第51話 Story about スパルタクス 7-1
スパルタクスたちを乗せた輸送船が、マゼーパ族の集落船団へとアプローチして行った。
5隻を保有している集落船が全て集結していて、その中の族長が座上するものに、スパルタクスたちの輸送船は招き入れられた。
ドッキングベイから真っすぐに部族長室に案内され、そこでポフダンと面会した。
よく太った真ん丸の身体はゴム毬のように柔らかそうだが、目つきは硬質な感じだ。
「既にいくつかの定住民と、用心棒契約の締結に向け交渉しているし、航宙民族のいくつかとも同盟する予定だ。その中には、バクトラ王国下の部族もある」
独立集団となる決意を面と向かって表明した後にポフダンは、そんな現状を伝えた。
「それら全部を合わせても、バクトラ王国の十分の一の勢力にもならないが、航宙民族ってのは定住民と違って、小が大に、そう簡単には潰されないものなのさ」
同席していたドラヴァレットは、相変わらずの明るい口調で楽観論を口にした。
確かに神出鬼没の航宙民族は、航宙民族にとっても居場所を掴みにくいから、勢力に差があったとしても逃げ延びることで、決定的な敗北は避けられる。
だが、定住民から物資を獲得しないと暮らせないのも、航宙民族共通の課題だ。
略奪か取引かの差はあっても、定住民を必要とするのは変わらない。
依存している定住民が、別の航宙民族に潰されたり支配されたりしてしまえば、独立してやって行くのは不可能となる。
マゼーパ族は、用心棒契約を結んだ定住民を、守り抜かなくてはならない。
バクトラ王国は、面子にかけても離脱したマゼーパ族を潰しにかかる可能性が高く、勢力において十倍以上であるそれから、友好関係にある定住民を守り抜くのは、かなり厳しい課題ではないかとセシリアは指摘した。
「大丈夫だ。俺たちが用心棒契約を結んだ定住民の都市は、その所在座標をほとんど知られていない。バクトラ王国は、攻撃したくてもできないさ」
ドラヴァレットは楽観論ばかりを口にするが、いつまでも知られないままでいられるものだろうかと、スパルタクスは不安に感じた。
「いつかは見つかってしまうだろうな」
スパルタクスの不安を表情に読み取って、ポフダンは言った。「定住民も、他の集団と交流や交易をしないでは暮らせない。
宇宙船が多く、拠点から出入りすることになるわけだし、航宙民族も姿を見せる宿場天体などを利用するのも避けられない。
都市そのものを直接に見つけられる確率は、天文学的に低いだろうが、そう言った交易などの活動から、いつかは足がついてしまうだろうさ」
「ちげえねえ、ははは」
楽観論を否定され、それを認めても、ドラヴァレットは明るい表情を崩さない。
「見つかる前に、勢力や戦闘能力を拡充してやるさ。
バクトラ王国からこちら側への、切り崩し工作も進めて行くし、王国外のさらに多くの部族にも、同盟を呼びかる。勝算はあるつもりだ。
バクトラ王国内で不満を抱えていない部族など一つもないし、バクトラ王国外にも航宙民の部族というのは、無数にあるのだからな」
「なるほど。それで、十倍の差が埋まりはしないだろうが、守るべき定住民を守り抜けるだけの力は、得られるだろうという見積もりなのだな」
「ふーん。まあ、リスクは覚悟で、その可能性に賭けたってことなのね、あなたたちは」
スパルタクスとセシリアの反応に、ニンマリと笑みを浮かべたドラヴァレットは、
「まあな」
と言った後、話の向きを変えた。「それよりお前たちは、これからどうするつもりなのだ?
宇宙保安機構に保護を求めるつもりなら、俺たちで送ってやっても良いぜ。
少し遠回りすれば、バクトラ王国に見つからないように、保安機構が頻繁に姿を見せる宿場天体などに、お前たちを届けることは可能だ」
「そうねえ・・・・・・どうしよう? 」
首を傾げながら、セシリアはスパルタクスを見た。
「任せるよ。セシーがどうしたいかを、最優先に考えたい。お前たちもそれでいいか? 」
問われた6人のもと培養奴隷たちは、セシリアに向って一斉に大きく頷いた。
「うーん」
と考え込むこと約一分。「しばらくは、あなたたちと行動を共にさせてもらえない?
