~ 伍ノ刻 冥夜 ~
夕方から降りだした雨は、べたついた霙に変わっていた。フロントガラスに張り付いてくる雪とも雨とも言えない粒を、車のワイパーがせわしなく追い払っている。
「やれやれ……。警察ってやつは、ほとほと無能の集まりだと思ってたが……まさか、本気で俺のことを追っかけてくるとはね」
愛車のセダンを走らせながら、榛原直人は苛立った様子で言った。無理もない。夕食を作るのを面倒だと思い、たまには駅前の店で何かを食べようと車を走らせたところ、間髪いれずに自分の後を一台の車がつけて来たのだから。
自分を追っている車が覆面パトカーであることは、榛原にも当に分かっていた。回転灯を隠していても、榛原には相手が警察かどうかを見極めるための手段がしっかりとある。
「阿呆どもめ。こちとらには、お前達の動きを知るための手段がちゃーんとあるんだぜ」
そう言って、榛原は助手席置いてある不格好な機械に目をやった。一見してガラクタにしか見えない箱だが、これは高性能の無線機である。いや、実際には無線を傍受するための機械と言った方が正しい。
警察や業界の人間が自分のことを何と言っているのか、榛原とて知らないわけではない。誰よりも早く事故や殺人事件の情報を嗅ぎつけ、その被害者の写真を撮るために現れるハイエナ男。死体をこよなく愛し、死体写真に囲まれて過ごすことを至福の時とする変質者。
まったくもって馬鹿らしい。自分が事故や殺人の現場を好んで撮影するのは、少しでもインパクトの高い写真を撮るためである。その方が、売る時にも値を釣り上げられるというだけの理由だ。誰が言いだしたのかは知らないが、死体愛好家呼ばわりなど、名誉棄損も甚だしい。
それに、いくら自分が事故や事件のことを嗅ぎつける力があるからといって、なにも嗅覚に頼って現場に向かっているわけではない。死体の匂いを嗅ぎ分けて現場に向かえるなら、それはもう人間ではなくシデムシだ。
榛原直人が業界関係者の誰よりも早く現場に辿りつける理由。それが、彼の車の助手席に置かれた機械だった。数年前、知り合いのマニアに頼んで作成してもらった、ハンドメイドの無線傍受用機械である。
一昔前、警察無線を傍受することは、そう難しいことではなかった。だが、現代においては第二世代のAPRが導入され、その傍受は極めて難しくなっている。更に、当然のことながら、傍受していることが発覚すれば電波法違反などの罪で裁かれることになる。
警察無線など、傍受する者などいるはずがない。仮にいたとしても、名乗り出たら最後、その人間の人生は終わる。発覚しても同じことで、あまりにもリスクが高すぎる。
所詮はマニアの自己満足。そうでなければ、本気で国家を転覆させるようなことを考える組織でない限り、警察無線など傍受はしない。
だが、そういった素人を甘く見ている現状が、榛原にとっては返って好都合だった。
フリーの自分がこの業界で食って行くには、少しでも他とは違う写真を撮って出版社に売りつけねばならない。非合法な手段を使っていることは分かっていたが、そうでもしなければ、フリーで食べて行ける人間などほんの一握りだ。
(さあて……。そろそろ遊びは終わりにするぜ、お巡りさんよ)
バックミラーに映る覆面パトカーを睨みつけながら、榛原は心の中で呟いた。車のギアを入れ替え、助手席に置いてある機械はトランクの中に仕舞う。あくまで平静を装いつつ、そのまま車を有料の駐車場に止めた。
車を出ると、自分のことをつけてきた覆面パトカーもまた、駐車場に止まろうとしていた。相手が動きを止めるのを待たず、すかさず榛原は早足で歩きだす。
向こう側も、どうやら榛原の動きに気づいたようだった。なにやら慌てて車のドアを閉める音がするが、もう遅い。車に乗っている状態ならいざ知らず、歩いて尾行をまくことなど、もう何年も前からやっていることだからだ。
機械の入ったトランクを片手に、榛原は入り組んだ路地裏へと向かう。下町ながらの長屋や飲み屋が集まる駅の裏手は、追手をまくには恰好の場所だ。
右へ、左へと歩くにつれ、自分の後ろから聞こえてくる足音が遠のいていった。さらにゆくと、辺りはしんと静まり返り、もう誰の姿も見る事はない。
「ふう……。連中、ようやく諦めてくれたってわけね」
誰に聞かせるともなく、榛原は独り肩をすくめて呟いた。
「さて、と……。警察の連中をまいたのはいいが、これじゃあ当分は駐車場にも戻れねえな。まあ、しばらくは、そこらの店で適当に暇をつぶすとしますか」
