ子に言いその場を後にしようとした瞬間、禀に呼び止められる。


禀「東真さん」


禀のいる方を向き、何かと尋ねる。だが禀は下を向いたまま黙っているだけだ。


東真「どうしたんだよ?」


俯いたままの禀が顔を上げた。顔は何故か真っ赤である。

何か言いたそうな顔でこちらを見て口をぱくぱくしているが、何を言っているのかは分からない。


東真「顔、真っ赤だぞ?熱でもあんのか?」


禀「え!?…いや…その」



指摘された禀は、手を自分の前で組んではほどき、組んてはほどきを繰り返し、目も右、左と泳いでいる。


明らかに挙動不審だ。


東真「禀」


禀「あっ、あのッ!」



俺の声を遮って禀がやっと言葉を口にした。


禀「もし…私がパティシエになれたら…ケーキ、食べに来てくれますか…?」


何を言うかと言えばそんな事か、と期待外れの言葉に内心ガッカリしながら俺は「勿論」と返す。禀は俺の返答を聞くとほっとしたように肩を撫で下ろし、深呼吸を一度した。その後「また後で」と言い残しマスへと向かって行った。


東真「俺達もマスへ向かうか」


マリ子「はい」



マリ子の返答はこの時だけ、何だかおかしかった。俺を見るマリ子の目も、いつもと違う。何か人を疑うような顔をして「はい」と言ったのだ。


だが、そんな事を気にしている時間は俺達には残されていない。他のプレイヤーはワープで行けるが、俺達は徒歩だ。


マリ子「…ガンガンダッシュでいきましょうか」


東真「それしかないよな~」


半ば諦めたように、俺達は走り出す。マリ子はすでにいつも通りに戻っていた。まぁ、あの顔は気のせいだったのだと頭の隅にやり今はゲームの事だけを考える事にした。


東真「…ちょ、ちょっと待…てよ…」


マリ子「どうしました?」


全力で走っている為、息が切れ話すのもやっとだが…。


東真「俺…達、レストラン…の近くのホテル…に泊まっ…たんだよな?」


マリ子「そうですよ」


東真「確か…レストランからあの…場所って…」


マリ子「遠い、ですね」


確か車で一時間位掛かった筈だ。その距離を走ろうだなんて馬鹿げてる…!


東真「マリ子!タクシー、タクシーを…!」


マリ子「お金掛かりますよ?」


東真「いい、良いから…!」


今はお金より、ペナルティを受けないようにするのが先決だ。お金なんて後々マスで手にはいる。多少の借金から返せる筈だ。それならタクシーを呼び、マスへ向かった方が得策だろう。


マリ子「では今電話しますね。もしもし…タクシー会社さんですね?タクシーをお願いしたいのですが」


マリ子が走りながらタクシー会社との連絡をしている。本当、ロボットって便利だよなぁ。息を切らさずに走れるし、走りながら電話出来るし。

こっちなんか息は切れ切れ、走るの疲れるわなんやでもう大変だってのに。


東真「マリ子!一体何処にタクシー呼んだんだ!?」


ほぼ叫びに近い状態で話す。マリ子はそれに応じるように「1500メートル先です」と答えた。


1500メートルというと、一キロ半!!そんな距離猛ダッシュ出来ねぇよ!


マリ子「先にタクシーが着いても待っててもらうので大丈夫ですよ。」


東真「それよりここまで迎えに来てもらう方が良かっただろ!!」


マリ子はハッ、としたようにこちらを見てからこう付け加えた「運賃が節約できますからね」と。


絶対今考えただろ!と思いながら……しかし逆らった所でどうにもならないので俺は走り続けた。


段々走るスピードは落ちていき、もはや歩きに近いスピードになった頃、やっとタクシーが見えた。俺は安心して、最後の50m位を全力で走る。


マリ子「このまま行けば、何とか間に合います!」


タクシーに駆け込み、行き先を告げる。タクシー運転手はにこやかに応答し、出発した。緩やかに加速し……、加速し……更に加速した。

眺める景色はもはや切れ切れでまともに見れない。何処を走っているのかさえ謎だ。


東真「はっ、速すぎじゃないか!?」


運転手「これくらいで進まないと間に合いませんよぉ?」


行動とは違い、朗らかな声で言うタクシー運転手。歳は俺の親父に近いか?

