第78話 Story about スパルタクス 17,Story about ロザリオ 20
「マイロードに期待を込めて、攻略戦に召集して頂いたからには、しっかり応える所存でございます」
「そうか、C-683よ。よく戻って来てくれた。
マゼーパ族に捕らわれの身だったところから、見事に脱出して来てくれるとは、まことに天晴だ」
「マイロード。多大なるご心配をおかけしたことを、伏して謝罪申し上げます。
捕縛されるという失態を犯し、報告もできず今日まで、ロードに無礼をはたらきました。
召集命令にも即応できず、指定座標にタイムリーに参上することも叶いません。
万死に値する命令違反とこころえ、この戦闘に命を懸けて臨み、穴埋めと致す所存です」
「いやいや、そのことはもうよい。無事に戻って来てくれただけで。
お前がいれば心強いぞ、C-683よ。プルシャプラ攻略は、必ずや成功するだろう」
「もちろんです、マイロード。到着は予定より少し遅れ、攻略戦には途中参加となってしまいそうですが、必ずや成功させて御覧に入れます」
「うむ、信じておるぞ、C-683。
邪魔だった宇宙保安機構も、首尾よくプルシャプラを離れてくれた。
マラカンダとも手を切ったから、奴らの防衛力は激減している。
お前たちなら、間違いなく攻略できるはずだ」
「承知いたしました、マイロード」
「あの地中都市の攻略は、私の悲願なのだ。長年の野望であったのだ。それが今、叶えられるチャンスなのだ。
ガウベラ帝国などの思いがけぬ動きによって降って湧いた、千載一遇のチャンスだ。逃すわけにはいかぬのだ」
「ははっ! マイロードの野望成就の為にも、これまでの私の無礼をお詫びする為にも、全身全霊でこの一戦に挑みます」
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「祖国を守る為に、我らは全身全霊でこの一戦に望みます」
悲壮感たっぷりのゲオルグ・ガルシアが、モニターの中で宣した。
意表を突いた侵攻に屈しつつある都市の執政官とは、こんな顔になるものなのか。
防衛の要だったマラカンダとの関係を断った直後であり、交易の果実で防衛力強化が成るのはまだ先であるというタイミングだ。
事前になんの予兆も無かった侵攻を、こんなタイミングで仕掛けられては、悲壮な覚悟で絶望的な防衛戦に臨むしかなくなる。
頼みの綱だったかどうかは分からないが、宇宙保安機構の戦闘艦ポドルムも、プルシャプラを離れてしまっていた。
本部から急な帰還命令を受けたとして、5日前にプルシャプラを去っている。
あまりに絶妙なタイミングで、突然の侵攻が企てられた。
宙賊の武装船を示す何百の光点が、プルシャプラに迫っている様子を表す模式図が、ロザリオたちの目の前のモニターにも転送されていた。
「やはり、プルシャプラ内部に、宙賊への内通者がいたのでしょうね、ガルシア殿」
「おっしゃる通りですな、オフィサー・マター。これほどに絶妙なタイミングで侵攻されるというのは、情報が筒抜けである証拠だ。
だがこの期に及んでは、そんなことは言っておられぬ。
勝ち目は無くとも、最後まで全力で戦いますぞ。
あなた方も、間に合うとは期待しておりませんが、できるだけ急いで駆け付け、せめて我々の仇だけでも打って頂きたい。
武力行使を極力回避するとの方針も、友好勢力である我らの滅亡という惨事を前にしては、一旦脇に置いて頂けるものと信じます。
必ずや我らの仇を打って、我らを破滅に至らしめた悪鬼どもを、根絶やしにして頂きたい」
モニターの中から睨みつけて来る、滅亡を目前にした都市の執政官の眼差しに、ロザリオはやや気圧されそうになった。だが、
「いえ、滅亡なんてさせませんよ。宇宙保安機構は、間に合いますから」
と、ゲオルグの視線を透かすかのような答えを返す。
