第71話 Story about ロザリオ 17-1
久しぶりとなるプルシャプラの領域へ、戦闘艦ポドルムが侵入した。
バーラーブで合流した、ゲオルグ・ガルシアたちを乗せた連絡船が先導している。
合流直後にも、プルシャプラへの道中でも、ゲオルグはアールバード族を中核とした連合を、非難し続けていた。
航宙民族を信用して中核に据えるなど、彼に言わせれば狂気でしかないそうだ。
甘い顔で油断させておいて、いずれ酷い略奪に及ぶのは明白だという。
帝国の驚異が薄れた今こそ、定住民族は一致団結して、航宙民族を根絶やしにするべきとの主張も繰り出した。
このゲオルグの舌鋒を、ロザリオはチーフ・ミハルに成り代わり、一身に受け止めなければならなかった。
チーフは、帝国と諸部族との仲介や会談への立ち合いなどの為に、数人の武官と共にバーラーブに留まったから。
「アールバード族をはじめ、航宙民族の動きには十分に注意を払い、裏切りや略奪などにはすぐに対応できるようにしてありますので、ご懸念には及びません」
通信機越しに1時間余りも聞き続けたゲオルグの批判に、そんな言葉で区切りをつけたロザリオは、モニターが暗転するや否やシートに崩れ落ちた。
減速が生む重力が、いい塩梅で身体をシートに押し付けてくれる。
「あはは、お疲れさんだな、オフィサー・ロザリオ。
チーフがいないと、負担激増だな」
コフトがかけた労いの言葉に、疲れのにじむ苦笑を向けて、ロザリオは応えた。
「チーフがいるとかいないとかより、ゲオルグ・ガルシア殿のあのしつこさが、異様すぎるよな。
そんなにも、航宙民族が信用できないものなのかな? 」
「無理もないよ、ロザリー」
シェリングも、隣の席からロザリオを宥める。「プルシャプラは長年、航宙民族に苦しめられ続けたからな。
完全に占領下におかれ、支配された時期もあった。多くの同胞を、宙賊の略奪によって失ってもいる。
代々の執政官を輩出しているガルシア一門は、そういった屈辱の記憶や被害の記録を色濃く伝承しているから、航宙民族への不信も筋金入りなんだよ。
きっと、有能で責任感の強い指導者であればある程、宙賊への敵意や憤怒は強くなるだろうぜ。
ガルシア一門は、その典型だ。歴代の当主が全て、有能な執政官としてプルシャプラの存続に貢献してきた。
皆があの一族には、一目置いているんだ。
まあ、2級や3級の市民とされている人々の間では、不満を持つ者も少なくないし、俺自身もしょっちゅう批判しているけど、それでもガルシア一族がいなければ、プルシャプラが存続できなかったことはプルシャプラの全市民が認めるだろう。
1級とされている市民については、全員から最大限の尊敬と親愛を集めている一族だ。
俺の父さんも、ガルシア一族に指示された交易を、危険を承知の上で引き受けるくらいに、厚い信頼を置いていたぜ。
宙賊に襲われて命を落とす結果にはなってしまったけど、ガルシア一族の指示に従ったからこその貢献を、プルシャプラに対して成すことができたのも事実だ。
だから、あんたたちには過激に思えるガルシアのああいった発言も、俺たちにとっては肯首せずにはいられないんだ。
イゴル大尉みたいな航宙民出身の立派な人がいると知ってもなお、少なくとも今略奪をやっている航宙民については、根絶やしにするのが一番だと、俺だって今でも信じているさ」
そう話すシェリングの胸中には、父親を殺された怒りが衰えることなくグツグツと煮えたぎっている現実を、ロザリオは改めて思い知らされた。
怨讐の情で結束しているプルシャプラの絆とは、想像を超えて強靭なようだ。
こんな考えを巡らせながら、なんとなく見つめていたレーダー用モニターには、プルシャプラの防衛用人工天体の近くを、ポドルムが通過する様子が示されていた。
(こんなにも防衛に力を注がなければならないくらいに、プルシャプラは宙賊の襲撃に悩まされて来たのだな。
苦労して稼いだ交易の果実のほとんどを、自分たちの暮らしを良くすることにではなく、防衛のために使わなければならなかったんだ。
襲撃による被害だけでない恨みや怒りが、何百年にもわたって積み上げられているのだな)
全ての航宙民族に略奪を止めさせるのも至難の業だが、それを成し遂げても、その後にこういった積年の恨みや不信感を拭い取らなければ、宇宙に真の平和は訪れない。
宇宙保安機構の抱える課題の難しさに、今更のように頭を抱えるロザリオだった。
「本部から連絡よ、ロザリー」
マニエラが、考えに沈むロザリオを引き上げた。「ターロック・マクロクリンに関する続報だわ。
追放された後に亡命先を見つけ、そこでしぶとく、対宙賊強硬派を募って、新たな政治結社をつくろうと画策しているらしいわ」
「こんなのもあったな、保安機構の抱える難題には。考えるだけで頭が痛くなるよ。
あんなのがいたのじゃ、恨みや不信感の連鎖が、いつまでも途切れないじゃないか」
