第48話 Story about スパルタクス 6-2
「ええ、た・・・・・・タック。私たちの動きは、バイルク族にすぐにはバレないはずよ」
リーダーへの新たな呼び名に、まだ慣れない様子の返事に、スパルタクスは頷く。
「うむ、よし。では、輸送船を指定の座標に向け、全力で走らせてくれ、アルブース」
「了解、タック」
バイルク族から盗んだ輸送船が、略奪の標的であるバーラーブの交易船ともバイルク族の本体とも正反対に近い方向へと、最大加速で進み始めた。
それと同時に、スパルタクスは戦闘艇を駆って、一旦バーラーブの交易船を目指した。
ミサイルを発射し、バーラーブの交易船の近くで炸裂させる。
命中させはしないが、いかにも略奪戦を実施しているかのような光景は作り出せる。
時間を稼ぐための工作だ。
「ヤーガドゥイ、スリーバ、もういいだろう。輸送船を追いかけるぞ」
こうして、セシリアを乗せた輸送船も、それを追うスパルタクスたちの4艘の戦闘艇も、略奪戦の戦域から離れる。
それはバクトラ王国の領域からも、ロードの監視下にある領域からも、遠ざかる動きだった。
(後僅かで、ロードの手が完全に及ばないと確信できる場所にまで至る。
支配を脱し、自由を手にできる。奴隷ではない人生が、始まる)
「バイルク族が逃げたぞ! 追いかけろ。
我が一族総出で追いかけて、必ず捕まえて、連れ戻せ! 」
ドラヴァレットがわざとらしく叫ぶ声は、略奪戦を監視する目的にかこつけてこの辺りに何万個とばら撒いてある、無人探査機に中継されて、スパルタクスにも聞こえた。
大王の手の者にも聞こえただろう。
バイルク族が逃亡を図り、それをマゼーパ族が追いかけたのだと、一時的に思い込ませることはできるはずだ。
その一時の隙が、マゼーパ族の逃亡を成功させるだろう。
「違う、逃げたのは、たった1隻の輸送船だけだ。我が一族が逃げたなどと・・・・・・」
タルマシリンの反論の声も、中継されて聞こえた。
バイルク族の幹部である彼も、略奪戦を指揮するコマンダーとして本隊にいる。
「そんなこと、逃げた船を捕まえてみなければ分からない。
とにかくマゼーパ族総出で、逃げた船を見つけ出すことが先決だ。
バイルク族の言い分を聞くのは、後回しだ」
ドラヴァレットの主張に、バイルク族は反論しなかった。
逃げたのが1隻だけだと分かっている彼らにすれば、それが連れ戻されれば、バイルク族が逃げたのではないことは証明されるわけだから、マゼーパ族を止める理由も強く反論する理由も無い。
ただ、そんなことに一族総出で臨むマゼーパ族を、ご苦労な奴らだと思うだけだ。
バクトラ王国からどんどん離れるバイルク族の連絡船を、スパルタクスたちの戦闘艇団が追いかけ、それをマゼーパ族の5隻の集落船団が追いかける。
マゼーパ族の保有する、全ての集落船である5隻に追われているふりをしながら、離れて行く。
バクトラ王国からの離脱が、成し遂げられようとしていた。
「何をしている、C-683! どこへ行くつもりだ? 戻れ! 」
不意に聞こえた声に、心臓を握り潰されたかのような胸の痛みが、スパルタクスを襲った。
ゆっくりとした、1つ1つの音節に重みをもたせたような発声が、より深くをえぐって突き刺さる。
「うっ、マイロード・・・・・・」
アフシ族の長も、バクトラ王国領内はもちろん、その周辺にも、数百万単位の無人探査機をばら撒いている。
それらの1つが、この辺りにあったのだろう。
それが、スパルタクスたちの動きを捕らえ、スパルタクスたちに声を届けているようだ。
ワープ通信により、リアルタイムの交信も可能だ。
「マゼーパ族の急な要請で、略奪戦に駆り出されたことは、不審に思っていたのだ。
それも、バクトラ王国の領域から遠くはなれた場所で」
「う・・・・・・くっ」
痛む胸は、更に氷のような冷たさを感じ始めた。うめくスパルタクス。
「いったい何が起こっている? 何をしているのだ、C-683?
