第83話 Story about スパルタクス 19
「・・・・・・いや、ゲオルグ・ガルシア」
スパルタクスが通信機に向って、静かに話しかける。「あなたと、我が友人ロザリオ・マターとのたった今の会話は、こちらにも転送されていた。
私も、あなたの正体を知った。プルシャプラの執政官だったとはな。
それから、私はもう、あなたの培養奴隷C-683ではない、ゲオルグ・ガルシア。
スパルタクスという名で、マゼーパ族の幹部としての新しく輝かしい人生を謳歌している。
プルシャプラは攻撃しない。
更にはあなたに、攻撃の中止と武装解除を要求する。
それが容れられない場合は、私があなたを攻撃する、ゲオルグ・ガルシアっ!
そちらでも分かっているとは思うが、その連絡船の攻撃が空母に対して有効となる距離に辿り着く前に、こちらはそちらを攻撃圏にとらえられる。
要求を容れた方が身のためだと、忠告させて頂く」
「な・・・・・・何だと、培養奴隷の分際で、この私に逆らうか!
忠告だと、ふざけおって。
良いだろう。死ね、C-683。まずはお前から、血祭りにあげてやる! 」
言い終わる前にミサイルが射出されたのを、スパルタクスはモニター上に確認した。
その軌道や熱源などのデータから、素早い分析と判断を実施し、彼のスモールスクワッドに指示を出す。
「散塊弾だな。以前交易船と戦った時のような、隙だらけの散塊弾であることは、期待できない。
プルシャプラ防衛用の軍事施設にあった兵器だ。濃密で隙の無い金属片の壁を生成するだろうと考えられる。
だが、訓練通りにやれば、突破できる。俺が考え教えた戦術を、訓練通りに実行できれば、問題ない。
俺を信じて、付いて来てくれ」
「応っ」
短い応えが、ヴィーシニャから、ヤーブラカから、アルブースから、ヤーガドゥイから、スリーバから、ペルシクから、同時に返る。
培養奴隷の時期から様々な苦難を共有して来た、スパルタクスが誰より信頼する戦友たちだ。
このスモールスクワッドが、縦一列の隊形で突き進む。
行く先には、既に金属片の壁が作られ、彼らを遮っていた。
「行けっ」
ミサイル発射を確認して、スパルタクスは短く叫んだ。
彼が操作して発射されたわけではない。あらかじめ入力したプログラムに従った発射だ。
弾種はこちらも散塊弾だ。
スモールスクワッドに先行したミサイルが、敵の散塊弾に接触する。と同時に、爆発した。
敵の撒いた金属片に直撃したことによる爆発にも見えたが、そうではなく、内臓炸薬による計算された爆発だ。
敵の金属片に触れると同時に爆発し、金属片をばら撒くようにプログラムしてあった。
スパルタクスの散塊弾は、敵の金属片群に阻まれて十分には展開せず、金属片の壁を生成しなかった。だが、敵の金属片群の壁に、穴を穿つことはできた。
スパルタクス側の金属片が、敵の金属片の一部を弾き飛ばしたことで、生じた穴だ。
複雑な形状の穴だ。徹底した反復訓練を経た戦隊でなければ、決して通れないだろう。
その穴に、縦一列のスモールスクワッドが突入し、通り抜けた。
散塊弾で散塊弾を切り開くという前代未聞の突破が、こうして成し遂げられた。
彼我の散塊弾の性能によっては、使えない戦術だ。
事前にプルシャプラの持つ散塊弾の性能について、ロザリオを経由して情報を取得しておいたから、できたことだった。
彼らの放った散塊弾は、アールパード族が支給してくれた、航宙民族としては最新式だった。
この二者のぶつけ合いでこそ、散塊弾が散塊弾で弾き飛ばされるという現象は生じる。
それを、詳細なデータをもとにした入念なシミュレーションで、スパルタクスは確かめていた。
スパルタクスの丁寧な事前準備と徹底した反復訓練、それに彼のスモールスクワッドの卓越した技量が合わさることで可能となった散塊弾突破は、ゲオルグの想像の及ぶところではなかった。
「何だそれは? 何をしたのだC-683。
そんなこと、お前に教えた覚えは無いぞ。なぜそんなことができる?
どうやったら、培養奴隷ごときがそんな技能を・・・・・・? 」
悔し気に叫んだゲオルグだったが、その後にも、想像の及ばない、教えたはずのない軌道を、スパルタクスのスモールスクワッドに見せつけられた。
花火が閃くが如く、放射線状に一気に広がったかと思うや、遠ざかる戦闘艇が有り、近づく戦闘艇が有り、それが目まぐるしく入れ替わる。
どれを攻撃して良いか分からない迎撃システムからのエラーメッセージが、モニターを埋め尽くす。
それに目を奪われていて、気が付けば立体的に包囲されていた。
こんな敵情を想像しつつ、スパルタクスたちは、全艇同時のミサイル攻撃を繰り出す。
今度も散塊弾だ。上下左右前後と、あらゆる方向から金属片を射込んだ。
滅多打ちだった。表面構造物が、1つ残らず叩き潰された。
あっという間に、戦闘継続機能が消失した。戦闘能力だけが、削り落とされた。
航行能力も人命も、きっちり保たれたまま。
そうと知った、ゲオルグの恨み節が聞こえて来るのに、攻撃の完了から3分以上がかかった。
彼が現実を受け入れるのに、要した時間だろう。
「お・・・・・・おのれ、C-683、糞生意気な・・・・・・。ロードである私に、こんな屈辱を・・・・・・。
誰のおかげで、お前は存在できていると思っているのだ?