ぐしゃぐしゃと髪を掻き回すロザリオに、マニエラは慰めるような柔らかな声で語りかけた。
「最後まで聞いて。
そんなターロックだけど、手元にいた培養奴隷が、突如一斉に逃亡してしまって、新たな活動も頓挫したみたいなの。
それの戦力を売り文句にして、強硬派を集めていたから、活動の基盤が崩壊したと言っていいわね。
それに、培養奴隷の逃亡が原因で、亡命先の座標が宇宙保安機構にも知られてしまって、厳重にマークされることになったから、なお一層活動再開は困難でしょうね。
それでも、まだあきらめていない感じが、不気味ではあるけど」
「そうなんだ。でもミス・マニエラ、培養奴隷って・・・・・・」
ロザリオは、先の帝国艦との対峙の場面を思い出した。
彼らが展開していた培養奴隷の戦闘艇団も、突如として離脱を図った。
そのことが、帝国への完全勝利に繋がり、皇帝による融和路線への転換宣言まで得られた。
「帝国の培養奴隷が逃げ出したのと、タイミングが一致しているよな」
「そうなのよ。こちらの報告で、機構本部もそのことを認識していて、様々な憶測を呼んでいるわ。
帝国やターロックの件以外にも、ヘラクレス北辺暗黒天体群域のあちこちで、培養奴隷の逃亡が報告されていて、原因は不明なんだって」
(このあたり全体で、培養奴隷が一斉に逃亡している。逃亡というより、呼び寄せられている。
培養奴隷を色んな勢力に貸し出していたロードと呼ばれる者が、自分の作り出した培養奴隷たちに、一斉召集をかけているのだったな。
何を企んでいるのだろう? )
それから数時間もロザリオは、ターロックの暗躍や培養奴隷の異常行動の件に、考えを巡らせていた。
考え疲れて、途中で何度かウトウトもした。
急ぐ用事の無いのを良いことに、仮眠と考察を交互に貪った。
「ロザリー、良いかな? 」
不意に声をかけて来たのは、シェリングだった。「アナスタシアの気持ちがだいぶ落ち着いてきて、拘束されていた時のことを話してくれるようになったんだ。
色々と話を聞いて行くうちに、ニーシャプールでのミス・セシリアの様子も分かって来たよ」
「え? セシーがニーシャプールに?
何を言っているんだシェリング、セシーはニーシャプールには、いなかったじゃないか。
ロカレーン殿が、そう言っていただろ? 」
この発言に、シェリングの顎が落ちた。
「はぁっ? ろ・・・・・・ロザリー、まさかお前、気が付いていなかったのか?
今の今まで、ニーシャプールにミス・セシリアがいないって言葉を、真に受けていたのか? 」
「真に受けて・・・・・・って、じゃあ、セシーはニーシャプールに? 」
「お前、ロカレーン殿の、話している時の顔を、見ていなかったのか?
それ以前に、ロカレーン殿があの時、もし地球系の人を見つけてもその人が保護を求めていない場合はどうすればいいかなんて、尋ねた理由を、何だと思っていたんだ? 」
今回の投稿は、ここまでです。 次回の投稿は、 2023/12/23 です。
ターロック・マクロクリンの名が久しぶりに話題に上り、「誰だっけ?」と思われている読者様もおられるかもしれません。
毎回、間隔を大きく開けて登場する人物なので、出てくるたびに「誰だっけ?」となってしまうかもしれません。
作者も小説を読んでいて、そうなることはとても多いです。
ページを遡って確認して、やたらと時間をとられてしまうこともしばしばです。
こういうのもリピーターを増やす原動力に、なるものなのかもしれません。
とすれば、後書きで説明などしない方が、作者の立場としては賢明なのかもしれません。
でも、ちゃんと登場人物のことを思い出した上で読み進めて頂きたいので、軽く説明しておこうと思います。
ターロック・マクロクリンは、惑星国家パータリプトラで独裁者を目指していたけど、失脚してしまった人物です。
地球系であるセシリアを宙賊に襲わせることで、パータリプトラ世論を「宙賊は撲滅すべき」という方向に誘導しようとしたことが明るみに出たことが原因でした。
培養奴隷を使って宙賊の拠点を制圧したり、ロザリオの旧友のシェリングといった保安機構職員を配下に引き入れたりと、不気味な動きを見せていた人物でもあります。
そんな人物が失脚して尚、しぶとく不穏な動きを見せているというのですから、まあ何かの伏線になっているのだろう、と読者様にはご認識頂きたいところです。
伏線であることを後書きで明言する作者など、他にはいないのかもしれませんが、まあ、これだけあからさまな伏線なら、言ってしまってもネタバレってことにはならないでしょう。
いずれにせよ、ターロック・マクロクリンの名前は覚えておいて頂きたいです。
あと、ゲオルグ・ガルシアなども久しぶりに出た名前でしたが、本文中の内容で説明できていると思うので、ここでは説明しません。
ですが、やはり覚えておいて欲しい名前ではあるので、よろしくお願いいたします。