ポケットから煙草を取り出し、口に咥えて火をつける。白い煙の塊を吐きだした後、榛原は下町の路地裏へとその姿を消した。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
榛原が行きつけのラーメン屋を出たのは、既に時計の針が夜の九時を回った時だった。
警察の尾行をまいた後、榛原はその辺の喫茶店で適当に時間を潰していた。別に、何をする予定があるわけでもないが、刑事がうろついていると分かっている駐車場へ、わざわざ戻るほど馬鹿ではない。
その後、しばらくは喫茶店でコーヒーを飲んでいたが、やがて空腹を覚えて店を出た。
尾行をまいたとて、しばらくは油断できない。あまり同じ場所に長居するのも得策ではないし、わざわざ喫茶店で夕食を食べようという気にもならなかった。
路地裏を抜け、榛原は行きつけのラーメン屋に入った。別段、行列ができるほど美味いラーメン屋というわけでもないが、昔ながらの味なので安心して食べることができる。
ラーメン屋で簡単に食事を終え、榛原は時間を気にしながら店を出た。そして、火照った身体を冷ますように夜風に当たりながら、S川のほとりを歩いて今に至るというわけである。
「それにしても……」
残る僅かな煙草を箱から引っ張り出して、榛原はそれを口に咥えた。
「警察の連中は、いったい何を勘違いしているんだかな」
ポケットからライターを取り出して、咥えた煙草に火をつける。口から吐き出した白い煙が、夜の風に乗って闇を白く染めた。
自分が警察に尾行された理由。それは、榛原にもなんとなくわかっている。
ここ最近、火乃澤町で起こっている女性を狙った連続殺人事件。その容疑者として、恐らくは自分が警察にマークされたのだろう。
まったくもって、馬鹿馬鹿しい。そう口に出す代わりに、榛原は再び煙草の煙を吐き出した。
確かに自分は、死体愛好家の変態写真家などと噂されている。業界内でハイエナ呼ばわりされているのも知っているし、こと警察関係者に至っては、自分のことを快く思っていない人間の方が多いだろう。
だが、それだけの理由でこちらを犯人扱いするなど、あまりにも幼稚な考えだ。それに、状況証拠だけで犯人を逮捕できないことは、榛原自身もよく知っている。
もっとも、その一方で、榛原は警察という組織のやり口に関しても色々な意味で知り尽くしていた。今日、自分が刑事達の尾行をまいたのも、警察組織の手口を知っているからこその判断である。
警察は、榛原を容疑者として扱っている。しかし、確たる証拠もなければ令状もない状況では、榛原をいきなり逮捕することはできない。任意同行を求めたところで、榛原自身に断られればそれでお終いである。
だからこそ、警察は別件逮捕という手口を好んで使う。スピード違反、飲酒運転、その他なんでも良いので、とにかく容疑者を捕まえてしまえる口実を作る。そして、強引な取り調べを行い、時には暴力を使ってまで自白を強要し、別の事件の容疑者として再逮捕するというやり方だ。
日本の警察の全てが、そんな横暴なやり方を用いて犯人を捕まえているわけではない。それは、榛原とて知っている。が、今日、自分を追いかけて来た刑事達が、自分を別件逮捕しないとも限らない。
無線を傍受する機械を持って車を出たのもそのためだ。さすがにこの機械が見つかれば、榛原も言い逃れはできなくなる。電波法違反で強引に連行され、最後は猟奇殺人事件の犯人に仕立て上げられてしまわないとも限らない。
「しっかし……今日は、これからどうするかねぇ。駐車場に戻ったって、刑事が張り込んでる可能性もあるからなぁ……」
本音を言えば、有料の駐車場にいつまでも愛車を置いておきたくはない。が、このトランクを持った状態でのこのこ帰れば、職務質問をされた際に厳しい状況となる。
残念だが、今日はトランクをどこかに預けてしまうのが得策だろう。一番安全なのは、コンビニに預けてしまうことだ。自宅宛ての宅配便として頼み、翌朝一番の集荷で家まで届けてもらう。見つかると危険な代物は、一時的に手元から離してしまった方が安全だ。
思い立ったが吉日。そんな言葉を思い出し、榛原は踵を返して河の畔から離れようとした。
ところが、そんな榛原の行く手を遮るようにして、彼の前に一台の車が現れた。白塗りの、どこにでもありそうな乗用車である。土手に生えていた背丈の高い草が邪魔をして、向こう側から榛原の姿は見えていないようだった。
(なんだ、あの車は……)
深夜とまではいかない時刻だったが、それでもこんな夜更けに河川敷までやってくる車があるのはおかしい。どこぞのバカップルがドライブでも楽しんでいるのかと思ったが、それしては様子が変だった。
(警察の尾行か?)
