第82話 Story about ロザリオ 21-3
「つまり、ターロックと帝国も、繋がっていたのか。
ターロックはパータリプトラでの独裁的権限を得ることに帝国やあんたを利用し、帝国は支配域拡大にあんたやターロックを利用し、あんたはプルシャプラへの復讐に帝国とターロックを利用していた。
身勝手で独りよがりな目的のために、互いを利用し合う醜悪な奴らのこんな愚劣な策動に、セシーは巻き込まれたんだ。
いや、違うか。セシーも利用したのか。
セシーだけは自分の都合じゃなく、培養奴隷を救いたいって気持ちだったのだろうけど」
「ふん、小娘の他愛もない好奇心だ。
培養奴隷が物珍しくて、面白がっていたのだろう」
「好奇心の為に、騙されていると分かっていて、命を懸けて遥か遠くの天体都市に旅立ったんだ。セシーは勇敢だよ。
安全なところに籠って、独裁権力や復讐なんかのために利用し合い騙し合い傷つけ合っている奴らとは、違うさ」
「ふん、何とでも言え。もうどうせ、我が企みは瓦解した。
いなくなったと喜んだポドルムの代わりに、空母を2艦も派すとは。プルシャプラでの大虐殺は、失敗が見えた。
正体も露見したから、復讐が成就する可能性は完全に消滅した。
もう何もかも、どうでも良いわ」
「そうか、でも俺たちとしては、保安機構の目的達成を見届けないとな。
アフシ族はともかく、その背後にとんでもない大軍勢が控えている。
バクトラの大王が、国中の戦力を掻き集めて攻めて来たと見える」
そう言ったロザリオはコンソールに指を走らせ、空母リンドスが送ってくる戦況情報を、モニター上の模式図で見られるようにした。
「培養奴隷がいなかったから、アフシ族は簡単に制圧できたけど、あの大軍勢はどうするつもりだ、ロザリー?
百近い武装船団に対して、こっちは空母2艦だけだぞ。
1艦だけ仕留めればよかった帝国軍との戦いとは、事情が違う。
確実に全ての武装船を、相手にしなくちゃいけない状況だぜ」
シェリングはロザリオの隣に並び、モニターに映る戦況に危機感を露にした。
「大丈夫。ちゃんと手は打ってある、いや、打ってくれている、タックが」
イゴルたちが帝国艦を相手にした時と同様の攻撃が、2艦の空母から出た百艘の戦闘艇によって実施され、既にアフシ族の武装船団は、機能停止させられていた。
予測を上回る加速によって接近を許した戦闘艇団のミサイル攻撃により、プラズマの生む高磁場に晒され、電子機器がイカれてしまった。
そこへ散塊弾攻撃を食らい、雨あられと浴びせられた金属片で表面構造物をことごとく薙ぎ払われた。
最低限の航宙機能を留めてはいるが、もはや戦えない。
「これでいよいよ、クルトゴルの大軍勢との対決が・・・・・・って、あれは?
クルトゴル率いる軍勢を上回るくらいの大軍勢が、いつの間にかクルトゴル軍に、接近しつつあるじゃないか」
「マゼーパ族を中核とする軍勢さ。
バクトラの半分以上の部族と、アフシ族の培養奴隷のほぼすべてを味方に付けて、クルトゴル大王に決戦を挑むところだ。
大王に勝ち目はないだろう。
機構軍も、いつでも支援できる位置にいる。
先制攻撃はしないだろうけど、マゼーパ族を守る為なら武力行使は可能だ。
アフシ族ともども、クルトゴル大王の命運も尽きたみたいですよ」
言葉の最後でシェリングから転じた視線の先で、怒りと絶望に満ちた大声が轟く。
「じゃあさっさと、私を殺せ! 死刑にでもなんでもしろ!
プルシャプラを破滅させる野望の断たれた人生など、続けても仕方がないわ」
「いえ、あなたにはアフシ族の船団に、無事に合流して頂きます。
そしてできれば、アフシ族の長として、今後は宇宙保安機構ともプルシャプラとも、友好に交流するよう一族を導いて頂きたい。
少なくとも、誰かに危害を加えることは、止めるよう方針転換して頂きたい。
あなたから、アフシ族の人々を説得して頂きたい」
「そんな綺麗事が、この私に響くと思うのか?