「間に合う・・・・・・とは? あなた方は今、数百光年の、5日をかけねば戻れぬ遠方に・・・・・・」
「ええ、5日前にプルシャプラを去ったポドルムは、引き返すのにも5日が必要です。
ですが、代わりの戦力として、宇宙保安機構の2艦の空母、リンドスとカメーロが、既にプルシャプラの近くに到着しています」
「か・・・・・・代わりの戦力が・・・・・・ですか。
なぜ? どうして、そんな戦力を」
「ですから、プルシャプラ内部に宙賊との内通者がいると予測されましたから、マラカンダとの関係を解消しているこの機にポドルムがプルシャプラを去れば、宙賊が動き出すのではないかと考え、別戦力の派遣を要請しておいたのです。
ご安心ください、ゲオルグ殿。我ら宇宙保安機構は、プルシャプラを防衛しますよ」
「え・・・・・・あ、そ・・・・・・そうなの・・・・・・です・・・・・・か? いえ、失礼しました。
驚きの余り、喜びの表明も、お礼の言上も、忘れていました。
そうですか、かたじけない」
「いえいえ、喜びの表明も、お礼の言葉も、必要ではありません。プルシャプラの平和と幸福が、我らの目的です。
保安機構の戦力に、防衛はお任せ頂けますね? 」
「も・・・・・・もちろん。あなた方なら楽勝でしょう。
これまでに見せて頂いた戦いを、そっくり繰り返せばいいだけでしょう。
対帝国戦などで披露して頂いた戦術を、そのまま実施するだけで、今回の侵攻など容易に撃退できるでしょう。
お任せいたしますよ」
ゲオルグを映していたモニターが暗転すると、待ちかねたようにシェリングが話す。
「別戦力が、近くに来ているだって? そんな作戦だったのか。
一旦ポドルムを離れさせて、隙を狙っているはずの宙賊を誘き出したところで、こっそり呼び寄せておいた別戦力で叩くのか。
こんな大掛かりな作戦をやってのけるなんて、さすがはロザリーだ。
性根の歪んでる俺なんかには、こんなすごい作戦絶対に思いつかないぜ。
これなら、チーフ・ミハルに承諾を得なくちゃいけないのも、当然だな。
わざわざバーラーブにまで出かけるって言った時には首を捻ったけど、これの承諾を得る為だったのなら納得だぜ」
やけに彼を持ち上げ自分を卑下するシェリングの姿勢に、未だ消えぬ壁の存在を実感する。
シェリングから、自己嫌悪や航宙民への偏見を取り除く作戦を考えるのも、自分の重要な任務のはずだとの自責を抱きつつ、今は目の前の事態に集中すべしと自分を諫めるロザリオは、こう返した。
「いや、この件は、チーフの管轄じゃないよ。
本部に別戦力の派遣を決めてもらわなきゃいけないのであって、チーフの承諾は関係ない。
承諾を貰ったのは、もう一個の作戦の方だよ。
こっちはバーラーブにまで行かなくても実施できたけど、あっちはそうはいかないのさ」
「そうか、こっちじゃなくて、あっちの作戦か」
「そう、あっちだ」
シェリングが大袈裟に頷いているところに、着信を告げる電子音が聞こえる。
「おおい、ロザリー。俺の乗っているリンドスともう1艦の空母カメーロは、配置についたぜ。いつでも戦闘に入れる。
それに、例の暗号データも、解析が間もなく完了する。ターロックが秘匿していたデータから、お前の欲しがっていた情報が得られるぜ」
「有難う、ショーン。こんな遠くへの出征と暗号解読の、2つの仕事をいっぺんにやってもらって、悪かったな。おかげで助かるぜ」
「やめてくれよ、ロザリー。
ターロックなんぞを信頼して保安機構を離脱して、お前たちに余計な心配をかけたことへの罪滅ぼしだ。礼なんて、帰って心苦しいぜ」
「そういうことだから、ロザリー、ショーン・ブランケットについては、遠慮なくこき使って良いぜ」
ショーンの隣にいるのであろう人物の割り込みに、思わず笑いを漏らしたロザリオ。
「ははは、サイモン、あんまりショーンを責めすぎるなよ。