警戒を緩めず、榛原は茂みの影に身を隠した。あの時、完全にまいたはずだと思ったが、どこかで姿を見られたのだろうか。
車のドアが開き、中から一人の男が姿を現した。夕方、榛原を尾行していた刑事達とは違うようだ。
男は車のトランクを開け、その中から、なにやら青いシートにくるまれた物を引っ張り出す。それは縦に長く、随分と大きな物だった。
男はトランクから引っ張り出した積荷を、シートにくるんだまま抱え上げた。調度、人が人を抱きかかえるように、両腕に積荷を乗せて土手を下りて来る。
河の側まで来ると、男はやけに辺りを気にしながら、そっと積荷をくるんでいたシートを剥いだ。先ほどからその様子を窺っていた榛原は、シートの中から出て来たものを見て思わず絶句する。
(死体だ……)
直感的に、そう思った。シートの中から現れたのは、女の物と思しき白い二本の足。茂みの向こうからではその程度しかわからなかったが、それでも女が既に死んでいるということだけは、榛原にも容易に想像がついた。
どうやら自分は、とんでもない現場に遭遇してしまったらしい。もしかすると、あの男は巷で騒ぎになっている、例の連続殺人事件の犯人なのかもしれない。
恐怖心と好奇心が、榛原の心の中でせめぎ合った。
今、自分の目の前にいるのが連続殺人事件の犯人だとすれば、第一に逃げることを考えた方が良い。何しろ自分の知るだけでも、相手は既に三人、この現場に持ち込まれた死体を含めれば四人は殺している凶悪犯なのだから。
だが、その一方で、榛原の中には犯人の顔を是が非でも拝んでやりたいという気持ちもあった。ここで犯人の正体を突き止めれば、それこそ今までにない特ダネとなる。自分にかけられた嫌疑も晴れるだろうし、榛原直人の名も一躍有名になるに違いない。
茂みの向こうから様子を窺っていた榛原は、相手がまだこちらに気づいていないことで俄然強気になっていた。首から下げたカメラを構え、死体を河に投げ捨てようとしている男の姿をファインダーに収める。
榛原の使っているカメラは、当然のことながら彼なりの改造が施してある。シャッター音を抑えることもできるし、フラッシュを使わずともある程度鮮明な像を写し出すこともできる。
要は盗撮などに使われるカメラなのだが、別に榛原には覗きの趣味があるわけではない。ただ、合法と違法のぎりぎりの範囲で取材をすることが多いだけに、こういった類の道具があると何かと便利だった。
茂みの向こうでカメラを構えたまま、榛原はじっとチャンスを待った。まずは死体と男が一緒に写っている写真を数枚撮り、次に男の顔を写そうと機会を窺う。
ボチャン、という水音がして、死体が男の手によって河に放り込まれた。仕事を終えた男は、やはり辺りを気にしながら、死体をくるんでいたシートを丁寧に畳んで行く。
(よし……。もう少し……もう少しだけ、こっちを向け)
危険なことをしているという意識は、既に榛原の中で薄れつつあった。それよりも、自分が特別なことをしているという高揚感が、榛原の中を駆け巡っていた。
嫌われ者のカメラマンだった自分が、一瞬にしてヒーローになったような錯覚。そんな感覚に支配され、榛原は自分の後ろから近づいてくる者の存在に気がつかなかった。
――――ガサリ。
突然、後ろで音がした。榛原が、ハッとした様子で我に返る。
振り向くと、そこにいたのは一匹の猫だった。宵闇に溶け込んでしまうような漆黒の体毛を持ち、その顔の中心で、二つの目が金色に輝いている。
(なんだよ、猫か。まったく……脅かすなっての)
相手が人間でなかったことに、ほっと安堵のため息をつく榛原。しかし、いつまでも安心してはいられない。この猫が妙な動きをしたせいで、自分が殺人犯に見つかってしまったらどうなるか。先ほど忘れていた恐怖心が、再び榛原の中に込み上げて来た。
(しっ、しっ! あっちへ行きやがれ!!)
