74:混ぜるな危険
カマキリ型侵略者。
体が熱い。頭痛は収まったとはいえこの場所にとって俺は拒絶対象のようだ。
頭の中で((彼女))が勝ち誇った顔をしている。そんな顔をされても交換はしないぞ。
走るというよりも地面を蹴り飛ばしながら前へ前へと突き進む。
「そろそろ侵略者が見えてくる。時間の余裕はないが油断しないでくれよ」
ラクーンは静かに俺に告げる。熱に浮かされている俺にとってこういう冷静な声はありがたい。
「ああ、わかっている」
両足で思い切り地面を蹴り飛ばし上空へと飛び上がる。残念ながら空中浮遊はできないのであくまで飛び上がるだけだ。
そうして上空を落下しながら眼前を確認すれば侵略者の姿を確認できる。
「タコ、ペンギンと来てカマキリってのは類似性がねーな」
前者2体に比べればその体格はそこまで大きいというほどではない。だがその両手に構える鎌の鋭さは油断できない。
黒い体に反比例するかのように銀色に輝くその鎌を軽く振るうたびに近くのビルが、地面が真っ二つに切断される。
「おっかねーな。殺意に溢れてやがる」
「やるかやられるかなんだから殺意もへったくれもないだろう?」
「違いない。やられるつもりはないからそっちがやられる側なんだがな」
そうやって侵略者に目を向ければ向こうもこちらの存在に気付いたらしい。
その視線は獲物を狙う狩人というよりはうっとおしい蠅を振り払う憂鬱さを感じる。
鋭い鎌を空中に振るう。音も何もない力んでない一撃。だがそれでさえも必殺の一撃になりうる。
かまいたち。その鋭い刃は空気を切り裂き切り裂かれた空気が刃となりこちらに向かってくる。
こういう時は空中を浮かべれば回避するのは容易いのだがないものねだりは仕方ない。
左手に握った銃を無造作に横方向にぶっぱなす。この小さな体に合わせた小さなものだ。
だがその銃口から飛び出る弾丸の勢いはその小ささに似合わない勢いをもたらす。
つまりはあれだ、
「撃った銃弾の反動で回避とか本当に馬鹿だね君」
振り回されているラクーンが抗議するかのように俺に告げる。
「これくらいで文句言われても困るな。ほら、下で相手がお待ちかねだ」
仕留めきれなかったカマキリが地団太を踏む。羽虫程度の存在に自分の攻撃が避けられればそれはショックだろう。
ようやくこちらを敵として認識したカマキリは両手の武器を振り回す。斜め、横、縦。縦横無尽逃げ場をつぶすかのように空気の刃をこちらに振るう。
「君のことをサイコロステーキにでもしたいのかな?どうする?避けるにしても限度があるよ」
地面に着地し、こちらに向かって飛んでくる刃を見ても俺の心は変わらない。
こちらを見ているラクーンも苦い顔をしている。
今の俺の顔はきっと人に見せられないだろう。高揚した顔で笑みを浮かべただ前を見ている俺。
いや、もはや俺なのか私なのか分からない。でもできることは分かっている。
はぁはぁと息を荒げながら、その笑みを崩すことなくラクーンに告げる。
「この程度なんの問題もない。私たちなら余裕」
ラクーンの表情が固まる。
「・・・後3分だ」
ラクーンが時間制限を告げる。右手で口元をぬぐう。よだれは出てないがそれをぬぐうかのように。
「さあ、フィナーレと行こうじゃない」
無数の刃に向けて突撃しながら俺は((私))はとても楽しんでいた。
侵略者と戦う空間では彼には特大のデバフがかかっています。
彼女なら問題ないですが彼では問題しかありません。
今の彼はどうなんでしょうね?