反省して、これだけの仕事をしてくれたのだから、もう許してやらなくちゃ」
「さすがはロザリー! 心が広いぜ。このサイモン・ウェントスの野郎とは違うな」
「何だと、ショーン。誰のおかげで、保安機構に早期復帰できたと思っているんだ! 」
「その件は、この前メシをおごったことでチャラだぜ、サイモン。狭量なことを言うな。少しはロザリーを見習え! 」
「あはは、まあ2人とも。今から戦闘だ。終わるまでは、仲良くやってくれよ」
声だけを届ける通信に、旧友たちの親交の回復を知り、ロザリオは破顔した。
角刈りの長身と赤いもじゃもじゃ頭の短身が笑顔を並べる、彼には馴染みの光景が瞼の裏に浮かぶ。
「私からも、ひとこと良いかな。オーエン・ブレトンだ。
キョセのやつが不在の折に、私が君たちに割り込むのも恐縮なのだが、やはり礼を言わずには気が済まない。
保安機構を裏切った我々を信用してくれたこと、そして、復帰後もなかなか配属が決まらず放置状態だった我々に、やり甲斐のある役割を与えてくれたこと、本当に感謝している。
有難う、オフィサー・ロザリオ・マター。
それから、キョセ・ミハルにも、オーエン・ブレトンが心配かけてすまなかったと反省していることを、是非伝えて欲しい」
「承知しました、大佐、必ず伝えます。
空母リンドスとカメーロを指揮してのプルシャプラ防衛を、よろしくお願いします。
文官である私は蚊帳の外なので、大佐だけが頼りであります」
「ははは、大佐ではなく、少佐だ。裏切って復帰した者が、もとの階級のままでなどいられるものか、あははは」
「そうですか、失礼いたしました。では、よろしくお願いします、ブレトン少佐」
「うむ、任せてもらおう。まずは、とびぬけて優秀なパイロットもいると言われる、例の戦団に対処するわけだが、戦術は練って来た。
保安機構に託された空母2艦を指揮して、培養奴隷の駆る戦闘艇団を、きっちり片付けて見せよう」
今回の投稿は、ここまでです。 次回の投稿は、 2024/2/10 です。
ショーン・ブランケットとオーエン・ブレトンが久しぶりに登場してきました。
直接的な登場は、ショーンについては、ロザリオがまだチーフ・ミハルの指揮下に入る前、オーエンについてはプルシャプラからバーラーブに向かう途上で、宿場天体ハミに立ち寄った時以来です。
その後、ターロック・マクロクリンのもとに馳せ参じたはいいが、到着とほぼ時を同じくしてターロックの不正が発覚し、失脚してしまい、彼らの行動は空振りに終わりました
そのことは、情報として伝わっただけで、本人たちは作中には登場していません。
。
ショーンたちは仕方なく、すごすごと保安機構に舞い戻って来ていたわけですが、作中にはそれは示されていませんでした。
こんな人物に感情移入して欲しいと思う作者は、我儘すぎるでしょうか?
彼らの自責や自己嫌悪の念はいかばかりか、保安機構内にあってどれだけ肩身が狭かったかは、想像に難くないのではないでしょうか?
そこを想像してもらえれば、作中でのオーエンの張り切りぶりも納得して頂けるでしょう。
ショーン共々、ここで名誉挽回だと意気込んでいるわけです。
サイモン・ウェントスとはやいのやいのと言い合っていましたが、照れ隠しだと誤認識ください。
このあたり、もっと人物像の作り込みや表現の多様化を図らないと、作品に深みが出ないなとの反省が、読み返す度に沸き上がって来るのですが、今の作者にはこれが限界のようです。
この場面に関しては、ショーンとオーエンが張り切って戦闘に臨んでいることが伝われば、御の字というところです。
今後、もう少し人物描写を豊かにしたい思いと、人物描写で文章が間延びするのはどうかとの思いが交錯して、こんがらがっています。
短くて豊かな人物表現を見つけるというのも、虫の良すぎる話でしょうし・・・、難しいです。




