1話 氷の女神様と黄色いお菓子
会ったこともない人を、好きになった。
転職のために東京に引っ越して三か月。
家族とは疎遠、恋人にはフラれ、そろそろ慣れてもいいはずの仕事もミスばかりの毎日。
「今日も疲れた」
華の金曜日。公園で一人で酒を飲み、ほろ酔い気分で木造アパートの部屋の扉を開ける。
「ただいま。おかえりなさい私」
そこは、唯一、心落ち着ける自分の城。
狭い1Kの部屋には、必要最低限の家具のみ。
椅子代わりのクッションにストンと座り、テレビをつける。
代わり映えのない毎日。どうしようもない孤独感。
ただ、そんな毎日でも、『癒し』はある。
一週間のご褒美用に、買っておいた高級プリン。
寝る前に、それを食べたい。
時刻は、深夜0時。
遅い時間に食べる罪悪感はある。それでも、自分を労わることの方が大切だと、自分に言い聞かせる。
亡くなった祖母の家から、譲り受けた古びた冷蔵庫。
その中には、冷えたプリンが鎮座している――はずだった。
「............え、なんで?」
なぜか、プリンはなかった。
代わりに、あったのは、見たこともない食べ物。
赤いグラデーションが鮮やかな、ケーキのようなもの。
上部には薔薇の装飾が施され、金箔を使っているのか、豪華な見た目をしている。
「......こんなの買ったっけ?」
シラフだったら、この状況に青ざめていたかもしれない。
だが、酔っていると、たいていの事はどうでもよくなる。
装飾部分をちぎり、口に運ぶ。
「美味しい」
チョコレートのようだ。濃厚なチョコにラズベリーの酸味が相まって、実に美味しい。
食べ続けようとして、ふと、ケーキの皿の端に、何かがあるのに気づいた。
「カード?」
上等な質で、紋章のようなものが下に描かれている。
中央には、文字が書かれていた。
「全く読めない」
英語でもフランス語でもスペイン語でもない。
見たことのない文字だ。
「どこの文字だろう?」
カードに触れた瞬間。
ほのかに文字が光る。
「えぇ!」
すると、今まで読めなかった文字は、見慣れた日本語に変わっていた。
しかも、その内容は――
『氷の女神様 不思議な黄色の菓子をありがとうございます』
数秒後。
驚きのあまり、尻もちをついた。
「......なんだこれ?」




