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銀河戦國史 (迷走の北辺暗黒天体群域)  作者: 歳超 宇宙(ときごえ そら)
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第72話 Story about ロザリオ 17-2

「何だって・・・・・・」

 ロザリオの顎も落ちた。口を全開にしたまま数秒も考え、「もしかして、地球系の人が手元にいたから・・・・・・」


「いたからどこじゃないよ、ロザリー!

 その後に俺たちが、ミス・セシリアの名前をだした瞬間のロカレーン殿の顔からして、手元にいた地球系は、ミス・セシリアだよ」


「なぜそれを、今まで何も言わなかったんだ? 」


「なぜって・・・・・・、ミス・セシリアが保護を求めてないってことに、ロザリーが気落ちしていると、俺もチーフも思ったから。

 まさか、気付いていないとは・・・・・・」


「・・・・・・そうか、皆が当たり前に気づいたことに、俺一人気付いてなかったんだ。ははは、鈍感だな俺。

 そのことで気落ちしている俺を気遣って、話題にしないでくれていたんだ。

 鈍感な上に、世話の焼ける奴だったんだな、あはははは。


 でも、そうか、セシーは無事だったんだ。あのロカレーン殿の元にいるんだったら、安心だな。

 丁寧に扱ってもらって、心地の良く過ごせそうだ。本当に良かった」


 教えてもらえなかったことに怒ることも、知らずにいたことを恥じることも無く、セシリアの無事を屈託なく喜ぶロザリオに、シェリングは更に言った。

「それで、ミス・セシリアの様子だけど、これは、ロザリーには酷かも・・・・・・」

「何だ? 」

 言い淀んだシェリングを、ロザリオが促した。


「ミス・セシリアは、元培養奴隷と見られる戦闘艇パイロットと、恋仲になっているそうだ。

 その・・・・・・アナスタシアの目には、とても仲良さそうに見えたし、幸せそうにみえたそうだ。

 他のマゼーパ族やアールパード族の人たちとも、良い関係に見えたそうだ」


「そうか、そうなんだ。マゼーパ族の中で、心を許せるパートナーも信頼できる仲間もできたんだ。

 じゃあもう、何も心配ないじゃないか。良かった、本当に良かった」


 悲し気な笑顔で言うロザリオを見てシェリングは、気づかわしそうだったこれまでの態度を一転させ、唐突に語気を荒らげた。

「なぜそんなに、穏やかでいられるんだ⁉ 」


 拳でコンソールを打ち付けるや、ロザリオに詰め寄る。「もっと怒ったらどうなんだ! 恋人を、培養奴隷なんかに盗られたんだぞ! ちゃんと悔しがれよ! 」


「な・・・・・・なんか、なんて言い草はないだろ、シェリング?

 今はもう、彼は培養奴隷ではないのだし、セシーを安全な場所に連れ出してくれた恩人でもあるのだぜ」


「そんなもの、結果的にそうなったってだけだろ!

 培養奴隷っていう不幸な境遇に気付いて、必死になって逃げだしたら、たまたま捕虜だった女も連れて来ていたってだけだ。


 恩人だなんて、思う必要あるか?

 女の色香にたぶらかされて主を裏切る、身勝手なだけのヤツかもしれないじゃないか」


 激昂してまくしたてられたこの発言に、経験のない激情が突沸した。

 ロザリオの反射神経は、それを抑えるのに失敗した。


「たぶらかすとは何だ!

 色香でたぶらかしただと、セシーを侮辱するのか、シェリング・ドット! 」


 ついさっきのシェリングの、倍の強さでコンソールを打ち付けたロザリオの拳は、シェリングをひるませた。

「あ・・・・・・いや、それは、言い方がまずかった」


「なぜお前はいつも、人を侮辱的にしか見られないんだ!

 セシーに対しても、その恋人に対しても、頭ごなしに侮辱的な見方をしているから、奴隷なんかとか、たぶらかすとか、そんな言い草になるんじゃないのか!


 航宙民への恨みを言い訳にして、他者に対して侮辱的な見方しかできない歪んだ性根を正そうともしないヤツに、誰かを救うことなんかできるか!

