177:魔法(物理)
この手に限る
「ひ、ひぃ!!!むりむりむり!!!し、死んじゃいますうぅ!!!!!!」
迫りくる棘付き壁から全力疾走でなんとか逃げながら私はなんとも情けない悲鳴を上げていた。
手のひらに乗っかっているユイさん人形が指し示す扉に飛び込んでは別のところにワープする。そのたびに後ろから壁は追いかけ続けているので落ち着く暇もない。
既に中に入ってから数十分は走り続けているので私の体力だって限界に近づきつつある。
隙を見て回復魔法をかけてもみたのだが既に一回大きく使用したせいで私の魔力自体が底をつきかけている。
できてあと一回くらいしか使えない魔力を惜しんで、吐きそうなのを我慢しつつこの地獄のようなマラソンに私は必死でしがみついていた。
「ゆ、ユイさん!ゴールまで後どのくらいなんですか!!!!」
何度目か分からないワープをし終えた私はこの終わりの見えないマラソンに救いを見出そうとユイさん人形に声をかける。
走り回り安定感のない手のひらの上でそれでも必死に案内をしてくれていたユイさん人形も人形の癖に酔ったのかぐでっと倒れこみながらもなんとか体全体でアピールする。
「もう少し!?まだゴールじゃないんですかこれ!?うわーん!!!!これがゲームだったら訴えてやっりますよぉ!!!!」
ルナちゃんが教えてくれたのだが内容が酷いゲームのことをいわゆるクソゲーと呼ぶらしい。であるならば今私が陥っている状況はまさしくクソゲーに違いない。
無数のワープをヒントもなしにクリアしながら迫りくるトラップから逃げろなんてろくなゲームじゃないことは明らかだ。
トラップを破壊しようにも下手に攻撃して最悪このホテル全体が崩落する可能性もあるせいで迂闊に攻撃もできやしない。ただでさえ回復で魔力を使っているのにさらに追加で使う魔力があるほど私の魔力量は多くないのである。
「ひぃ、ひぃ、も、もう限界」汗で視界がぼやけるなか元気のなかったユイさん人形が勢いよく飛び上がり一つの扉を指さす。
他の扉とは異なり締め切られた扉は今まで見てきた中で一番豪華な装飾が施されており間違いなく高級だと一目で認識できるほどに立派な作りをしていた。
「や、やっとたどり着きました!!!!」残っている数少ない体力を総動員して扉に近づき開こうとするのだが私がどれだけ引っ張っても扉が開くことはない。
「こ、ここにきて鍵がかかっているんですか!?鍵なんて持ってないですよ!?」
手のひらのユイさん人形も困り果ててあわあわとうろうろしだす始末だ。
今から探そうにも私の背後からは容赦なく壁が迫っている以上今目の前にある扉をなんとか開かないと私の命は風前の灯だ。
「か、かくなる上は壊すしかないですよね・・・」左手に握った拳銃を見る。だがここで使ってしまっては侵略者に会った時にとどめをさせなくなってしまう。
私の残り魔力は残り一回分。意を決して拳銃をポケットに押し込んで背中に背負っていた杖を構える。
私の邪魔にならないように慌ててユイさん人形が安全なもう片方のポケットに潜り込んで避難するのを確認して私は杖を触媒に魔力を練り上げる。
大魔法は使えないし、攻撃魔法も詠唱している時間がない。ならできることは一つだけ。
「な、なんとかなーれ!!!!!!」残った魔力を杖の先端に集中させ思い切り振り下ろす。
さっきまでの抵抗感はなんだったのかと思えるほどあっさりと扉は開かれたので私たちは部屋の中へと滑りこむ。
部屋の中に飛び込むと同時に間一髪で廊下の私のいた位置に壁が突き刺さったのが見えた。
いざという時に役に立つとお姉ちゃんに教わっていたおかげでなんとか助かってほっと一息つく。
今度お姉ちゃんにはお礼をしないとと思いながら私はようやくたどり着いたボス部屋の様子を観察することにした。
いわゆるエンハンス能力というやつです。
サキは詠唱はできないですけど身体強化で戦うタイプなのでアカリに教えたんですよね。
ルナは無意識に使っていますので教えるも何もありません。
あいつは勘でなんとかなる天才肌なので