無事に合流できたなら、今後も、いつまでも執拗に、プルシャプラへの復讐を目論み続けるさ」
「今、そうおっしゃることは、予測通りです。
でも時間が経てば、考えが変わる可能性もある。
あなたには響かなくても、アフシ族の誰かに響く日が来るかもしれない。
チーフ・ミハルのやり方を、私も見習いますよ。
いつか恨みや怒りの呪縛から脱したあなたが、もしくは、無事に合流したあなたを見たアフシ族の誰かが、友好路線へと考えを変えてくれるかもしれない。
未来を信じ、人を信じて、我々は愚直に友好を呼びかけ続けます。
身を守る為の最低限以外は、あなた方がどんな態度で何を仕掛けようが、決して無用の殺生はしません」
ゲオルグ・ガルシアは、施設内に置かれていた連絡船の一つに乗って、アフシ族の船団を目指して行った。
プルシャプラに在住だった十数人の一族の者たちも、この施設に呼び寄せ、ガルシア一族が丸ごと、定住民から航宙民に鞍替えした。
友好を呼びかけたロザリオに対しては、最後まで、侮辱するような薄笑いだった。
シェリングはそれに憤り、この場での銃殺刑まで提案したが、ロザリオはやんわりと否定した。
敗北を喫した直後の、今の彼がどんな態度をとろうとも、それで未来の友好を諦めることは無いと、言葉を尽くして説得した。
遠ざかる連絡船を、モニター上の模式図で眺めていると、その連絡船から威勢を取り戻したゲオルグの声が、通信機を経て届いた。
「おい、オフィサ・マター、シェリング・ドット、お前たちの負けだ、馬鹿め。
私の素性とか目的とか、余計な事ばかりに気をとられて、私が命令を下していた相手の動きを、何も確認しなかったな。
宇宙保安機構の戦力的優位に油断して、戦いの方は勝ったものと決めつけておるから、こんな間抜けなことになるのだ。
だが、戦力的優位だけで、戦いは決まらぬのだぞ。
あの空母2艦には防ぎようのない方向から、私は別戦力を差し向けていたのだ。
もう少し早く別動隊の可能性に気付いていれば、打つ手はあったものを。
私のあの命令を受けた者の動きを、ちょっと気にかけていれば、助かった可能性があったものを。
つくづく、馬鹿な奴らだ、お前らは。
そして、今私の乗るこの連絡船も、お前らは初めから非武装だと思い込んで、何らチェックをしなかったが、実はそれなりに強武装だ。
オフィサ・マター。お前の友達の乗る空母は、艦載艇が全て出払って、背後からの攻撃には無防備なのじゃないか?
アフシ族の船団包囲とマゼーパ族への支援準備で手いっぱいで、空母の防御には関心が向いていないぞ。
艦載艇が無ければ丸腰も同然の空母に、この連絡船で攻撃を加えれば、お前の友人たちはどうなるかな、フハハハハ・・・・・・。
我が別動隊が、数秒後に攻撃圏に入る。プルシャプラはおしまいだ。無防備な都市への一方的な攻撃によって、一人残らず血祭りだ。
そして、空母に乗っているお前の友達も、この連絡船の攻撃で粉微塵だ、ワハハハハ・・・・・・。
お前の浅はかな判断と青臭い理想論が、プルシャプラも保安機構の空母も破滅に導くのだ。
どうだ、今の気分は? みじめだろう、オフィサ・マター、フワッハハハハ・・・・・・。
滅びろ、プルシャプラ! 吹き飛べ、宇宙保安機構! アッハハハハ・・・・・・」
ゲオルグ・ガルシアの勝利宣言に、ロザリオは憐みの表情で溜め息交じりに応じた。
「ガルシア殿。その別動隊の軌道を、よく確認してください。
プルシャプラは、破滅などしませんよ」
「なに、な・・・・・・何だこれは? C-683よ、こっちに向かって・・・・・・指定したコースから外れているではないか。
何をしている? どうしてそんな・・・・・・おい、プルシャプラを攻撃しろと、言ったではないか。プルシャプラの住民を皆殺しに・・・・・・」
「マイロード、いや・・・・・・」
今回の投稿は、ここまでです。 次回の投稿は、 2024/3/9 です。
空母の戦闘能力の低さを、ゲオルグが指摘していました。
彼の認識がどの程度正しいかはさておき、空母の防御能力が戦闘艦などと比べれば低いというのは、本シリーズ全体を通しての基本設定となっています。
実際の、地球の海の上を航行している空母も、同様であろうと作者は認識しています。
航空戦力を運搬するのが主な仕事で戦闘に参加させるつもりは無く、航空機が出払ってしまったら戦域を離脱して安全な所に控えさせるのが、空母というものではないでしょうか。
今回の場面では詳しい描写はしませんでしたが、別作品においては、空母は皮をむいた後のトウモロコシの房のようなイメージ、と表現しています。
おおむね円筒の形状で、戦闘艇が出入りするための孔が沢山ある、という感じです。
多数の戦闘艇を運搬させた上で、効率よく展開・収容させる機能を追求すれば、必然的にそんな形状になるのではないか、と作者なりに想像した結果です。
地球の海の上にいる空母のように、飛行甲板を持っていたりしないのは当然のことです。
戦闘艇の運搬・展開・収容の機能を追求すれば、武装は弱くならざるを得ません。
それ自体の戦闘能力は低いのが空母というものだという考えで、本シリーズは描かれています。
といって、武装が皆無ということもありません。一応軍用艦ですから。
ゲオルグ・ガルシアが言っていたような展開になるのかどうかは、続きを読んでのお楽しみというところです。
今後もシリーズ内では、詳しく説明しないままに空母が登場するかもしれませんので、このことをお心に留めて頂けるとありがたいです。
次回作以降も読んで頂けることを前提で、書かせて頂いています。何卒よろしくお願い申し上げます。




