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異世界パチンコ〜人生を壊された俺が、今度はパチンコ台になりました〜  作者: marumaru


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9/9

パチンコ台、増殖する!

「……おい」


 レオが店の窓から外を覗いていた。


「なんだよ」


「これ、全部うちの客か?」


「ん?」


 俺も視覚を外へ向ける。


 そして――。


「おお……!」


 店の前に、人が並んでいた。


 昨日来ていたウォルフ族の男たちだけじゃない。


 犬耳、猫耳、見たことのない形の耳を持つ亜人たち。


 それに、人間の姿まである。


 みんな、まだ開いていない店の扉を見つめていた。


「すげえな……」


 思わず笑いが漏れた。


 昨日、あれだけ金を使った甲斐があったというものだ。


 噂ってのは、本当に恐ろしい。


「なあ、魔物さん」


「なんだ?」


「こんな人数、どうやって相手にするんだ?」


 レオが腕を組む。


「お前、一台しかないだろ」


「昨日まではな」


「……は?」


「とりあえず、四人ずつ入れてくれ」


「四人?」


「ああ。まずは四人だ」


 レオは不思議そうな顔をしたが、素直に頷いた。


「分かった」


 よし。


 それじゃあ――。


 昨日手に入れた新しい技能。


 早速、試してみるとするか。


《技能――分身》


《発動しますか?》


「発動!」


《分身を生成します》


 次の瞬間。


 俺の周囲に光が集まり始めた。


「お、おおっ!?」


 レオが後ずさる。


 床の上に、俺と同じ形の輪郭が浮かび上がる。


 一つ。


 二つ。


 三つ。


 そして――。


 ガコンッ!


 ガコンッ!


 ガコンッ!


「…………」


 店内に、四台のパチンコ台が並んでいた。


 正確には、俺の本体が一台。


 それに、分身が三台。


 見た目はどれもほとんど同じ。


「……おいおい」


 レオが目を丸くしている。


「増えたぞ」


「見りゃ分かる」


「お前、こんなこともできるのか?」


「昨日できるようになったんだよ」


 俺だって驚いてる。


 分身なんて名前だから、てっきり幻影でも作るのかと思っていた。


 まさか本当に台数が増えるとは。


「す、すごいでござる!」


 どこからともなくネコネコ丸が現れた。


「お頭! その術、拙者にも教えていただけぬか!?」


「……お頭?」


「分身の術! 忍びの極意ではござらぬか!」


「いや、技能だから教えられないと思うぞ」


「なんと……!」


 ネコネコ丸が悔しそうに拳を握る。


 こいつ。


 日に日に忍者っぽくなってないか?


