第65話 Story about ロザリオ 15-2
「我々の戦闘艦ポドルムだけでできることには、限りがありますからな。
これ以上ここの事態に関与するなら、本部の判断が必要です。
我々としては、武力衝突は極力避けたい。
といって、武力による一方的な現状変更は阻止したいし、既に友好関係を樹立した勢力の安全は、絶対に守らなければならない」
「帝国の出方によっては、難しい願望だな。
我らとしては、こちらから戦いを仕掛けるつもりは無いから、戦いが起こるとすれば帝国の一方的な侵略しかありえない。
そうなった場合には、武力衝突を避けて友好勢力を守ることはできない」
「そうなりますね。
今ここで、あなた方が我らとの友好を表明して下さるのなら、宇宙保安機構にはあなた方を全力で防衛する責任が発生します。
友好の表明が無かったとしても、既に友好関係を結んでいるバーラーブの交易相手が巻き込まれる事態ですから、保安機構には防衛に協力する責任があります。
ですが、有効な防衛体制を築く為にも、それ以上に武力侵攻をさせない方途を検討するためにも、我らとしては急ぎ本部に帰還させて頂きたい」
「なるほど、良く分かった。早急に帰還したいとの件は、承知した。
大きな脅威を前に貴重な戦力を失うようで残念にも思えるが、より確実に脅威に対するには、一旦帰還してもらうのがよさそうだ。
が、その件はさておき、人探しの件はどうするのだ? 」
保安機構に探し人が2人いるということは、既に伝えてある。
1人は今見つかったが、もう1人見つけなければいけないことに、ロカレーンは言及している。
「地球系で拉致された人に関する情報を、アールパード族やニーシャプールがお持ちでないのなら、その件に関しても、今ここでやるべきことは、我らには有りません」
そう言った瞬間のチーフの顔にも、言われたロカレーンの顔にも、複雑な感情の揺らめきが見られた気がしたが、ロザリオにはそれが何を意味するか分からなかった。
「もし仮に・・・・・・仮にだが、地球系の者を保護したが、その者が宇宙保安機構による保護を望まなかったとした場合、どうすべきと思われるか、キョセ・ミハル殿? 」
「そんなこと、あり得るのか、ロザリー? 」
チーフ・ミハルが何か答える前に、イゴルが小声で尋ねた。
ロカレーンに聞こえないようにしたわけでもないが、かろうじて聞こえる程度に抑えた声だ。
「セシーなら、そう言うかもな。
ターロックに騙されたふりをしつつ、実は自分なりに目的があってプルシャプラに行ったように思えるから、保護なんて求めないかも」
「もしかして、ロザリー」
イゴルと反対側から、今度はシェリングの小声が届く。「まだミス・セシリアを危険な宙域に追い込んだのは、自分だなんて思っているのか。
だから、彼女が自分に助けを求めるなんてことは、あり得ないと考えるのじゃないか? 」
「いや、シェリング、そんなことは無いよ。
保安機構に保護を求めるのと、俺に助けを求めるのはイコールじゃないし、失踪が自分のせいじゃ無いってのも、少なくとも頭では理解できている。
それでも、セシーは保安機構の保護は、求めない気がするんだ」
彼らのこのやり取りの間、ロカレーンの表情が目まぐるしく移り変わっていたのに、チーフ・ミハルを含めた数人が気付いた。
そして彼らは、それを見なかったことにするつもりのようだ。
「保護を求めていない人のことは、伝えて頂くには及びません。その人のやりたいように、やらせてあげてください。
我々としては、無事でいるのならそれで充分なのです。
何か助けが必要になったら、その時におっしゃって頂ければ結構です」
「そうか。では、何かそういう情報を掴んだ際には、申された通りに致そう」
「お願いします」
言葉でのやり取り以上に、多くが行き交った。
激しく迷う様子のロカレーンに対して、大きく頷くチーフ・ミハル。
それを見て一転、心が決まったように小さく頷くロカレーン。
にっこりと口角を上げたチーフの笑顔と、微かなロカレーンの笑顔。
これら無言のやり取りを、ロザリオはことごとく見落としていた。
「ミス・セシリアの件は残念だったが、気を落とすなよ。彼女にだって、考えや都合というものがあるのだろうからな。