片手を振って、榛原は猫を追い払うような仕草を見せる。音を立てて威嚇できれば話は早いが、それでは自分も見つかってしまう。
もどかしいにらみ合いが、しばらく続いた。初めはこちらに興味を持っていた猫も、程なくして榛原の前から姿を消した。
(やれやれ……。とんだ乱入者だったぜ)
猫がいなくなったことで、榛原は再びカメラを構えて男の姿を追う。見ると、男は既に仕事を終えてしまったのか、車に乗って帰ろうとしているところだった。
このままでは、決定的な証拠をつかみ損ねてしまう。せめて、男の乗っている車のナンバーだけでも抑えなければ。
レンズの望遠を最大にし、榛原は発車しようとしている車の後部に狙いを定めた。そのままシャッターに指を伸ばし、躊躇うことなくそれを押す。
カチリ、というシャッターを押した感触が指に伝わり、榛原はそっと首を上げた。が、次の瞬間、首筋に激しい痛みを感じ、その場に仰向けになって倒れ込んでしまった。
「あ……が……」
声を出そうにも、舌が震えて声にならなかった。否、それ以前に、首から下の全身に力が入らない。まるで糸の切れた人形のように、身体が動きを止めてしまった。
自分の身に、いったい何が起きたのか。先ほどの痛みはなんで、自分はなぜ成す術もなく倒れているのか。
混乱した頭のまま、榛原はふと自分を見下ろす視線を感じて目を動かした。
「なっ……」
そこにいたのは、一人の少女だった。髪を左右で団子のようにまとめ、そこから更に、細長い髪が蔦のように伸びている。身につけているのは、中華料理屋などで、たまに店員が制服代わりにしているような中華服。首には赤い首輪が巻かれ、髑髏の形をした鈴がついていた。
およそ感情らしい感情があるとも思えない目で、少女は仰向けになったままの榛原を見つめている。その指には銀色の指輪のようなものがはまっており、そこから左右に鋭い金属性の棒が伸びていた。
棒の先端についた血痕を見て、榛原は初めて自分の首筋をあれで刺されたのだと分かった。だが、分かったところで、今さらどうすることもできない。
このまま自分は、目の前にいる得体の知れない少女に殺されてしまうのか。最高の特ダネを前にして、こんなところで朽ち果ててしまうのか。
(くそっ……。なんなんだ、このガキは……)
いくら心の中で悪態を吐こうと、結果は変わらない。少女は榛原の前でかがみこむと、手にした金属製の棒を縦に構えた。
今度こそ、本当に急所を刺される。そう思った榛原だったが、少女が次に取った行動は、榛原の予想を裏切るものだった。
指から輪を外し、少女は金属の棒を団子のようにしてまとめた髪に挿したのである。調度、簪でも挿すようにして、棒を自分の髪に挿してしまった。
いったい、この少女は何をするつもりなのか。困惑する榛原を他所に、少女は倒れたままの榛原の身体に馬乗りになる。そして、顔と顔とをつけるようにして、そのまま身体を重ねて来た。
「那我就吃了……」
榛原の耳元で、少女が何事か口走った。瞬間、少女の顔が一瞬だけ、獲物を狩る時のそれに変わる。彼女が口にしたのは中国語のようだったが、榛原にはその意味がわからなかった。
それよりも榛原が気になったのは、言葉と共に少女の口から放たれた吐息だった。むっとする、獣の体臭をより強くしたような、なんとも言えぬ不快な臭い。先ほど店で食べたばかりのラーメンを、全て吐きだしてしまいそうな程に強烈なものだ。
思わず口に手をやろうとした榛原だったが、やはり手はおろか、指の一本さえ動かすことはできなかった。あの、金属棒による一突きで、首から下の神経を完全に麻痺させられてしまったとでもいうのだろうか。
榛原直人がそれらの答えを知ることは、残念ながら永遠に不可能なことだった。少女は榛原の首筋に顔を埋め、その口が裂けんばかりに大きく開く。そして、口の中から覗く二本の鋭い牙を、榛原の首に突き立てた。
「あっ……がぁぁぁっ……」
途端に、今まで不快な臭いに顔をしかめていた榛原が、全身を痙攣させて苦しみ出した。その顔は見る間に深い皺が刻まれ、頭髪が瞬く間に白く変色して抜け落ちて行く。眼球が飛び出し、皮膚は土のような色になり、全身が、まるで空気を抜かれた風船のように徐々にしぼんで行く。
少女が榛原の首筋から口を離した時、そこに残っていたのは既に榛原直人ではなかった。
極度に乾燥し、硬縮してしまった皮膚と筋肉。皮を被った骸骨のように変貌した頭は、最早人間のものではない。全身が茶色い土のような色になり、誰が見ても、完全にミイラ化しているのは明白だった。
朽ち果てた、かつては榛原直人だったものの残骸を見つめ、少女は満足そうな顔をして笑みを浮かべた。月明かりの下、その瞳を妖しい金色に輝かせながら、軽く舌舐めずりをした後に口を指で拭う。
「我吃饱了……」
再び、少女が中国語で何事か口走った。恐らくは、食事を終えたことを伝える挨拶であるが、それを聞く者はS川の河原には存在しない。
ミイラと化した榛原の首から、少女は彼の持っていたカメラを強引に奪い取った。そのままカメラを握りしめると、大きくふりかぶって川へと投げ込む。