取り敢えず、この車のスピードはあり得ない。高速道路や、レースじゃあるまいし。このままじゃ事故を起こしそうで怖い。


東真「いつもこんなんなのか!?」


運転手「えぇ。毎回time終了時間に遅れるというお客様がいらっしゃいますので……」


マリ子「あ、でも心配しないで下さい。time終了時間の三時間前から、timeが終了するまで、車はプレイヤーの乗る車以外は通行禁止ですから。」


確かに、どんなに広い道路にも車は見当たらない。ガランとした道だけがある。


その道を、まるで走り屋のようにかっ飛ばしている。普通なら、捕まるような事をここでは平気でしているのだ。


東真「警察に捕まらないのか?」


運転手「えぇ。大丈夫ですよ」


それもどうかと思うのだが……。警察の意味あるのか、それ。



異常な速度で走るタクシーは、あっという間にマス近くまでやって来た。見覚えのある風景が……といっても途切れ途切れにだが見えた。


東真「ここら辺で下ろしてくれ」


運転手「分かりました。え~料金は、6320フルになります」


困った事に、手元にあるお金では払えない。


東真「ツケといてくれ!」


まさかこんなすぐに借金を作ってしまうとは……。


運転手「次は職業マスなんでしょう?でしたら、すぐ給料日が来ます。心配しなくて大丈夫ですよ」


運転手にお礼を言い、俺達はタクシーを降りた。


六人が居るストップマスに着き、一息ついてから時計を確認する。もし、間に合っていなかったら……こんなに急いだ意味が無い。


はらはらしつつ、時計を確認して安心した。何とか間に合ったようだ。


叉玖埜「良かったね、間に合って」


東真「代償はでかいけどな……」


まぁ、とりあえずは安心だ。マス目についた事で、ペナルティは受けずに済む。


そう思った直後、あの声が聞こえてきた。前にtimeを宣言した奴と同じ声だ。


?「これより、timeを終了し第3ターンを始める。順番は前と同じく東真からだ」


名指しをされ妙に緊張した後、そいつの声は消えた。どうやらもう俺のターンのようだ。


マリ子「ストップマスの効果にて、今回は二度サイコロを振ります。一度目は進む方向を決めるものです」


(実際機械だが)機械的にマリ子が喋った。まるでマニュアルでも読まされているような棒読みだった。俺はその声に妙な違和感を持ちながら、サイコロを投げる。


マリ子「……偶数、ですね」

サイコロが示したのは2。故に偶数だ。


マリ子「これでルートが決まりました。Bルートに進みます」


どうやらルートが少なくとも二種類はあるようだ。俺が進むのはBルートらしい。とはいっても、具体的にどちらがどんなルートなのかは分からない。今は言われるがままに従うだけだ。


マリ子「ではもう一度サイコロを振って下さい」


一度投げたサイコロを拾い上げ、もう一度転がした。


サイコロが示したのは3。つまり3マス進む事になる。


マリ子「じゃ、行きましょうか」


マリ子と共に建物の中を進んでいく。建物内に入ると、受付と2つの扉があった。


受付嬢「AとBどちらのルートでしょーかー?」

やけにおっとりした受付嬢に、「Bです」と告げるマリ子。


受付嬢「では左のドアをお進み下さーい」


……この受付嬢やる気ないな。まぁ、それはいいとして。

左のドアがBルートだとすると、右のドアはAルート行きのドアになるな。


でも、何が違うんだ?