まあ、焦らず、じっくりと時間をかけて取り組もう」
ポドルムへと戻る道すがら、チーフ・ミハルはロザリオの肩を叩いてそう言った。
「はい、チーフ」
返事をしたロザリオは、内心でつぶやく。
(事情も何も、いないものはいないのだから、仕方ないよな。
ここにセシーがいる確率なんて、そもそも天文学的に低いのだから、焦っても仕方ないさ)
チーフと認識に食い違いがあることに、ロザリオは最後まで気付かなかった。
「機構本部から、連絡が来ていますわ、チーフ」
戻るとすぐに、マニエラが報告を上げて来た。「ターロック・マクロクリンが失脚し、惑星国家パータリプトラを追放になったそうです。
それと、宇宙保安機構を離脱してターロックに合流しようとしていた一団が、この件を受け保安機構への復帰を表明したそうです。
そのリストも付されていて、お二人のお知り合いの名前も載っていますわ」
「本当か? 」
「本当に? 」
上司と部下が揃って聞き返すのを、マニエラは楽しそうに受けた。
オーエン・ブレトンとショーン・ブランケットの名をリストに見つけた瞬間には、2人は手を取り合って喜んだ。
その後、復帰表明までの経緯を報じた一文に目を通した時には、2人揃ってため息をついた。
ターロックの不法行為の数々を知って、離脱組がショックを受けたことや、そんなターロックに命運を託そうとした自分を恥じているとの報は、彼らの喜びを吹き飛ばした。
「どんな気分でいるだろうな、あいつらは」
「どんな顔をして戻ってきたらいいか、分からないでしょうね、あの人たちは」
喜びを隠そうともせず、アナスタシアといちゃつくシェリングを遠目に見ながら、チーフもロザリオも、一時の喜びが嘘のように沈んでいた。
「どんな気分だろうと、強硬路線の主張を変えることは無いだろうな、あの連中は」
「そうですね。ターロックがどんな人物だったかと、宙賊にどう対応して行くべきかは、根本的に別問題ですからね。
今回の件は、主張を曲げる理由には、なりませんよね」
「色々な意見があるのは良いことだ。
ただ、もう少し、短気を抑えるようになってもらいたいな、彼らには」
今回の投稿は、ここまでです。 次回の投稿は、 2023/11/11 です。
チーフ・ミハルとアールパード族長ロカレーンの微妙なやり取りの意味を、どれくらいの読者様が認識して下さっているでしょうか?
こういう「ほのめかし」的な書き方のさじ加減が、作者には全く分かりません。
もし自分が読者の立場だったら、今回の「ほのめかし」の意味を、初読の際には気付かないのではないか、と思います。
2回3回と読めば気付くとは思いますが、書き手の立場で言うと、最初から気付いてほしいところです。
多くの読者に最初から気付いてもらえるように、でもあくまではっきりとは明言せずに「ほのめかす」程度にしておく。
そんな書き方に挑戦したつもりなのですが、どうだったでしょうか?
内容をぶっちゃけてしまえば、セシリアがニーシャプールにいるという情報を、ロカレーンは報告されているけどもセシリア自身の希望により、チーフ・ミハルには教えられない。
教えられないけども、チーフ・ミハルたちが一生懸命に彼女を探していることが分かるから、黙っているのは心苦しい。
チーフ・ミハルは、ロカレーンの表情からその事実を読み取ったけども、あえて追求することはしません。
さらに、チーフ・ミハルにセシリアのことを気付かれていることも、そのことに言及せずにいてくれていることもロカレーンは気付いたし、彼の方も何も言わなかったわけです。
セシリアはニーシャプールにいるけども、本人が保護されることを望んでいない。
だから、ロカレーンもチーフ・ミハルも彼女がここにいることを知らないという体裁をとるということに、暗黙の内に合意したわけです。
そしてそんな暗黙のやり取りを、ロザリオは全て見落としたということです。
後書きでここまでぶっちゃけるなら、本文ではっきりとそう書けばいいような気もします。
どんな書き方が良かったのか分かりませんし、明確な正解など無いでしょう。
そんな中で、チーフ・ミハルやロカレーンの微妙な立場を表現するために、この場面は「ほのめかし」的な書き方にしました。




