第60話 Story about ロザリオ 14-1
「なんだか燃えて来たぜ。存分に暴れてやるとするか」
「大丈夫なのかイゴル大尉」
心配そうな顔が、自信満々の顔を覗き込んでいる。「相手はいつの間にか、百隻近い大船団になっちまっているぞ。
ニーシャプールに近づくごとに、色々な勢力が馳せ参じてきて、雪だるま式に膨れ上がりやがった。
それに対してこっちは、ポドルム一艦だけだぜ。
しかも実質的戦力は、イゴル大尉の20艘の戦闘艇団だけだ。
勝ち目あるのか? 」
モニター越しにロザリオに問われたイゴルは、戦闘艇のコックピットの中で、パチパチと計器類を弄る片手間に応じている。
「勝ち目がどうとか、関係ないぜロザリー、と言いたいところだが、もちろんあるさ。
少ないとはいえ、帝国の情報は集めてある。奴らの兵器水準は分かっている。圧倒的少数でも、十分対応できるさ。
宙賊を相手にしたときに比べれば、リスクが大きいことは否めないが、それでも宇宙保安機構の技術力は、帝国をはるかに凌ぐからな」
自信の言葉をいくつ並べられても、ロザリオの不安は消えないのだが、今は出撃して行く友人を黙って見ているしかなかった。
戦闘となれば、文官の彼は蚊帳の外なのだ。
侵攻の停止を求める要求は、繰り返し発信された。さもなくば、帝国艦の戦闘能力だけを奪う攻撃を実施するとも、複数回通達した。
タイミングは教えなかったが、いつでも攻撃開始が有り得ると、帝国側も認識しているはずだ。
だが彼らは、進撃を続けた。
ポドルムからの攻撃に備えるような陣形の変化は、全く見られない。
約百隻に対するたった一艦など、取るに足りぬと高をくくっているに違いない。
彼らの前方にも、停船を呼びかけつつ攻撃準備を整えた一団が、立ちはだかっている。ニーシャプールの防衛部隊だ。
武装船が5隻と戦闘艇が30艘ほどで、武装船を約百隻も擁する侵攻軍の前では悲しいほどに貧弱だが、勝ち目がなくとも、故郷を守る為の攻撃を開始した。
帝国側も、すかさず応戦。まずは、散塊弾の応酬となった。
宇宙での艦隊決戦では、定石といえる始まり方だ。
強力な打撃力を誇るプロトンレーザーは、まだ射程圏外だし、たいていのミサイルもこの距離では簡単に迎撃されてしまう。
金属片をばら撒く攻撃が、最も有効だ。
散塊弾の与えるダメージは、限定的だ。
武装船の外部装甲を打ち抜くのは不可能で、表面にある構造物に損傷を与えるのが精一杯だ。
それでも、レーダー設備やスラスター噴射孔やミサイル発射口などに損傷を受ければ、戦闘能力は大きく削がれる。
そんなわけで宇宙での艦隊決戦は、散塊弾の応酬から始まることが多い。
これでどれだけ相手の戦力を削ぐかが、後の展開に大きくかかわってくる。
防衛側と侵攻側による散塊弾の応酬は、圧倒的に前者が戦力を削がれた。
もともと数に劣る防衛側が、物量の差を見せつけられた。
「もうあと数分もしないうちに、防衛側に人的被害の生じ得る攻撃が始まりそうだ。
これ以上は待てない。大尉、危険の大きな作戦となって申し訳ないが、頼んだぞ」
「危険なんぞ、とっくに承知さ。リスクは高いが、やって見せるぜ、チーフ」
口調はのんきでも、視線は鬼気迫っている。
その表情を最後にモニターは切り替わり、戦闘艇団の動きを示す模式図が、ロザリオの眼に映った。
電磁カタパルトによる強加速を受けてポドルムを飛び出し、敵に殺到する。
「やはり、敵は大尉たちの動きを捕らえ切れていません」
サーベイランスのコフトが報告。
数万の無人探査機により、敵情は把握されている。
「大尉たちの動きを掴もうとしきりにレーダーを走査しているけど、ことごとく微妙にずれてしまっている。
今回も大尉たちの加速度は、彼らには想定外なのですね、チーフ」
モニター上のデータ群に目を走らせながら、ロザリオは戦況を分析した。
「敵船団の通信内容からも、あの加速度に慌てふためいている様子は、確かに見られるわ」
コミュニケート担当のマニエラは、傍受に基づく戦況分析を伝える。
「当艦も最大加速で、支援要請に即応できる位置を確保だ、ヤック」
「承知しています、チーフ。総員の身体固定を確認できたので、最大加速に移ります」
シップコントロールの宣言の1秒後、猛烈な加速重力がロザリオを襲った。
イゴル大尉たちの味わっているものの数分の1に過ぎないが、呻かずには堪えられない。
「最接近している敵船への警戒を怠るな、コフト」
「接近中の3隻を集中監視しています。距離はまだ十分です、チーフ」