ドボン、という鈍い音がして、榛原のカメラは暗い水底に沈んで行った。次いで、少女は榛原のミイラを抱えると、それもS川の中に放り込む。最後に榛原の持っていたトランクも河に投げ込むと、S川の畔は再び夜の静寂に包まれた。
河原を吹き抜ける風が、少女の脇をすり抜けて髪を揺らす。風の運んできた雲が、先ほどまで河原を照らしていた月の明かりを遮った。
風が吹き、雲が流れ、月が再び姿を現す。だが、そこには既に、先ほどの少女の姿はない。
――――チリン、チリン……。
風に乗り、どこからか鈴の音が聞こえて来た。河原に立つのは少女ではなく、艶やかな毛をした一匹の黒猫。その首に下げられた髑髏の形をした鈴が、風に揺れて物悲しげな音を立てている。
風が河の水面を撫でる様を、黒猫は金色の目でじっと見つめていた。が、やがて景色を眺めているのにも飽きてしまったのか、ふいと踵を返して夜の闇の中へと姿を消した。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
月曜日、天倉癒月は久しぶりに、学校の図書室を訪れていた。ここに来るのは、実に一週間ぶりと言ったところか。先週、照瑠に本の貸し出しの手続きをしてもらって以来である。
受付のカウンターに向かうと、そこには例の如く照瑠の姿があった。どうやら月曜日は彼女が当番ということになっているらしい。
「あっ、癒月じゃない」
こちらに気づいた照瑠が顔を上げて癒月の名前を呼んだ。
「ごめんね、照瑠。今、忙しかったかな?」
「私は別に平気よ。それよりも、癒月は何か、本のことで用事があるの?」
「うん。先週に借りた本なんだけど……そろそろ返さなくちゃって思ってね。調度、貸出期限も一週間だったし」
癒月の言葉を聞いて、照瑠の頭にも一週間前の記憶が蘇って来た。
あの日、癒月は眠れないといって、やたらに睡眠に関する本を借りていた。気になって尋ねてみたところ、どうやら彼女が悪夢にうなされているらしいということが判明した。そこで、甘味屋に誘って悩みを聞こうとしたのだが、さして力にはなれなかったことを覚えている。
「先週か……。あの時は、本当にごめんね。なんだか、あまり力になれなくて……」
「別に構わないよ。誘ってくれたことは嬉しかったし、また今度、一緒に甘い物食べに行こう」
「そうね。私もそのうち、癒月が知ってる穴場の喫茶店にも行ってみたいかな」
「うん。それじゃあ、皆の都合が合いそうな時に、また連絡頂戴」
そう、口では笑っていたが、癒月の顔色はどこか優れない様子であった。
やはり、例の悪夢のせいで眠れていないのだろうか。だとすれば、癒月はかれこれ二カ月以上、自分が人を殺す夢にうなされ続けていることになる。
もし、自分が癒月の立場だったらどうだろう。初めは単なる夢と思うだろうが、すぐに夜が来るのを恐れるようになる。寝る度に後味の悪い思いをさせられるなど、考えただけで気が滅入りそうだ。
「ねえ、癒月。あなた、やっぱり……」
どこか顔色の悪い癒月を気づかって、照瑠が何かを言おうとした時だった。
「なるほど。確かに、ここなら静かそうだな……」
図書室の扉が開くと同時に、なにやら聞き覚えのある声がした。思わず声のする方へ顔を向ける照瑠と癒月。その視線の先にいた意外な人物の姿に、照瑠はしばし自分の目を疑った。
「け、犬崎君……?」
「なんだ、九条か。そういえば、お前は図書委員だったな」
「なんだとは失礼ね。それよりも、あなたが図書室に来るなんて珍しいじゃない。何か、借りたい本でもあるのかしら?」
「いや、そういう訳じゃないんだが……。嶋本に、校舎内で一番静かな場所はどこかと尋ねたら、ここを案内されただけだ」
「静かな場所って……。まあ、確かに図書室では私語厳禁ってことになってるけど……」
本を借りに来たのではないのか。ならば、いったい紅は図書室に何をしに現れたのか。紅はあまり感情を表に出さないため、何を考えているのか照瑠にも今一つ分からないことが多い。
「悪いが九条。この部屋のパイプ椅子をいくつか借りるぞ。さすがに長机の上に寝るわけにはいかないだろうからな」
椅子を借りる。そして、紅の口から出た≪寝る≫という単語。その二つで、照瑠は紅が何をしに来たのかを直ぐに悟った。
「犬崎君……。あなた、もしかして……」
「お前が何を考えているか知らんが、俺は寝床を探しに来ただけだ。さすがにこの季節ともなると、校舎脇にある木の陰は寒いんでな」
「寝床って……あなたねえ。悪いけど、図書室はあなたの仮眠室じゃないのよ!?」
「問題ない。どのみち、今の時期はまだ利用者も少ないはずだ。試験の一週間前にでもならなければ、満席になることはないだろうからな」
「そういう問題じゃないわよ! ここは本を読むための部屋であって、昼寝のための部屋じゃないってことを言いたいの!!」
先ほどから、まったく話が噛み合っていない。本の返却手続きを待つ癒月を他所に、照瑠は紅に食い下がった。
このまま紅を通したら、この冬の間はずっと図書室を昼寝の場所に使われかねない。図書委員として、それだけは何と言われようと認められないことだ。
だが、そんな照瑠の言葉に耳を貸すことなく、紅は明後日の方向を向いたまま立ち止っていた。その赤い瞳の先にいるのは、照瑠ではなく癒月である。