 というか、いつから俺はお頭になったんだ。


 まあいい。


 それより大事なのは、分身の性能だ。


《分身――最大生成数3》


《本体との遊技機能共有》


《収納袋共有》


《確率調整――全機適用可能》


 なるほど。


 つまり四台とも、普通に遊技できる。


 払い出す金も、受け取る金も、同じ収納袋で管理される。


 しかも、確率調整も使える。


「……最高じゃねえか」


 これなら、一度に四人を相手にできる。


 しかも俺自身が動けないという問題も、少しは解決できそうだ。


 いや、分身だって動けないけどな。


 さて。


 今日の営業方針を決めよう。


     ◇


 まず、全員を勝たせる必要はない。


 昨日とは違う。


 今日からは、きちんと利益を出していく。


 とはいえ、全員から金を巻き上げるのも駄目だ。


 そんなことをすれば、評判はすぐに悪くなる。


 それに、客が生活できなくなるまで金を取るなんて、さすがに後味が悪い。


 俺自身、前世でそれを経験しているからな。


 だから、一度に四人が遊ぶなら。


 一人が大きく勝ち、三人が少しずつ負ける。


 あるいは、二人が勝ち、二人が負ける。


 そういう展開が理想だ。


 もちろん、結果を完全に決められるわけじゃない。


 俺にできるのは、当選確率を基準値から上下二十パーセントポイントの範囲で調整することだけ。


 狙い通りになるとは限らない。


 それでも、四台あれば調整の幅は広がる。


 そして、もう一つ。


「ミナ!」


「はーい!」


「昨日話した店の決まり、覚えてるな?」


「もちろん!」


 ミナが指を折りながら答える。


「子供は入れない!」


「そうだ」


「お金を使いすぎた人には、今日はここまでって言う!」


「よし」


「あと、時間になったら終わり!」


「完璧だ」


 賭け事をする以上、最低限の線引きは必要だ。


 未成年者は遊技禁止。


 生活に必要な金まで使わせない。


 客が熱くなりすぎたら、そこで終わり。


 俺が前世で守れなかったことを、今度は店の側から守らせる。


 ……もっとも。


 その店の経営者が、客から金を稼ごうとしているんだから、我ながら矛盾している。


 でも、だからといって無制限に金を吸い取っていい理由にはならない。


「それから、もう一つ」


 俺は分身たちの設定を切り替えた。


《遊技通貨設定》


《銀貨――対応》


《金貨――対応》


 四台のうち、二台を銀貨用に。


 残り二台を金貨用に設定する。


 これなら、手持ちの少ない客も遊べる。


 いきなり金貨一枚を賭けるのは、普通の人間にはかなり勇気がいるだろうからな。


 昨日のウォルフ族みたいな奴ばかりじゃない。


「よし」


 準備完了。


「レオ、開店だ!」


「おう!」


     ◇


「いらっしゃいませー!」


 ミナの元気な声が響く。


 最初に入ってきたのは、亜人二人と人間二人。


 四人とも、店内に並んだ俺たちを見て固まっていた。


「……昨日は一つだったって聞いたぞ?」


「四つある……」


「どれが本物なんだ?」


「全部本物でございます!」


 ミナが堂々と答える。


 いや。


 正確には一台が本体なんだけどな。


「こちらへどうぞ!」


 ミナが客をそれぞれの椅子へ案内する。


 さて。


 記念すべき二日目の営業開始だ。


 チャリン。


 チャリン。


 チャリン。


 チャリン。


 四台に硬貨が投入される。


 キュインッ!


 画面が光り始めた。


 客たちの目が、一斉に釘付けになる。


 いいぞ。


 まずは楽しんでもらわないとな。


 最初の数回は、当たりが続いた。


「おおっ!」


「増えたぞ!」


「本当だったのか!」


 歓声が上がる。


 だが、その次は外れ。


「……あれ?」


「今度は駄目か」


 さらにもう一回。


 当たり。


 外れ。


 当たり。


 外れ。


 十回ほど遊んだところで、ミナが声をかけた。


「本日はここまでとなりまーす!」


「えっ、もう?」


「まだ遊びたいんだけど」


「また明日来てね!」


 不満そうな顔をする客もいたが、最終的にはみんな立ち上がった。


 中には、最初より金が増えた客もいる。


 逆に、少し減った客もいる。


 でも。


「面白かったな」


「明日も来ようぜ」


「今度は金貨の方を試してみるか」


 そんな声が聞こえた。


 よし。


 悪くない。


 俺は収納袋を確認した。


《収納袋》


《ファルガ帝国金貨――15枚》


《ファルガ帝国銀貨――20枚》


「……おお?」


 ちょっと待て。


 昨日の終わりは、金貨五枚。


 それに、ミナたちから回収した銀貨十枚。


 だったよな?


 それが。


 たった二十分ほどで。


 金貨十五枚と銀貨二十枚?