 壊したり傷つけたりして回るだけの、凶器にしかなれないのだぞ、ぞんなヤツは! 」


 いつも穏やかだったロザリオの予想もしない顔色、そこから放たれる、予想もできない攻撃的な言葉。

 シェリングの顔からは、見る見る色が無くなった。


「まあまあ、そう熱くなりなさんな、オフィサー・ロザリオ」

 コフトが離れた位置にある席を立ち、割って入る。「シェリングだって、アナスタシア嬢を救い出せたからにはミス・セシリアも、何としても救い出さなきゃ義理が立たないって、焦っているんだ。


 アナスタシア嬢と過ごす時間が楽しいほど、それをロザリーには味わわせてないことで、罪の意識にさいなまれ、責任を痛感しているのだ」


 こんなコフトの言葉がきっかけとなったのか、シェリングの顔色がそうなのか、ロザリオは急激に落ち着きを取り戻す。

 遅ればせながらに追いついて来た、いつもの優しいロザリオが、自分の吐いた言葉の残酷さにおののく。


「悪い。こんな歪み切った心根の俺なんかが、余計な口出しを・・・・・・」

「違う・・・・・・今のは俺が悪い。済まなかった。

 それと、心配してくれて、ありがとう。


 ただ、セシーは今幸せだと思うし、セシーの恋人は良い人なのだと、俺は信じようと思う。

 分かってくれ」


 気まずい沈黙が到来した。

 数十分にわたって続く静寂が、これまでになかった壁の存在を、ロザリオに知らしめた。

 振るった言葉の刃が、強固な壁となって彼とシェリングを隔てていた。


「・・・・・・このままでいいのか、本当に、ロザリー? 」

 ようやくといった感じで、壁の向こうから、微かに聞こえて来た声。


「・・・・・・何が? 」

「いや、だから・・・・・・好きだった人を、誰かに盗られたままで・・・・・・」


「ああ・・・・・・だから、そんなことは・・・・・・今更、もう・・・・・・何年も前に愛想をつかされちゃった相手に、恋人ができただけのことさ・・・・・・ああ、まあ、シェリングにそう言われてみれば、今頃、胸が痛む気もしてきたけど、俺は大丈夫さ。セシーが無事なら・・・・・・」


 言葉から棘が抜けない。そんな自分が嫌になる。

(最悪だ、俺は。セシーのことだってそうだ。

 どれだけ胸が痛んでも、それは俺の自業自得だ。


 良きパートナーと幸せに暮らしているなら、それを喜んであげるしかないさ。

 失踪の理由が自分にあるなんていうのも、自惚れからくる勘違いだったのだろうけど、もし仮に俺が原因だったとしても、良きパートナーに出会えたのなら、俺とのことなんてすっかり忘れてくれただろう)


 走り去る背中が、今でも目の裏に浮かぶ。彼が傷つけた彼女が、走り去る背中が。

 喪失感はあるが、罪の意識が、それを分相応と思わせる。


 手を伸ばしもしなかった大切なものが誰かに持っていかれたとしても、その喪失感は、誰のせいにもできるわけがない。

 手を伸ばさなかった自分が悪い。


 もし、手を伸ばさないことで傷つけていたのだとしたら、その罪への罰には、こんな喪失感は実にふさわしい。

 自分の胸など、どれだけでも痛めばいい。

 セシリアは幸せをつかみ、自分は完全に忘れ去られて、1人で喪失感にのたうち回っていればいい。


 走り去る背中を反芻しつつ、喪失感に胸を痛めつつ、それでもセシリアの幸せを心底から喜んでいる。


 こんなロザリオに対して、シェリングは再び気づかわしそうな態度を見せていたが、壁越しの声は、思いを届けさせることはなかった。

「大丈夫なんだな、ロザリー? 本当に、これで良いんだな? 」

 今回の投稿は、ここまでです。 次回の投稿は、 2023/12/30  です。


 自分の作品の欠点として、出てくる人物のほとんどが性格的に丸すぎる、ということがあると思っています。

 もっと棘やクセのある人物を描いて行かないと、作品に味わいが出ないなと思いながらも、どうやったらそんな人物が描けるのか、さっぱり分かりません。


 理屈の通らない感情の変化とか、脈絡のない思考経路とか、そんなのもあるのが人だし、それがないと登場キャラが人らしくならないと、ずっと思ってはいるのです。

 といって、余りにもハチャメチャだと、それも読みづらい作品になりそうです。


 一見理屈が通らないように見えて、ある特殊な視点からは理屈が通っている、そんな感情変化を描くべきなのかなとか、作中に登場していない情報を踏まえれば脈絡があるけど読者には脈絡が無い思考経路だと思わせておく、というのもやって見るべきなのかなとか、あれこれ思い悩んでいます。


 それらの実施は今後の課題として、この作品では、セシリアやロザリオやシェリングに、突然怒らせてみました。

 こんな急に怒り出すのは不自然な気もするし、筋が通り過ぎていて面白味が無い気もするし、出て来る言葉にも工夫が足りないし、などなど読み返すと問題点だらけですが、なんとかちょっとだけ登場キャラに棘を生やすことはできたかな、とも思っています。


 こういうのは、基本的な人間観察能力が欠如している人間には、どうやっても不可能な事なのかもしれませんが、不可能と分かったとて諦める気にはなれません。

 無駄かもしれないのを承知で、できる限りあがいてみるつもりです。


 こんな作者の行く末を見守って下さる方がおられると、有難く思います。

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