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21話 つながりを守るために


 最近、リュシアンの様子がおかしい。


 もちろん、直接会ったわけではないので、手紙を通して感じる違和感だ。

 手紙は普段より短く、文字も走り書き。

 しかも、自分の日常についてはあまり触れず、私のことばかり気にかけている。


 ――何か隠しているのだろうか。


「……忙しいだけ?」


 それとも、あちらで、リュシアンの身に何か大きな変化があったのだろうか。


 分からない。

 直接会えないから、手紙から様子をうかがうことしかできない。

 以前のように、突然交流が途絶えたわけではない。

 それでも、不安で仕方がなかった。


 でも彼が言わないのなら、こちらから何があったのか無理やり問うことはできない。


 だから手紙の返事には、『話したいことがあったら、いつでも聞きます』と、一言添えるに留めておいた。


 昨日そう書いたことを思い返して、ふと思った。

 この不思議な交流は、いつまで続くのだろう。


 お互いに交流を望んでいても、もし古い魔法が解けてしまったら、もうつながることはできないのかもしれない。

 私たちの交流は、そんな不確かな魔法に支えられている。


 もし、リュシアンとやり取りができなくなったら――。

 そう考えるだけで、背筋が冷たくなる。


 思考がどんどん悪い方向へ進んでいく。


「あぁーダメだ。悪く考えるのやめよう」


 私にできることは、普段通り、手紙と食べ物を送ること。


 それから。


「……この『冷蔵庫の魔法』について調べてみようかな」


 いつこの繋がりが途切れてしまうか分からないのなら、後悔しないよう、せめて自分にできることをしておきたい。


 真っ先に頭に浮かんだのは、祖母のことだった。


 この冷蔵庫は、亡くなった祖母が使っていたものだ。

 祖母の家はまだ取り壊されておらず、空き家のまま残っている。

 そこに行けば、何か手がかりが見つかるかもしれない。

 けれど、祖母の家に入るには、両親から鍵を受け取らなくてはいけない。


 正直、両親には会いたくない。

 二人の顔を思い浮かべると、気分が沈む。


「……別の方法で調べよう」


 今の世の中、インターネットがあるし、図書館だってある。

 不思議な現象や異世界とのつながりに関する伝承。魔法に関する民俗学的な資料。何かしら見つかるかもしれない。


 まずはインターネットで調べてみた。

 ……うん、異世界の小説ばかりだ。

 民俗学的な情報も少し見つかったものの、手がかりになりそうなものはない。


 なら、図書館に行くしかない。

 今日は休日でよかった。歩いて数分のところに図書館があるので、さっそく向かった。


 民俗学の本から怪しそうな古い文献まで、手あたり次第、机に積み重ねていく。

 古い本や文献は、意外とネットには載っていないものも多い。


「何か分かればいいけど」


 そう願うが、数時間後、机に突っ伏して動けなくなった。


 疲れた。

 結局、何も分からなかった。


 民俗学の本は小難しいものも読んだが、異世界との接点らしいものは書かれていなかった。

 他の怪しい文献も同様。

 

 摩訶不思議な出来事が、図書館やネット情報でそう簡単に見つかるわけがないか。


「……帰ろう」


 図書館を出ると、外はすっかり暗くなっていた。

 しかも、もうすぐ春だというのに、雪がパラパラと降ってきた。


「初雪かな?」


 そういえば、異世界でも雪は降るのだろうか。

 ふとそんなことを考えて、はっとした。


 ……リュシアンのことを考えすぎだ。

 何をしていても、気づけば彼のことを考えてしまう。


 気分転換に、近くのデパートのお惣菜コーナーに立ち寄った。

 夜ごはん用に割引シールの貼られたお惣菜をいくつか買い、帰ろうとした時、ふとプリンが目に入った。


「……リュシアンが一番好きな、デパ地下のプリン」


 少し値は張るけれど、卵の味が濃厚で、後味は爽やか。私も大好きな商品だ。

 気づけば、二個買っていた。


 それから数時間後。時刻は深夜0時。


 すぐに冷蔵庫を開けると、中には温かそうなスープと手紙が入っていた。

 ビスクだろうか。海鮮の香りが漂い、とても美味しそうだ。

 スープが冷めないようテーブルに移し、封筒を開ける。


 そこには、こんなことが書かれていた。


『――心配をかけるつもりはなかったのだが、かえって心配させてしまったようだな。すまない。

実は、少し話しておきたいことがある』


 きっと、昨日の手紙に『話したいことがあったら、いつでも聞きます』と書いたことで、私が心配していると気づいたのかもしれない。


 読み進めるうちに、最近リュシアンが忙しかった理由が分かってきた。


 父王が突然、王位継承の方針を変えたこと。

 そのせいで、兄弟間の空気が変わってしまったこと。

 そして、リュシアン自身は王位を望んでいないのに、厄介なことになりそうだということ。


 手紙から視線を上げ、肖像画を見つめる。


「……だから、最近おかしかったんだ」


 リュシアンは、私とはまったく違う世界に生きている。

 身分も、背負っているものも、私とは違う。


 そんな彼が、自分の近況を打ち明けてくれたことが嬉しかった。

 でも、事情を知ったところで、私には何もできない。

 それが、もどかしかった。


「あ、プリン食べよう」


 冷蔵庫からデパ地下のプリンを取り出す。

 冷えた容器を手に、スプーンですくって口に運んだ。


「美味しい……」


 一日の疲れが吹き飛ぶような美味しさだ。

 やっぱり、美味しいものは正義だ。


 再び、肖像画に顔を向ける。

 明日は私が手紙と食べ物を送る番だ。


「明日はリュシアンが好きなデパ地下のプリンを送るね」


 彼を助けたい。

 でも、直接会うことさえできない。

 ならせめて、美味しいものを食べて、少しでも疲れや不安が和らいでくれたらいい。


 テーブルに頭を乗せ、プリンを横から見つめた。


「今、どうしてるのかな。心配だよ、リュシアン……」


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