「……増えすぎじゃねえか?」


 いや。


 四台同時に稼働しているんだ。


 しかも、銀貨用と金貨用を分けている。


 これくらいのことは起こるのかもしれない。


 それに、今日は昨日みたいに全員を勝たせているわけじゃない。


 ……なるほど。


 これが経営ってやつか。


 俺は思わず笑った。


「よし!」


 まだまだ客は待っている。


「次の四人!」


     ◇


 そこからは、忙しかった。


 客が入る。


 遊ぶ。


 当たる。


 外れる。


 ミナが説明する。


 レオが列を整理する。


 ネコネコ丸が店内と外の様子を見張る。


 俺は四台の当選確率と収納袋を確認しながら、次々に客を迎え入れた。


 ちなみに。


 昨日ミナが言っていた「八十パーセントの確率で勝てる」という話。


 あれは、あくまで宣伝文句だ。


 俺自身、そんな数字を保証した覚えはない。


 ……いや、俺も客に八十パーセントだと言ったな。


 うん。


 完全に口から出任せだった。


 そもそも、八十パーセントもの確率で客が儲かる店なんて、普通は経営が成り立たない。


 大事なのは、当たりが出る確率と、最終的に客が利益を得る確率は違うということだ。


 小さく当たっても、それ以上に金を使えば負ける。


 逆に、何度も外れても、一度の大当たりで取り返すことだってある。


 その仕組みを、俺は嫌というほど知っている。


 そして、今日の俺は――。


 その仕組みを利用する側にいる。


「……なんだかなあ」


 少しだけ、複雑な気分になった。


 だが、感傷に浸っている暇はない。


 今の目標は、村を守るための金を稼ぐことだ。


 俺は客たちの遊技を見守りながら、ある機会を待っていた。


 普通の客ではない。


 もっと大きな金額を、一度に賭けようとする客。


 高額遊技を望む人間。


 そういう奴が現れたときこそ――。


 俺の本当の稼ぎ時になる。


     ◇


 夕方。


 ようやく客の列が短くなってきた。


 店内には、まだ何人かの客が残っている。


 ミナは少し疲れた様子で椅子に座り、レオは入口の近くで腕を組んでいた。


「……結構、儲かったな」


「ああ」


 俺は収納袋を確認する。


 朝とは比べものにならない。


 これなら、金銭即戦力に使う資金も少しずつ貯められそうだ。


 とはいえ。


 まだまだ足りない。


 村の戦える連中をLEVEL20まで引き上げるには、万単位の金貨が必要になる。


 今の稼ぎじゃ、先は長い。


 やっぱり。


 もっと大きな客が必要だ。


 そんなことを考えていた、そのときだった。


 バンッ!


 店の扉が勢いよく開いた。


「おい!」


 大きな声が響く。


「ここが、金の増える店ってやつか!?」


「い、いらっしゃいませ!」


 ミナが慌てて立ち上がる。


 入ってきたのは、人間の男だった。


 腰には剣。


 身につけているのは、見覚えのある装備。


「……ん?」


 俺は男を見る。


 どこかで見たような。


 いや。


 俺は布に包まれていたから、顔は見ていないはずだ。


 でも。


 この声。


 妙に聞き覚えがある。


「おい、亜人の娘」


 男がミナに声をかける。


「本当に金が増えるんだろうな?」


「は、はい! もちろんです!」


「ふん。昨日も妙な亜人どもが金貨をばら撒いていたが……最近は変わった奴が多いな」


「……昨日?」


 ミナが首を傾げる。


 するとレオが男をじっと見た。


「……お前」


「あ?」


「昨日、関所にいた奴じゃないか?」


「ん?」


 男がレオを見る。


「……ああ! あの大荷物を運んでいた獣人か!」


「…………」


 レオが俺を見る。


 ミナも俺を見る。


 ネコネコ丸まで、いつの間にか俺の横に立っていた。


「お頭」


 ネコネコ丸が小声で言う。


「昨日の関所の兵士でござる」


「…………」


 ああ。


 なるほど。


 そういうことか。


 俺は男を見つめた。


 昨日。


 俺たちから金貨十五枚を持っていった男。


 あの守銭奴。


 あの賄賂野郎。


 あいつが――。


 自分から、俺の店に来た。


「……くくっ」


 思わず笑いが漏れる。


「魔物さん?」


「いや、なんでもない」


 落ち着け。


 まだ笑うな。


 客だ。


 大事なお客様だ。


 丁寧に迎え入れなきゃならない。


 俺はできる限り穏やかな声で話しかけた。


「いらっしゃいませ、お客様」


「……ん? なんだ、この箱。しゃべるのか?」


「ええ。当店へようこそ」


 俺は笑った。


 心の底から。


「本日は、たっぷりお楽しみくださいませ」


 十五枚。


 昨日の十五枚。


 忘れるわけがない。


 あの金を――。


 取り返す機会が、向こうからやってきたんだからな。


 さて。


 どれくらい遊んでいただこうか。


 今度は俺が、通行料をいただく番だ。

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