タックは、地球系に帰化するより航宙民として生きる方がいいと思うし、私はまだタックと離れたくない。
それに、あなたたちのこれからにも興味がある。保安機構に保護してもらうのは、いつでもできそうじゃない? 」
「そうだな。保安機構のもとに送り届けるのなんぞ、いつでもできることだ。
そうか、じゃあ、しばらくはマゼーパ族の客人として、我らの集落船に滞在してもらおうか」
事が決した後には、スパルタクスたちは集落船を案内された。ポフダンとは別れ、ドラヴァレットに先導されて船内を移動する。
無重力中だから、移動の補助用に通路を縦横に横切るポールを、蹴り飛ばしながら進む形になる。
主観的な上下左右に船室の扉が並んでいるのを見ながら、宙を泳いで船内を進む。部族内の各家族に割り当てられた部屋もあり、そこに籠って過ごす時間もあるのだが、皆で集まれる大部屋で過ごす時間も多いという。
その大部屋も通り過ぎた。
地球系のセシリアには公園という印象を持つような、緑があって広々として子供たちが飛び回っている、居心地のいい部屋だった。
ざっと見まわして百人くらいがいると見えたが、この集落船の住民の2割にもならないそうだ。
「ほとんどは、各種のメンテナンス作業に精を出しているのさ」
ドラヴァレットは歩きながら説明した。
集落船自体に加え、戦闘艇や無人探査機などのメンテナンスも欠かせない。
今は1か所に集結しているマゼーパ族の集落船団だが、定住民たちとの用心棒契約を履行するために、やがてはバラバラに散ってそれぞれに決められたコースを巡回しながら、定住民たちの拠点や交易船を警護する予定だ。
集落船自体が、護衛船となるわけだ。戦闘となれば女子供も参加する。
それが航宙民族だそうだ。
各船が巡回監視をするのに並行して、それぞれが数百万の無人探査機をばら撒き、隙の無い警戒を実施する。
それらは定期的に回収し、メンテナンスをして再放出する。
脅威を見つけた際に出撃する戦闘艇と共に、それらのメンテナンスは必須業務となる。
「活動の対価として定住民からもらった物資を、各部族民に適切に分配する作業もある。
この大部屋で行われるその作業も、俺たちには重要だ。
バクトラ王国にいたころも同様の生活スタイルだったけど、これからはこれを、より大規模により徹底してやらないと、生き残っていけない。
マゼーパ族の命運を賭けて、やって行く活動になる」
明るい顔のままでも真剣な口調で、ドラヴァレットは説明した。
今回の投稿は、ここまでです。 次回の投稿は、 2023/8/5 です。
主観的な上下、という言葉が出てきました。
無重力の宇宙が舞台ですから、上下の概念があいまいになるというのは、ご理解頂けると思います。
何を上下の基準にするかには、色々な考えがあると考えられます。
一人一人の人間は、自分自身の頭頂部が面する方向を上、顎が面する方向を下と認識するでしょう。
作中に出てきた主観的な上下は、そのことを言っているつもりでした。
表示上の上下というのも考えられます。
モニターなどに映し出されたり、機械などに付けられたりしている文字には、正しく読める向きがあり、それも上下の基準になり得ます。
ある部屋の中の文字が、全て同じ向きにそろえられているのなら、それらの文字が読める方向が、その部屋における上下の基準になるかもしれません。
当然そろえるだろうと作者には思えるのですが、それはA型的思考というものでしょうか? ちなみに作者の血液型はAです。
照明が上下を規定する可能性もあるでしょうか?
光の差し込む方向を上と考える人の性が、宇宙時代にも残るのか、無くなってしまうのか、作者には見当もつきません。
近くに強い重力を及ぼしてくる天体があれば、それの方向を下と考える可能性も、あるように思えます。
国際宇宙ステーションなどで活動する人は、地球の方向を無意識に下と考えてしまったり、するものなのでしょうか?
強い重力を及ぼして来る天体が発光もしていたら、それの方向は上になるのでしょうか? 下になるのでしょうか?
これも、作者には見当もつきません。
規則として、任意の方句を上にするのかもしれません。とにかく上下をはっきり固定した方が生活がしやすいのなら、そうするでしょうか?
他の状況は全く考慮せずに、何か目印を付けておいて、それの方向を問答無用で上とする、みたいに。
色々と想像は膨らみます。
国際宇宙ステーションなどでは実際、どういう基準で上下が表現されているのでしょうか?
国際宇宙ステーションで活動する人が、「上にあるタオルとって」と言われたら、自分の頭の方向を見るでしょうか? 地球と反対方向を見るでしょうか? 近くのモニターや機械の文字が読める方向を見るでしょうか? 光の差し込む方向を見るでしょうか?
あるいは、すべての要素を予め、そろえておくのでしょうか?
地球と反対方向に光源を置いて、モニターなどもその上下に従って文字が映し出されるように据え付けて、人もできるだけ頭を上に足を下にする姿勢をとるように心がけて。
どなたかご存知の方がおられましたら、ご教示頂きたいところです。
いずれにせよ作中でスパルタクスたちは、自分の頭頂部が面する方向を上として考えていることにしておきます。
乗っている宇宙船が静止している間は、上下はこのように曖昧ですが、加速が始まればはっきりするでしょう。
加速重力でどちらかの壁に身体が押し付けられることになり、その方向が明確に下となるはずです。