「通信傍受の様子からは混乱するばかりで、具体的な対処は未決定の様子よ」
「そうか、マニエラ。では遠慮なく、直進加速を継続でいいな。ですよねチーフ」
「うむ、そうしてくれ、ヤック」
円環配置の座席を、声が活発に飛び交う。互いの顔が見えるから、意志疎通は円滑だ。
「帝国艦は、さすがに大尉たちの動きを捕らえたわ。
レーダーの走査範囲が、ぴたりと一致している」
「大丈夫でしょうか、チーフ? 」
あの大軍に位置を捕らえられてしまえば、あっという間に撃破されるのではと、ロザリオには思えた。だが、
「帝国艦、ミサイル発射。でも、合理的とは思えない軌道で飛んでいる。
あの加速度が、続くはずがないと仮定している感じだ」
「レーダーで捕らえたとしても、想定外の加速度を見せる相手に有効な迎撃は、なかなかできないものさ」
ロザリオを安心させようと、きっぱりとした口調で言うチーフだが、その眼の奥にも僅かに不安は見えた。
帝国の真の実力を、宇宙保安機構が掴み切れているわけではない。
大尉たちへの十分な迎撃能力が無いというのは、賭けに過ぎない。
「ミサイル展開。散塊弾だ。大量の金属片が、大尉たちの進路上にばら撒かれた」
コフトの報告にチーフが息を呑んだのが、指揮室の全員に察知され、伝播し、全員が息を呑んだ。
普通なら、全力加速で敵に殺到している戦闘艇にとって、致命的だ。
しかし、コフトの報告には続きがあった。
「早い、早すぎる。敵の散塊弾の展開は余りに早すぎて、大尉たちの軌道と交差する時には、隙間が広がりすぎるぞ。想定外の加速とその継続に、ビビってタイミングを間違えた模様」
ばら撒かれた後、間隔を広げながら飛翔する金属片だから、ばらまくのが早すぎれば、肝心のタイミングでは戦闘艇が易々とすり抜けられる隙間ができてしまう。
大尉たちはその隙間を通って、僅かな軌道修正だけで敵の攻撃を回避した。
「それに、散塊弾のおかげで、敵は大尉たちを見失ったに違いない」
金属片群は、レーダーを遮蔽してしまう。
自分たちのばら撒いた金属片が邪魔で、襲来者の姿が見えないという状態に、帝国艦が陥ったということだ。
「それ以前に、散塊弾で迎撃できるものと、決めつけていたみたいね。
突破して来た大尉たちを見て、慌てているみたいよ」
傍受の成果を、マニエラが伝える。
「大尉たちの、ミサイル発射を確認。同時に、当艦にも、ミサイル戦での支援を要請」
コフトが告げる。
「よしっ! 当艦も、ミサイル発射準備。断種は散塊弾。
タイミングはシップコントロールに任せる。頼んだぞヤック」
「了解、チーフ。散塊弾の発射準備は完了しています。
大尉たちの攻撃の結果を見つつ、自己判断で適宜、ミサイル戦を実施します」
今回の投稿は、ここまでです。 次回の投稿は、 2023/10/7 です。
兵器に関しては全くのど素人な作者なので、レーダーというものの特性や運用方法等については、物語の展開に都合のいいように勝手に決め込んでしまっています。
何千年も未来の宇宙の彼方の出来事なので、現在に現存するレーダーと違いがあっても、問題ないじゃないかとの言い訳も、作者の中では成立しています。
いずれにせよ、技術レベルにおいて優位な寡兵が、大兵力を相手に善戦するということは、あり得ないことではないでしょう。
そんなわけで、この場面にも荒唐無稽な要素は無く、リアリティーを追求するという本作の方針は堅持されているとご了承ください。
想定外の加速度というのが、帝国軍を混乱させているという設定ですが、物体を加速させる技術において差がある、ということではありません。
本シリーズの別作品でも出て来ることですが、その加速に耐えられる人間が居ることが、想定外になっているのです。
帝国軍からしたら、それ以上加速したら確実にパイロットは死ぬ、と確信する速度で突進して来るので、対応が不適切になってしまっているとご理解ください。
そしてその加速度を実現しているのは、イゴル大尉たちが受けている身体強化手術という設定になっています。
人工的に、普通ではあり得ないくらいに加速重力への耐久性を高めたパイロットを有していることで、戦闘を物凄く有利に進めています。
これと同じようなことがシリーズ内で何度も出て来るので、ご記憶の上、シリーズの他作品もお読み頂けると嬉しいです。
しれっと、宣伝を織り込んでしまいました。
後書きをこういうふうに使うのは、反則でしょうか?