確かにドアの色は違うけど、流石に違いはそこだけって訳じゃないだろうし……。


東真「AルートとBルートで何が違うんだ?」


マリ子「なれる職業ですよ」


つまりAルートでしかなれない職業や、その逆もあるという事か。


建物の中は、商店街のようにずらりと部屋が並んでいる。どうやら止まる場所によって該当している職業になれるみたいだ。

でも、こうぞろぞろ部屋が並んでいると気持ち悪い。建物自体ももはや廊下のようだし、出口が無いように思えてくる。



目的の部屋の前に到着したらしく、先を歩いていたマリ子の足が止まった。そしてドアを開き、中に入る。


マリ子「どうやら東真さんは戦士に転職出来るみたいですね。ここ戦士ギルドみたいですから」


建物に入ってすぐのマリ子の一言に俺は驚きを隠せなかった。何だ、戦士って。普通医者とか、先生とか、アイドルとかだろ?何でファンタジーみたいに戦士に転職出来るんだよ。


マリ子「この世界は皆さんの要望でファンタジーが入ってますからねぇ、このような所に反映されてるんでしょう」


俺の気持ちを察したかのようにマリ子が付け加えた。


確かにそんな事前に言ってたな。


「貴様はここに何をしに来た?」


カウンターに居た男が話しかけてきた。その人はかなりムキムキで怖そうな顔をしていた。明らかに戦士って感じだ。鎧もしてるしそれっぽい。


東真「職業選択だよ、職業選択」


「そうか!なら決めるがいい。貴様は戦士になるのか?ならないのか?」


案外話はすんなりと進み、戦士になるのかならないのかという簡単な質問を投げ掛けて来た。

さて、どうしようか。

戦士というと、何か強そうだけど馬鹿なイメージがあるよな。でもこの先、何になれるか分からないし…


俺は悩みに悩んだ挙げ句、いいえを選択した。


「そうか、残念だ」


戦士は残念そうに言い、その後に「幸運を祈る」と口にした。


顔は怖かったけど、良いヤツだったんだな。


マリ子「いいんですか?戦士にならなくて」


戦士の部屋から出た時、マリ子が言った。


東真「良いんだよ、選択権は俺にあるんだし。なりたい職業がまだあるかもしれないしな」


マリ子「では、ターンを終了しますね」


東真「おぅ」




~~~~~~~~~~~~~~


?3「playerⅤ、職業選択の結果、戦士を辞退しました」


?「……そうか。」


薄暗いモニタールームでは、turnの報告が行われていた。


相変わらず深く椅子に腰掛けている?に、?3はモニターに映し出された情報を伝える。


報告を受けた?は、その現状が気にくわないようだった。


?「やっと職業選択のマスに辿り着いたか。ここに来るのに一体どれだけの時間を費やせばいいというのだ。


遅い、遅すぎる。


従来のplayerなら、1日でturn5までは進んでいたものを……。全く。」


?3「シルヴァー様、そう怒らずに」


?3は宥めるようにシルヴァーに言った。


シルヴァー「……そうだな。憤慨した所で何も変わらない。無駄だな」


?3「そーいえば、例の件はどうなったのですかー?」



気分を変えようと思ったのか、?3はシルヴァーに話をふる。


シルヴァー「あぁ、既に手配済みだ」


?3「そうですかー、ではこちらも準備しておきますねー」


シルヴァー「頼んだぞ、ファルム」


ファルム「いえっさぁ~」


シルヴァー「お前も準備しておけ、“playerⅥ”」


?2(playerⅥ)「……はい」


?2は、僅かに返事をしながら頷いてみせた。


シルヴァー「……実に楽しみだ」


シルヴァー率いるplayerⅥの参戦は新たな敵の出現を意味していた――。

プレイヤーⅤ 東真


ゴールまで

“190マス”


プレイヤーⅠ 来美


ゴールまで

“193マス”


プレイヤーⅡ 禀


ゴールまで

“193マス”


プレイヤーⅢ 夜弥


ゴールまで

“195マス”


プレイヤーⅣ 叉玖埜


ゴールまで

“193マス”







久々の更新でしたね。

今回から職業選択に入ります。

東真は戦士になるかという問いに対して、「いいえ」の選択をしました。


これが吉と出るか、凶とでるか……


そして他のplayerは、どんな選択をするのでしょうか?


そして今まで?表示だったキャラクターが段々明らかになって来ました。


?→シルヴァー


?2→playerⅥ


?3→ファルム



この人達はこれから何をするんでしょうね?


では。

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