気のせいか、紅の顔がいつもに比べて険しい。日中、彼がよく見せている、どこか遠くをぼんやりと見つめるような視線ではない。獲物を見定める肉食獣のような、警戒とも敵意とも取れる鋭い目つきだ。
紅があんな目つきをするのは、決まって向こう側の世界の住人と関わる時だ。それ以外で、あんな目つきの紅を見た試しがない。
ぶっきらぼうで口は悪いが、それでもどこか抜けていて浮世離れしている。そんな紅があの表情を見せる時は、向こう側の世界の住人がこちら側の世界と関わりを持とうとしている時である。
「おい、九条。そこの女、いったい誰だ?」
視線は癒月に向けたまま、紅が照瑠に尋ねた。
「そこの女って……そんな言い方ないでしょ。この娘は天倉癒月。先週のハロウィンパーティーで、一緒に仕事したじゃない」
「そういえば、そんなこともあったな。すっかり忘れていた……」
「忘れていたって……。あなたねぇ……少しは他人に関心を持つってことも、覚えた方がいいと思うわよ」
照瑠が呆れた声で言ったが、紅は何も答えなかった。相変わらず、凄むような目つきはそのままに、癒月のことをじっと見つめている。
「あ、あの……。私に、何か……?」
見つめると言うよりは、睨みつけると言った方が正しい。そんな紅の視線に耐えかねて、癒月が二、三歩後ずさりながら言った。その声に、紅も何かを思い出したようにして視線を逸らす。気がつけば、その瞳からは先ほどの険しさが消え、いつものぼうっと遠くを見ているようなものに戻っていた。
「いや、すまん……。気にしないでくれ」
踵を返し、紅は照瑠と癒月に背を向けたまま歩きだした。
いったい、さっきの態度は何だったのか。呆気に取られている癒月だったが、照瑠は紅の言葉に何かを感じ、彼のことを呼び止める。
「ちょっと、犬崎君! あなた、寝床を探しに来たんじゃないの!?」
「気が変わった。それに、ちょっと急用を思い出したんでな。寝床の確保は、また今度だ」
最後まで顔を合わさず、紅はそのまま照瑠達の前から立ち去った。
いったい、彼は何をしに来たのだろう。まったくもって、紅のすることは理解に苦しむものばかりだ。亜衣とはまた別の意味で、彼もまた常識という物差しでは測れない妙な空気をまとっている人間である。
「あの……九条さん……」
癒月に呼ばれ、照瑠はハッとなって声のした方を向いた。そういえば、癒月は本を返しに来たのだ。紅の乱入で忘れていたが、手続きがまだ済んでいなかった。
「ごめんね、癒月。本、返しに来てくれたのよね」
「うん。それよりも、さっきの人、なんだったんだろう……」
「知らないわよ、そんなこと。あいつの考えていることなんて、私には理解できないもの」
貸出カードにサインをし、照瑠は本の裏表紙にそれを戻す。癒月にまだ夢を見ているのかどうかを聞きたいところだったが、なんだかすっかり気分が削がれてしまった。
犬崎紅は、いったい癒月に何を感じ取ったのか。紅のせいで、癒月が何か妙なことに巻き込まれなければよいのだが。
そんなことを考えながら、照瑠は返却手続きの済んだ本を所定の位置に戻す。本の片付けを終えてカウンターに戻って見ると、既に癒月も図書室から姿を消していた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
屋上へ続く階段に、規則正しい足音が響く。昼休みであるにも関わらず、そこには生徒の姿はない。
ガラス張りの戸を開けると、ガランとした空間が広がっていた。貯水タンクから伸びる水道管を始め、大小様々なパイプが壁や床を這っている。
昼間とはいえ、冬の屋上は少し肌寒かった。日差しはあるが決して強くはなく、ともすれば冷たい風が吹き抜けて体温を奪って行く。
屋上のフェンスによりかかったまま、犬崎紅は先ほどの図書室で見た少女のことを考えていた。
天倉癒月。確か、照瑠はそう言っていた。先週、嶋本亜衣に強引に誘われる形で手伝わされたハロウィンパーティーで、悪戯好きの悪ガキ二人を捕まえていた少女だ。
あの時は、仮装をしていたのでわからなかったのか。最初はそう思ったが、紅はすぐにその考えを打ち消した。
例え仮装をしていても、別に顔の形まで変わるわけではない。制服に着替えたからといって、まったくの別人と間違えることなど考えられない。
自分が癒月を先週に見た少女とは別人だと思った理由。それは一重に彼女の放っていた気が原因だった。
向こう側の世界に関わる者であれば、生者か死者かに関係なく、相手の放っている気に敏感になる。それは時に肌を通して感じるものであり、時に嗅覚を刺激するような臭いとして伝わることもあるが、とにかく気を感じられることには違いがない。
紅が図書室で見た癒月の気は、驚くほどに弱まっていた。それこそ、一週間前とは別人としか思えないほどに、弱々しいものになっていたのだ。
病気で何日も寝込んだり、激しい疲労に見舞われたりした際にも、人間の気は弱くなる。しかし、癒月の気に関しては、そのどれにも当てはまりそうな物が無かった。なんというか、不自然に不安定なのだ。それこそ、背中を叩けば口から魂が飛び出てしまわんばかりに、肉体と精神のバランスがとれていないように感じられた。
(あの女……いったい、何者だ?)
