第61話 Story about ロザリオ 14-2
チーフとヤックの会話にかぶさるように、マニエラも報告。
「帝国艦以外の全ての敵船は、活動停止命令を出しているわ。
ニーシャプールへの攻撃も止んだし、大尉たちにも当艦にも、何かを仕掛けるつもりはないようよ」
「熱源や重力源の分布パターンからも、帝国艦以外の敵船には、攻撃意志は見受けられない」
コフトがマニエラに続いて、同じ見解を告げた。
「無理矢理連れて来られただけだからな、帝国艦の戦闘の、結果待ちってところだろ」
「計算通りですね、チーフ。相手に何隻の船があろうとも、こちらが相手にするのは帝国艦だけだって、大尉とチーフは初めから・・・・・・」
「ミサイル炸裂」
ロザリオが話し終える前に、サーベイランスが叫んだ。「敵艦を、しっかりと高磁場エリアに抱き込む形で、20発放った全てのミサイルが爆発しました」
「当艦も、ミサイルを発射します」
シップコントロールのヤックが、コフトの報告に続いて宣言し、それに続いてまたコフトが、
「大尉たちも、再びミサイル発射。敵の横をすり抜けた後、反転して後ろ向きに飛翔しながら、第2派のミサイル攻撃を実施した模様」
と報告。
モニターを見つめたまま、指揮室の全員が沈黙する数十秒が過ぎた。
「当艦と大尉たちの、両方の散塊弾が命中。帝国艦は全方位から金属片を浴びています」
ミサイルは直進するものだけでなく、上下左右から迂回するのもあり、立体的に包囲するようにして撃ち込まれていた。
「帝国艦、沈黙! 熱源などの観測結果からも、戦闘能力はほぼ喪失したと見て良いでしょう。
かろうじて帝国に帰り着ける航行能力だけが残され、人的被害も無いはずです」
こんな状態に、偶然になることが無いのは、帝国の将兵にも分かるに違いない。
事前に戦闘能力だけを削ぐとの宣告もしてあったのだから、なおさらだ。
これは、彼我の技術力や兵器水準の決定的な差を見せつける戦果だ。
ただ負けたのではなく、子ども扱いと言い得るほど手玉に取られ、手加減してもらった上で完敗したと、敵も認識せざるを得ない。
「早速、逃げ出す相談を始めたわね、帝国艦以外の船では」
「お、実際に、逃げ出す者が出て来たな」
マニエラとコフトが報告した数分後には、蜘蛛の子を散らすという表現がふさわしい状態になった。
無理矢理連れて来られた者たちのタガが外れたのだから、無理はない。
3分の1ほどが、帝国艦の沈黙から数分で散り散りになり、次の3分の1は1時間ほど相談し合った上で離脱を決め、最後の3分の1は遅れてはならじと思ったか、先を争い前の3分の1を追い抜く勢いで、帰路についた。
さっきまで大軍がひしめいていた空間に、滅多打ちにされ沈黙した帝国艦だけが、ポツンと取り残される形になった。
マニエラは通信を試みた。1時間ほど無視され続けたあとに、返答が得られた。
「敗北を、受け入れるしかないようだな。信じがたいことだが、お前たちと我々には、絶大な技術力の差があることが、良く分かった。
もはや抗戦は不可能だが、投降などするつもりはないから、早くとどめを刺して、ひと思いに宇宙の塵にしてくれ。
だが覚えておけ、ガウベラ帝国は、この屈辱を忘れぬ。
お前たちの技術力の恐ろしさは思い知ったが、それ以上に、怒りと恨みを忘れはしない。
強大なる帝国が燃やした凄まじき怨念が、いつか必ずお前たち宇宙保安機構に復讐を果たすだろう」
「いえ、それは御免被ります」
チーフ・ミハルが、通信機へと静かに語り掛けた。「とどめは刺しません。あなた方には是非、無事に祖国へと帰還して頂きます。
そして今回の結果をガウベラの人々に伝え、記憶に留めてもらえるように、取り計らって頂きたい。
だが、ご記憶頂きたいのは、我々の戦力や技術上の優位などではありません。
そんなものは、時間の経過によってひっくり返り得るものです。
覚えておいて欲しいのは、我々が敵対ではなく友好を望んでいるということです。
そのためにはまず、あなた方に、周辺諸勢力に対する高圧的態度を改めて頂かなくてはなりません。
全ての勢力が対等の関係で友好的に交流することを、志向して頂きたい。
あなたは今、我々に対する敗北への屈辱や怒りを、決して忘れないとおっしゃったが、あなた方に抑圧されている人々も、あなた方への怒りを忘れないでしょう。
そして、我々の優位がくつがえり得るのと同様に、帝国の優位も、いつかはくつがえります。
人も国も、健やかな時があれば、病む時も衰える時も、必ず訪れるものです。
今は強勢を誇る帝国とて、必ず不振の時は来ます。災害や疫病、経済恐慌、内乱等々、国家を不振に陥れる原因など、無数にあるのですから。
高圧的な態度でばら撒いた怒りや恨みが、あちこちでくすぶった状態で、そんな不振の時を迎えたら、帝国は突如の業火に包まれるかもしれません。
