第38話 Story about スパルタクス 4-1
「見えて来たわね」
満足気に口角を上げるセシリアに、思案気なスパルタクスが問いかける。
「これが、部族会議の映像か。俺が周囲を飛び回っていた、あのテトラポッド形の宇宙基地の中で、こんな会議が行われていたのだな」
以前夢で見たのと変わらない光景だが、スパルタクスは新鮮な思いで見つめた。
部族長評議会の護衛から解放されてから3日後に、この映像が送信されてきた。
「ほらね、私の読み通り」
と、胸を反らせて言うセシリアのハッキングによって、映像は可視化された。
「いつか俺に、何らかの仕事をさせる場合に備えて、この映像データを俺の住居艇のコンピューターにインプットしたのか」
「恐らくはね。この映像だけではなく、色んな情報を送って来ていたわ。
コマンダー・ドラヴァレットの、あなたへの高評価を述べた記録もあったわ」
「本当か? そんなことを、あのコマンダーが」
人間として、扱ってくれている。
セシリアとの対話を除いては、スパルタクスに初めてそんなことを感じさせたのが、ドラヴァレットだった。
「もう1つ気になったのが」
彼の感慨を他所に、セシリアは続けた。「評議会があったのと同じような形状の基地を、バクトラ王国が、複数保有しているってことね。
脱出の手段を調達するのに、好都合な施設だわ。
できれば、全ての基地の詳細なデータを、手に入れたいものね」
脱出へのセシリアの熱意を見て、感慨は脇に置こうとスパルタクスは決めた。
「今回は色々な情報を、俺が夢で見ることも無く知れたのだな」
「新しい情報だからでしょうね、多分。
あなたが夢で見るしか取り出せない形に、データを加工する暇が無かったのでしょう。早い内だったから、簡単に取り出せたのね」
そうやって取り出せた映像を、しばらくの間2人は、食い入るように見つめた。
前回見たのと同様、球殻状の討議場で、大王への挨拶から始まり、大王の祖先を祀るモニュメントの建設が提案されたり、供物の進呈を宣する者があったり、それへの大王の返礼が贈与されたりと、前回には無かった場面も見られた。
「大王を選出する選挙と言うのも、実施されたのね。
形だけのもので、全部族が現大王に投票することは決まっているけど、それでも一応は選挙を実施することで、大王の権威付けの一助としているのね」
前回の続きのようなやり取りも、映像の中にはあった。バイルク族による侵略への、カルルク族の非難だ。
培養奴隷数の過少申告の件も引き続き糾弾され、バイルク族への調査実施に向けた準備が整い、開始が目前であることが報告された。
カルルク族をはじめ、幾つかの部族が現状の序列順位に不服を述べ、旧帝国を打倒した際の祖先の功績を論拠に、待遇の改善を求めて嘆願する場面もあった。
序列順位の決め方を再検討する委員会の設置を、大王は約束した。
ある部族が、定住民との癒着を大王に非難される場面もあった。
もとは、バイルク族がダームガーンという部族に、抗議の声を上げたことに端を発していた。
バイルク族の縄張り内に住む定住民とダームガーン族が癒着し、バイルク族の略奪が不首尾に終わるよう仕向けられている、というものだった。
そのことで、ダームガーン族は定住民から利益を供与されており、形としては、バイルク族の得るべき収益をダームガーン族が横取りしている、という訴えだった。
だが大王は、横取りよりも癒着の方を問題視した。
「我ら誇り高き航宙民族にとっては、定住民どもなど、略奪や搾取や支配の対象でしかあってはならない。
定住民から友好的に利益を供与されるなど、航宙民族にとっては恥でしかない。
癒着など、するでない。奪え。恐怖に震え上がらせて、搾り取れ! 」
大王の苦言を、多くの部族が称賛した。
更には各部族が、定住民への略奪や搾取の実績を自慢気に報告し合った。
セシリアは、苦々しい表情で見ていた。
「徹底した定住民に対する蔑視や優越意識が、この王国の結束の紐帯となっているのね。
差別感情の共有が、国のアイデンティティーとして機能しているなんてね」
スパルタクスとセシリアが見つめるモニターの中で、族長たちが、いかに残酷に執拗に定住民を迫害したかを、我勝ちに報告し合う。そのことに陶酔している。
一体感を、一段と高める陶酔だ。熱狂と呼ぶべき、異様な盛り上がりだ。大王も、猟奇的な表情を浮かべていた。
「追い詰められた定住民が、ガウベラ帝国と手を結ぶ事例が出始めています」
熱狂の渦の中に、忽然として冷静な声が響いた。「定住民どうしでの結束も、日増しに強化されています。帝国を中核とした大連合との対決が、我らには迫っています」
これ聞いた直後の族長たちの、急激な表情の変化に、セシリアが思わず口を開いた。
「あらあら、威勢の良かった大王や族長たちに、冷や水が浴びせられちゃったわね」
スパルタクスにも、大王以下の討議参加者全員が背筋に冷たいものを走らせたのが、映像から見て取れた。
「それが、どうしたというのだ、マゼーパ族の長ポフダン殿?