誰がお前をこの世に生み出したのだ? 」
「この世に生を与えて頂いたことは、感謝している。
そのことへの礼は、あなたの指示に従うことではなく、あなたに宇宙保安機構との友好を結ぶ機会を与える行動にこそあると、私は判断した。
百年も前の恨みにこだわっての虐殺より、全ての勢力と友好に手を取り合うことの方が、必ずマイロードやアフシ族の末永い幸福につながると、私は考える。
だから暴力を阻止し、他日に友好を結ぶ可能性を残すことで、生を与えられた恩を返そうと思う」
「馬鹿か貴様は! そんなものが、恩返しだと⁉ 笑わせるなっ!
命令違反は、全て大罪だ。即刻処刑されるべき裏切りだ。
私が判断した、だと⁉
私は考える、だと!
培養奴隷のくせに、図に乗るな。
そんなことが、お前に許されると思うのか⁉
お前ごときが、勝手に考えるな。
お前ごときが、判断などするな。
屁理屈をこねるな。説教をするな。身の程を知れ!
お前は、私の命令に粛々と従っておれば良いのだ。
何も考えず、何も判断せず、何も知らされず、何も頼れず、何ら目標を持つことも無く、何が自分の本性かも分からず、何が幸福かとも、何が快適かとも、何が生きる意味かとも思うこと無く、ただただロードに命ぜられるがままに黙って動くことだけが、お前の全てだろう。
わきまえろ、自覚しろ、お前はただの、培養奴隷だ! 」
「違うっ! 俺は人間だ!
自ら考え、悩み、選び、工夫し、創出し、自由を求め、平穏を願い、人を愛し、友を得、夢を見、価値ある人生を志す、叡智と尊厳を纏った人間だ! 」
数千年の時空をすら貫きそうな気迫で、スパルタクスは雄叫びを轟かせた。
今回の投稿は、ここまでです。 次回の投稿は、 2024/3/16 です。
スパルタクスの率いる戦闘艇部隊が、包囲攻撃を仕掛ける場面がありました。
もし本シリーズをじっくり読んでくださっている方がおられれば、「また『テトラピークフォーメーション』だろうか?」と想像されているかもしれません。
今回は、詳しい描写はあえてしませんでした。
「テトラピークフォーメーション」の語も出しませんでしたが、作者のイメージの中では、スパルタクスたちは「テトラピークフォーメーション」で攻撃しています。
最小の戦力分散で立体的に包囲するには、4つの頂点 (テトラピーク)に戦力を配置した四面体を構成するやり方しか、ないはずなのです。
未来の宇宙で戦闘が行われるとすれば、必ず出て来る概念のはずだと、作者は真剣に考えています。
十分な戦力があれば、球殻を構成するような包囲が理想的でしょう。
そうでない場合に、それでも相手に逃げ道を与えないようにしたければ、4つの頂点から成る四面体の中に相手を閉じ込めるのが合理的だと思うのです。
地球の大地の上という平面の戦場なら、理想的な包囲は円を構成することでしょう。
でも地上には山や川といった障害物があるので、完全な円にはならない場合が多いでしょう。
更に、都市に逃げ込んだ大部隊を包囲するとかとなれば、主要幹線道路だけを封鎖すれば事は済むかもしれません。
だから、最小の戦力分散といっても、幾つに部隊を分けるかなどは定式が出て来ないのでしょう。
でも、何も障害物の無い大平原での包囲戦なら、戦力に余裕があるなら円を、余裕がないなら3つの頂点を持つ三角形を作って包囲するのが、合理的なはずです。
地上では障害物が無いのはレアなケースでしょうから、そのことが定式化することは無かったかもしれませんが、宇宙では障害物がある方がレアでしょうから、「テトラピークフォーメーション」が定式化すると、作者は予測しているのです。
単なる想像ではなく、理詰めでの予測に基づいて描いているのが本シリーズであると、アピールしているわけです。
未来の戦闘の様相を理詰めで予測している時にこそ、執筆にもっとも熱が入るというのが、作者の特性です。
そんなヤツが書いているとご理解頂きつつ、それでも本シリーズをご愛顧下さる読者様がおられることを、心から願っています。
読者様の方でも自分なりに予測して下さったりして頂ければ、なお一層嬉しいのですが・・・。