そこからその方向に、そんな速度で移動したのでは、私の監視が全く届かなくなるではないか」
「あ・・・・・・ああ」
通信機越しに聞こえるアルブースの声も、恐怖に震えている。
「無断で監視可能域を抜け出す行為は背信であり、逃亡であるとも解釈され、この私に対する、深刻な裏切りと断罪されることになるぞ。
ロードへの反逆なのだぞ」
「ろ、ロード、申しわ・・・・・・」
思わず、謝罪の言葉を口にしそうになるのを、ヤーガドゥイはかろうじて堪えた。
通信機の設定上、彼の声がロードに届くわけではないが。
「お前たちに、そんなことができるわけがない。
そんなことを思いも付かぬように、そんなことを心底恐れるように、洗脳ができているはずだ」
「そうだ、こんなことは・・・・・・」
スリーバは、自己の行為を否定し始めた。
長年かけて刷り込まれた洗脳は、絶大な強制力を保持していた。
脱走という行為に、理屈抜きの罪悪感が沸き上がる。
セシリアが見せた夢がなければ、思いつかなかったはずの行為。
思いついたとしても、心底恐れ嫌悪していただろう行為。
自分たちが今、そんな行為に及んでいる事実が、罪の意識と共に思考を埋め尽くし、胸の痛みとして具現化している。
「C-683よ、その部下たちよ。お前たちは今、自身の行動が恐ろしくてたまらないはずだ。
その気持ちに素直に従って、すぐに引き返してこい。
何がお前たちを惑わしたか知らぬが、私の声を聞けば、私に従うしかない己を思い出すだろう」
「おっしゃる通りですわ、マイロード・・・・・・」
「わ・・・・・・私は、何ということを・・・・・・」
「こんなことは、こんなことをしては・・・・・・」
ヴィーシニャもペルシクもヤーブラカも、罪悪感に抗し切れない。
脱出の成就を目前に、通信機越しの声一つで、彼らはロードの軛に引き戻されようとしている。
「ダメだ、みんな・・・・・・」
スパルタクスは懸命に罪悪感に抗ったが、声に力がこもらない。
彼のスモールスクワッドを勇気づけ、再び脱出への意欲を駆り立てる効果は、彼の声には無かった。
今回の投稿は、ここまでです。 次回の投稿は、 2023/7/15 です。
以前にも書いたことですが、周囲や遠い場所の状況を知るために無人で、全自動で活動する機械のことを「探査機」と、この物語では呼んでいます。
現代の軍隊などでは「無人偵察機」とか「全自動索敵装置」とか呼ばれるモノであろうかと、素人なりに考えています。
ですが現在、宇宙の彼方の状況を知るために無人で地球の外を飛び回るモノに対しては、探査機という呼び名が使われております。
そのことから、この言葉の方が宇宙っぽさがあって良いな、という発想だけで、探査機という語を当てています。
この探査機のおかげで我々は、地球に居ながらにして何十億kmも離れた場所の状況を、知ることができます。
この物語の舞台は、現代の探査機が飛び回っている範囲の、数万倍もの広がりを持っています。
この広大な舞台において、戦闘艇くらいの物体の動きは隈なく察知できる体勢を、登場している各勢力が作ろうとしています。
ロード(=アフシ族の長)もバクトラ王国もバイルク族もマゼーパ族も、それぞれに隙の無い監視体制を維持しようとしています。
その為に、それぞれの勢力がそれぞれに、数百万個の探査機をばら撒いています。
1つ1つも現代の探査機より高性能で、超光速通信など現代には存在すらしない機能も保持していて、尚且つ大きさはゴルフボール程度ということになっています。
通信の中継も可能で、ばら撒いた集団(=持ち主)以外の者が実施した通信が、中継されることもあるでしょう。
要するに、探査機は受信した通信波を、何でもかんでも増幅して放射的に再発信しているわけです。
スパルタクスたちやドラヴァレットやタルマシリンやロードが、広大な宇宙空間を挟んでクロストークをやっているような場面も、こんな環境が可能としているのだとご理解ください。
複数の集団がそれぞれにばら撒いている探査機のおかげで、彼らが活動している宙域内には、「圏外」は存在しないのです。
要するに現代で言う「基地局」の役割を、これらの「探査機」が担っているわけです。
実際に人類が宇宙を広く棲息場所にする時代が来たら、この物語で言う「探査機」みたいなものがばら撒かれたり飛びまわったりしているはずだと、作者は予測しています。
その時にそれが、何と呼ばれているか分かりませんし、何と呼ばれることになるのか物凄く知りたいです。
まあ、「探査機」とは呼ばれていない気がしますし、案外、現代そのままに「基地局」と呼ばれているかもしれません。




