第81話 Story about ロザリオ 21-2
「本心を隠すなら、正反対のことを言っておくのが確実なのだ。
中途半端な言い草では、一貫性のある嘘をつき通せないものだ。
だから私は、航宙民族の根絶やしを主張し続けた。
本当に根絶やしにしたかったのは、プルシャプラの住民だったからな。
我が祖先に追放の苦痛と屈辱を与えたプルシャプラを滅ぼすことが、我が一族に受け継がれてきた悲願だったのだ。
生まれた時から私も、プルシャプラを破滅させることだけを考えるようにと、教え込まれて来た。
しかし、マラカンダという後ろ盾を得ていたプルシャプラを根絶やしにするのは、容易ではない。
追放された者たちを航宙民族として再編したのも、バクトラ王国に参画して力の充実を図ったのも、プルシャプラを破滅させられるだけの力を得るためだった。
一方でプルシャプラの執政官を務め続けたのも、攻撃のタイミングを計る為だよ。
隙を見つけるには、執政官という立場は好都合だ」
「なんだと。じゃあ、プルシャプラを平穏で豊かにするための政策を実施していたのも、身分階級や差別を解消する方法を考えたのも、全て嘘っぱちの演技だったのか! 」
「もちろんそうだ。
有能で信頼のおける執政官だと思い込ませれば、隙を見つけ、確実に破滅させられる効果的な攻撃を、実現しやすいからな。
先祖代々、ここを破滅させるためだけに、我が一族は有能で信頼できる執政官を演じ続けて来たのさ」
「俺たちは、ずっと騙されていたのか。
俺の父さんだって、ガルシア一族から出た執政官の指示に従うことがプルシャプラの繁栄に繋がると信じ、危険な航路を通っての命懸けの交易を引き受けた結果、宙賊に襲われて命を落としたんだぞ。
それすらも、お前たちに騙されて、踊らされただけのことだったのか⁉ 」
「ああ、あの時は、最高に留飲を下げたものだったよ。
お前の一族は、アフシ族の祖先たちを追放した派閥の、リーダーだった者の末裔だからな。
怨敵の血を引くお前の父、シェーブス・ドットを、我ら一族の手で血祭りにあげてやったのだから、いい気分だったさ。
執政官という立場を有効活用して、怨敵の血を引く者への復讐を遂げたのだからな。
殺害の報を受けた時には、我が一族もここプルシャプラで、人知れず祝宴を催したさ。
あの、アナスタシアとかいう小娘が拉致され、奴隷として売り飛ばされたのも、怨敵の血を引くお前と恋仲だということが、我が一族の知るところとなったからだ。
怨敵の血を引くお前が、恋人を拉致されて打ちひしがれる姿も、我が一族にとっては楽しい見世物になってくれたよ」
「そんなことの為に、百年も前の出来事の為に、父さんも、アナスタシアも・・・・・・」
ゲオルグが語るほどに、顔を紅潮させ手を震わせ怒りを露にしていたシェリングだが、語り終えたころにはそれらを通り越していて、むしろ力無くうなだれてしまった。
「あなた自身も、培養奴隷のようなものだったのですね」
「ぬっ・・・・・・何だと? 」
「たった一度の人生を、親に吹き込まれた祖先の復讐のみに、注ぎ込んでしまった。
もっと素晴らしい人生の可能性に、自由に目を向けることを許されず、冷静に考えれば空疎でしかない人生を送ってしまっている。
なんと哀れな人だろう」
「な・・・・・・この私が、哀れ・・・・・・、空疎な人生・・・・・・培養奴隷と、おな・・・・・・いや、違うっ!
プルシャプラの根絶やしに成功していれば、我が人生は輝かしいものに・・・・・・」
「復讐が正義などという洗脳に、染まってしまっている者にとっては、そうでしょう。
ですが、この宇宙に生きる人類のほとんどにとっては、憐みや蔑みでしか見られないでしょうな、あなたの人生は。
百年も前の祖先の恨みの為に、今を幸福に生きる数千人を虐殺するなど、軽蔑以外に湧いてくる感情はありませんぞ」
「憐れみと蔑みか」
言葉に詰まっているゲオルグに向って、シェリングも言う。「その通りだ。俺ももう、怒りなんか失せちまった。今あんたに感じるのは、憐みと蔑みだけだ、執政官ガルシア」
「う・・・・・・うるさいっ! お前らごときがどう思うかなど、知ったことか! 」
「そうですか。百年前に追放された件というのは確か、クーデターを起こした集団が追放されたというものでしたか?
