『五八様がお見えです』(隠語版)
午後三時。デパート三階、婦人服売場。
佐藤「田中さん、さっき五八様がお見えになったわ」
田中「本当? じゃあ私、有久は後にする」
佐藤「お願い。主任は?」
田中「遠方」
佐藤「こんな時に?」
田中「仕方ないでしょ。もう十分くらい我慢してたんだから」
館内放送が流れる。
放送「川中様、三階婦人服売場までお越しください。川中様――」
二人の表情が変わる。
佐藤「……来た?」
田中「たぶん西側。鈴木さんがずっと見てる」
佐藤「五八様と重ならなきゃいいけど」
田中「それより主任、まだ遠方?」
佐藤「呼んでくる。私が川中様を見るから、五八様お願い」
田中「私? 五八様、苦手なのよ」
佐藤「去年あなたから三百買ったでしょう」
田中「だからよ」
そこへ主任が戻ってくる。
主任「何?」
佐藤「川中様です」
主任「何色?」
佐藤「まだ桃です」
主任「なら触らないで。五八様を優先。赤になったら私を呼んで」
田中「主任、私、有久まだなんですけど」
主任「五八様がお帰りになったら行っていい」
田中「じゃあ四時過ぎるじゃないですか」
再び館内放送。
放送「お客様に申し上げます。横浜からお越しの松坂様――」
主任が立ち止まる。
主任「……今度は松坂か」
佐藤「何階です?」
主任「うち」
田中「五八、川中、松坂が同時?」
三人は顔を見合わせた。
佐藤「主任」
主任「何?」
佐藤「私、遠方に行っていいですか」
主任「駄目」
佐藤「ですよね」
三人は無言で、それぞれ別の方向へ歩き出した。
引き続き、翻訳版をお読みいただければと思います。