記憶の糸を手繰りながら、紅は思いつく限りの仮説を立ててみる。最初に思いついたのは、彼女が生霊を飛ばしているのではないかというものだった。
生霊。死んだ人間が化けて出た幽霊とは異なり、生きた人間の強い念が生み出した、分身のような存在である。その殆どは恨みや妬みなどといった負の感情の産物であり、放っておけば本能のままに、恨みの対象を呪い殺してしまうこともある。
反面、生霊は己の魂の一部を分裂させて作られているため、それ飛ばすことは本体の魂の力の低下、即ち気の減退を意味していた。生霊に魅入られた相手が危険な目に遭うことは間違いないが、生霊を生み出してしまった人間もまた、大きなリスクを負うことになる。
では、天倉癒月の気の減退は、果たして生霊のせいなのか。紅の考えは否だった。
生霊は、本人が強い負の感情を抱かねば産まれない。稀に例外もあるが、どちらにせよ、天倉癒月は人に激しい恨みを抱くような人間には見えなかった。本当のことはわからないが、それでも生霊に癒月の衰弱の原因を求めるのは違う気がする。
(生霊ではない、か……。ならば、何らかの霊傷を受けたか?)
次に思いついたのは、癒月が霊による攻撃を受けたという可能性だった。実態を持たない向こう側の世界の住人は、当然のことながら生きている人間の肉体を傷つけることはできない。念力のような力を用いてその場にある物を凶器に使えば話は別だが、霊に直接人間を殴ったり蹴ったりする力はない。
霊が人間を攻撃する際は、その魂を直接蝕むという方法を用いる。例えば、幽霊の持っている刀で腕を斬られたりすると、その部分の感覚が一時的に失われる。見た目には何の変化もないが、腕の部分を構成していた魂が削られてしまったためだ。
だが、癒月の衰弱の原因が霊傷だとすれば、今頃は学校になど通っていられないはずだった。それこそ、原因不明の発熱や身体の痛みなどを訴えて、病院に担ぎ込まれているはずである。少なくとも、あそこまで気が弱る程の霊傷を受けたなら、まともな人間では普通の生活は送れない。
(霊傷でもない。だとすると……後は、呪いか何かの類か?)
最後に出て来たのは、癒月が何者かによって呪われているのではないかという考えだった。今までの物と比べ、これは一見して正しいように思えてくる。
ところが、またしても紅は自分の考えを、首を横に振って否定した。
まず、天倉癒月が誰かに呪われる理由がない。仮にどこかで誰かの恨みを買っていたとしても、あそこまで気が弱れば、精神の方に何らかの影響を及ぼしているはずだ。
見たところ、癒月は照瑠と普通に話ができていた。狂っているわけでもなく、無理して話をしているわけでもない。呪いを受けた者の末期としては、あまりにも当てはまらないことが多すぎた。
(呪いでもないのか……。いったい、あの女が衰弱している原因は何なんだ?)