その時アフシ族の祖先は、プルシャプラを追われることになってしまったのですね」
「まだるっこしい寡頭制を、打破したかったのだよ。中央集権的で専制支配的な体制を、アフシ族の祖先たちは主張し、強行しつつあった。
およそ2百年前の航宙民族による襲撃と、数年に及ぶ占領支配の経験や、その後に続いたマラカンダへの隷属が、より強力で即応可能な体制への希求に結実していたのだ。
権力や財力を一点に集めることで、航宙民族もマラカンダも打破できる強い集団に、プルシャプラを生まれ変わらせようと我が祖先は企図したのだ。
そして、武力による政変に決起し、あと一歩で成就するというところで、このシェリングの祖先の一派に阻止されてしまった。
専制を望む一派は、捕縛や投獄の挙句に、宇宙へ追放された。
そのおかげでプルシャプラは、今日までの長きにわたってマラカンダに束縛される屈辱を味わって来たのだから、愚かとしか言えない。
こんな連中は虐殺され根絶やしにされるのが、分相応だ。
我が一族の方こそ、ここの馬鹿どもを憐み蔑んできたのだ」
「ターロック・マクロクリンやガウベラ帝国との繋がりも、復讐の為のものですか? 」
淡々と問うロザリオに、ゲオルグも淡々と答える。
「もちろんそうだ。
いずれはターロックから地球系の技術などを引き出し、アフシ族の強化に利用しようと考えていたし、私の正体が露見してプルシャプラを去らねばならぬケースも想定して、逃亡先を確保しておきたい思惑もあった。
パータリプトラをそれと考えていたのは、ヤツの失脚によって挫かれたが、ターロックの現在の潜伏先を、今でも万が一の逃亡先と考えて差し支えないとは計算していた
帝国は、マラカンダの影響を排除するのに、使えるかもしれんと考えていた。
執政官の立場なら、マラカンダの防衛力を排除してプルシャプラに無防備な時期を作りだせると踏んでいたし、実際それはやってのけた。
お前たちさえ邪魔をしなければ・・・・・・」
「そしてターロックに、地球系の誰かを宙賊に拉致させることでの、世論誘導を持ち掛けたのか? 」
「持ち掛けた? それは違う。
おそらくターロックは、帝国のやり方を真似たのだろう。
帝国は、プルシャプラの誰かを宙賊に拉致させて危機感を煽ることで、プルシャプラ内に帝国の傘下に入ることを主張する勢力を伸長させようと考えていた。
ターロックは、パータリプトラでの対宙賊強硬世論の喚起に、帝国のやり方が使えると踏んだのだろうな。
そして、帝国の使者が使おうとする船に同乗させて、地球系の娘をプルシャプラに送り込んだものと考えらえる。
私は、ミス・セシリアのことなどは知らなかった。
我が培養奴隷には、アナスタシアが乗った船を襲わせたつもりだった。
帝国の使者が電波を発して場所を知らせた船から、何度もやっている通りの拉致を培養奴隷に実施させれば、拉致の成就はともかくアナスタシアに危機が及ぶことになる。
培養奴隷には、希少な血筋と思われる女を拉致し孕ませて、送ってよこすように命じてあるからな、アナスタシアはプルシャプラの生まれではないから、あの船の中では希少な血筋を感じさせる女だったはずで、拉致される確率は高かった。
我が培養奴隷がミス・セシリアを拉致し、アナスタシアは別の航宙民族に拉致される結果になったのは、予想外の行き違いだった。
培養奴隷を率いていたバイルク族のコマンダーの、無能の影響といったところか。
だがそんなことは、大した問題では無かった。拉致の成就はどうでも良かった。
プルシャプラでもパータリプトラでも、宙賊への危機感は高まったのだからな」
今回の投稿は、ここまでです。 次回の投稿は、 2024/3/2 です。
今回の場面は、事情が錯綜して滅茶苦茶ややこしい感じになってしまっていたでしょうか?
描いた本人も、本当に筋が通っているのかどうかと不安になっています。矛盾点を見つけて下さった読者様がおられるなら、是非教えて欲しいところです。
航宙民族による拉致事件を起こすことで、帝国もターロックも航宙民族への危機感を煽りたかったわけです。
拉致そのものが成功しようが失敗しようが、危機感を煽ることができればそれでよかったのです。
帝国はアナスタシアを、ターロックはセシリアを拉致させたわけですが、発案は帝国側でターロックはそれを模倣しただけでした。
どちらも、ゲオルグの提供する培養奴隷を当てにしていましたから、最大の黒幕もゲオルグといっていいでしょう。
物語の縦軸となっているセシリア拉致事件の、裏のからくりが明らかになったということは、このお話もだいぶ終盤に至っています。
ですが、まだ解決していないことはあります。
セシリアやロザリオやスパルタクスがどうなるのか。彼らと深くかかわりを持つことになった人々や集団はどうなるのか。
それらの着地点を、きちんと見届けて頂きたいです。
見届けて頂いた暁には、シリーズ全体にも興味が湧いてくるハズ、と作者は期待しています。
どうにかして、一人でも多くの人を「銀河戦國史」の世界に引き込みたいと、必死で画策しているのです。