誰もが決して、無事では済まぬはず。
今強勢を誇る者は、それが永遠に続くものとの勘違いを冒しがちです。
不振の時が来るなど、なかなか想像が及ばぬものです。
ですが、強勢は決して永続せず、不振の時は不可避なものです。
それが世の理というものです。
このことは、我ら宇宙保安機構にも、同様に言えることです。
今あなた方に勝利したこの力が永続するなど、我々は毛頭考えてはいません。
だから我々は、あなたがたの怒りを恐れます。
無用の殺生をして恨みを受けるなど、決してしたくない。
あなた方の安全な帰還に、持てる力の限りを尽くします。
ガウベラ帝国軍司令官殿に、お願い申し上げます。
お互いに、今持つ力への過信を捨て、謙虚に相手を畏怖する心を持とうではありませんか。
全ての勢力が対等に友好的に交流し、怒りや恨みを生まぬようにすることが、誰にとっても、安定した未来を約束するのです。
人の上に君臨すること、人を支配すること、人に優越すること、それらは、大きな満足感をもたらすものかも知れませんが、同時に大きなリスクを抱えるものです。
逆に、人と対等に交流することは、多くの面倒を抱えたり不安を覚えたりすることでもありますが、大きな喜びをもたらすものでもあり、将来に平穏をもたらすものなのです。
人に優越する満足感を越える喜びが、人と対等に交流することの中に必ずあると、私は信じます。
それを味わった上に、将来に余計なリスクを抱えることも防げるのです。
優越や権威を求めるより、対等な友好を目指す方が、賢明な生き方であると断言します。
そのことは、地球という惑星で営まれた我らに共通の歴史が、証明していることです。
宇宙系のあなた方が、地球時代の歴史をどの程度記憶にとどめておられるかは分かりませんが、地球での歴史を紐解けば、一時の隆盛に奢った集団は、ことごとく悲劇的な末路を辿ったと知るでしょう。
そしてついに地球人類は、全面核戦争という過ちを犯し、母なる惑星を壊滅に至らしめる失態まで演じました。
この歴史を知る我ら地球系人類は、同じ過ちを犯さない決意に燃えています。
ですから、あなた方の無用の恨みを買いたくはないし、あなた方が恨みをばら撒くのも阻止したい。
一時の強勢に奢って、ばら撒いた怒りで自らを滅ぼすという愚行を、くり返すのは止めましょう。
この私の言葉を、是非心に留めて頂きたい。祖国に戻られたら、出会う人々皆に伝えて頂きたい。
あなた方の皇帝にも是非、宇宙保安機構の考えを言上して頂きたい。
その為にも、あなた方には無事に帰還して頂きます。
当方には自動修繕ロボットの装備もあり、それの貸与も可能ですし、あなた方が安全を確信できる場所まで、随伴して送り届けさせて頂いても構わない。
いかがでしょうか? 」
今回の投稿は、 ここまでです。 次回の投稿は、 2023/10/14 です。
散塊弾というモノが出てきました。大量の金属片をまき散らすタイプのミサイル弾種です。
威力は小さいけど命中確率は高い弾種で、大きな相手には何発も命中させることができる、という設定になっています。
もし、当シリーズの別作品をお読み頂いている方がおられれば、散開弾という名前のミサイル弾種が登場していたことを、ご記憶かもしれません。
「サンカイダン」という音は同じですが、真ん中の文字が塊か開かの違いがあります。
別に文字変換をミスった結果こうなったわけではありません。
シリーズの中で時代や場所によって、名称が微妙に異なるという設定にしてあるのです。
「散開弾」は、散らばって開いて行く弾ということですが、何が、という情報が抜けています。
「散塊弾」は、塊が散らばる弾ということですが、どうなる、という情報が抜けています。
どちらの「サンカイダン」も同じものを、重視する情報をずらして命名しただけです。
時代や場所によって重視することが、変わって行っているということを表現しようという試みです。
この物語は銀河の歴史における、「古代]という設定で、「サンカイダン」がまき散らすのは、特に形状などに留意していない金属塊という設定にしてあります。
銀河の歴史における「中世」を描いた物語では、形状などに留意してより威力を高めた金属塊が、密度のムラを生じさせず、効率よく展開するように設計されているモノを「サンカイダン」と呼んでいます。
こういった、作者の頭の中だけにある裏設定に基づいて、「サンカイダン」に当てる漢字が少し代わっているということを、是非とも読者様にお伝えしたいと思った次第でした。
そんなことには、誰も興味がない可能性を重々承知しつつ、説明せずにはいられませんでした。
まあ、「いろいろ考えて描いているんだな」くらいに思って頂ければ、無上の喜びです。