こんなことは初めてだった。今までに経験して来たどんな事例にも、癒月の事例は当てはまらない。
普通であれば、死んでもおかしくない程に気が弱っている癒月。しかし、多少顔色が悪いとはいえ、見たところ普通の学園生活を送っているようにも見える。
こうなれば、残された手段は一つしかなかった。あの時、自分と一緒に癒月を見ていた者。自分の犬神である黒影に、癒月を見て感じたことを聞いてみる他にない。
白昼の屋上で、紅の影が静かに伸びた。床から盛り上がるようにして立ち上がった彼の影は、その脚から離れてどろどろとした黒い塊になる。
目の前で浮遊する粘性の高そうな塊に、紅はそっと手をかざして意識を集中した。
犬神は、当然のことながら人間の言葉を話さない。彼らと対話するには術者が直接彼らの精神に働きかけ、何を見て何を感じたのかを探る必要がある。
時折、何かを伝えるかのようにして、紅の前でゆらめく黒い塊が回転した。上に、下に、まるで透明の球体の中で影が泳いでいるかのように、流動的な動きを繰り返す。
やがて、その動きが止まったところで、紅はゆっくりと目を開いた。黒い塊はどろりと溶けるようにして下へ落ち、紅の影へと姿を戻して行く。
「なるほど……。あいつの気から感じていたのは、死臭だったか……」
黒影が紅に伝えたイメージ。それは、犬神か死者と対峙した時に見せる顔だった。死してなお現世に留まり、人に害を成す存在。生者の放つ気とはまったく異なる、不快で淀んだ臭いのする魂。
図書室で感じた違和感の正体は、まさにそれだったのだろう。天倉癒月の今の状態を言葉で表すならば、肉体は生きていても魂は死んでいると言ったところか。
本来であれば常世に行かねばならない魂を、無理やりに現世の肉体に縛り付けている。あの不自然さの正体を答えるならば、そう言った方が正しい気がした。
「肉体は生きているが、魂は死んでいるということか……。だが、そんなゾンビのような人間が、果たして本当に存在するのか?」
自分の考えに生まれる矛盾。紅は再び黙り込んで、フェンスによりかかったまま目を閉じる。天倉癒月が妖怪変化の類であるならいざ知らず、ただの人間が生きながらにして死んでいるなど、紅は聞いたことがない。
だが、そこまで考えたところで、紅はふと何かを思い出したように目を開いた。
生きながらにして死んでいる。その言葉に、紅は先週の工藤健吾との会話を思い出したのである。
反魂の術。人骨を集めて新たな人間を創造する、神をも恐れぬ禁断の人体錬成術。が、その術の難易度は極めて高く、出来そこないの人形が生まれるのが関の山でもある。
天倉癒月が反魂の術によって作られた存在であるというのは、あまりにも馬鹿らしい発想である。しかし、死者の魂を持ちながら生き続けるとなると、そこに多少の類似性は感じてしまう。
(反魂の術は、今回の事例には当てはまらないだろうな……。だが……もしも、俺の知らないような禁術に触れているのであれば、話は別だ……)
思い立ったが早いか、紅は懐から自分の携帯電話を取り出していた。何の飾りも余計な機能もない、旧世代の代物だ。電話と簡単なメールくらいしかできないが、それでも使うには不自由しなかった。
携帯に登録しておいた数少ない連絡先から、紅は四国にある実家の電話番号を呼び出した。そのまま発信を押して待つと、程なくして向こうが電話に出た。
≪どなたですかな……≫
「ああ、婆さんか。調度、いてくれて助かった」
≪その声は紅じゃな。どうじゃ、そっちの生活は?≫
「悪いが、今はゆっくりと話している暇はない。それよりも、調べて欲しいことがあるんだが……」
≪調べて欲しいことじゃと? お主がそんなことを言うとは、珍しいのう≫
電話の向こうでは、祖母がのんびりとした口調で話している。紅としては早く本題に入りたかったが、ここで苛立っても仕方がないことは分かっていた。
「なあ、婆さん。反魂の術に関しては、婆さんも知っているよな」
≪おお、知っているとも。人が人を造り出す、古来より伝わる禁断の術じゃ≫
「その、反魂の術とは少し異なるんだが……何か、似たような禁術の話を聞いたことはないか。例えば、死者を蘇らせるとか、死霊の魂を別の肉体に宿らせるとか……」
≪死者を蘇らせる術かい? それはまた、随分な御伽話じゃの≫
「こっちは至って真剣だ。別に、今すぐに思いつかなくてもいい。わからないのであれば、できるだけ急いで調べて欲しい」
≪わかったよ。もっとも、そういった類の話は、私よりも臙良の方が詳しいがね。どちらにせよ、犬崎家に伝わる禁術の書を、一から調べ直すことになりそうじゃな≫
「すまない、婆さん。謝礼に関しては、後でそちらの望む額を払わせてもらう」
≪そんなもの、気にすることはないよ。まあ、それでもお主が支払うというのなら……久しぶりに、越後の笹団子でも食べてみたいかのう≫
「笹団子だな。そんな物でいいんだったら、話は早い。爺さんの分と合わせて、後でそっちに送っておく」
電話の向こうからは、まだ祖母の声が聞こえていた。が、紅はそれを最後まで聞くことなく、用件だけ済ませて電話を切った。
天倉癒月の正体は何なのか。今すぐに答えが出ないもどかしさに、紅は胸の奥に何かがつかえているような気がしてならなかった。
できることならば、黒影を癒月の影に潜ませて、その動向を探りたい。しかし、相手の正体が分からない内から下手なことをすれば、返って相手を刺激することになるかもしれない。
残念だが、ここは実家にいる祖父母からの報告を待つ他になさそうだ。校内に鳴り響く予鈴の音に、紅は仕方なく屋上を後にした。