左覇星王ともあろうお方が、まさかガウベラ帝国ごときを、恐れておられるのか?」
冷や水を浴びせた者にこんな問いかけをする、バイルク族の長の顔からも、血の気は失せている。強がりなのが、一目瞭然だ。
「恐れているのが私だけでないのは、あなたの表情が示す通りです。
すでにいくつもの航宙民部族が、それの寄り集まった部族連合王国ですらもが、帝国に滅亡させられた事実を、知らない者はおりますまい。
その中には、バクトラ王国が戦場において、過去に一度も勝ったことのない王国も含まれています」
「そ・・・・・・そんなもの、関係ない。我らバクトラ連合王国の諸部族が結束して当たれば、ガウベラ帝国ごとき、何ほどのことも・・・・・・・」
「結束できますかな? つい先ごろ帝国が催した征伐戦の跡に、バクトラ王国内の部族しか使っていないはずの型式のミサイルや戦闘艇などの破片が、多数発見されています。
王国内に、帝国の傭兵として参戦した部族がある、ということだと思われますが」
「それはまことか、左覇星王ポフダンよっ! 」
怒気を含んだ声で、大王が問う。「帝国の手下となるような恥知らずが、我が王国内にいるというのか。
定住民との癒着といい、航宙民族としての誇りはどうなったのだ!」
大王の嘆きに、目を泳がせたり顔を伏せたりしている族長が、何人も見受けられた。
「あんな顔を見せちゃったら、身にやましいところがあると、自白したようなものね」
モニターに映るたくさんの顔を見比べて言う、セシリアと対照的に、スパルタクスは1人の顔のみに視線を引き付けられていた。
「今に始まったことでは、有りませんでしょう、大王よ」
「どういうことだ? 左覇星王よ」
身にやましいところは無いと思われる、残りの3割の中でも、最も落ち着いた態度を維持しているポフダンが、スパルタクスの視線の先で大王の視線を受け止めている。
「ガウベラ帝国が旧帝国エクパティアを打倒した、約百年前の戦いにおいても、我が連合王国内のいくつかの部族が参戦しております。帝国との繋がりは、その頃からのものです。
我が王国の半数以上の部族は、伝統的にガウベラ帝国の傭兵でもあるのです」
「なんと、あの頃の屈辱的な関係を、未だに断ち切れぬ軟弱な部族が、我が王国内にそんなに沢山あるというのか。
百年前の戦いにおいては、致し方ないといえるだろう。旧帝国エクパティアには、手を焼いていたからのう。
我が祖先が12の部族で連合を組んだことで、撃退には成功したが、それ以降も脅威であり続いけたあの帝国は、どんな手を使っても排除しなければならなかった。
そのエクパティアの被支配部族から起こり、エクパティアを脅かす力量を得た一族と手を結んでエクパティア打倒を目指すのは、避け得ない運命だった。
しかし、あの戦いの後、ガウベラ帝国と名乗り出して以降のあの一族とも、関係も持ち続けた部族というのは、奴らの隆盛に、ひと役買ったとも言える有様ではないか。
ガウベラ帝国が今ほどに盛強となることに、手を貸した部族があるとすれば、その責任は厳しく問われなければならぬ」
「まさに、お言葉の通りであります、大王。
我らを上手く利用して、ガウベラは勢力を拡大し、今や総戦力において、我らを十倍近く上回っていると思われます。
もっと厳しい現実を申せば、帝国に臣下の礼をとった部族までもが、我が王国から出ているという情報も、未確認ながら耳にしております。
帝国によって我が王国は、着実に侵食されているのです。
この上さらに、定住民の多くが帝国に庇護を求め、帝国の臣下や傭兵となる部族が続出すれば、我らの命運は尽きるでありましょう」
今回の投稿は、ここまでです。 次回の投稿は、 2023/5/6 です。
スパルタクスが夢で見ることでしか、取り出せない形に加工されたデータというのがある。
だけども今回は、そういう加工を施す時間が無かったためにセシリアと2人で見ることができた。
こういう記述を見て、あまり気にせずに読み飛ばす読者様もおられるでしょうし、「なんじゃそら」と食いついて考え込む読者様もおられるかもしれません。
どちらが作者にとって好都合か、難しい所です。
今回はそれについて説明するつもりは無いので、軽く読み飛ばしてもらった方が良いのですが、こういうことにこだわる人とは話が合いそうだとも思っています
本編で説明しない代わりに、例の如く反則的に、後書きで説明しておきたいと思います。
夢でしか取り出せないというのは、スパルタクス自身の記憶で補わないと意味のある情報にならない状態にしてあるデータ、という感じではないでしょうか。
元のデータから、スパルタクスの記憶にあることを間引いて、それだけでは何のことか分からないようにしてある。
スパルタクスに夢を見させる装置には、スパルタクスの記憶に関する情報もインプットされているから、元データからスパルタクスの記憶にあるものを間引くことは可能なのです。
データを誰かにハッキングされても、それだけでは情報流出に繋がらないような措置でしょう。
未来の暗号技術として、ある程度現実味のあるものではないかと、ど素人のくせに作者は自負しています。
夢を活用することで、特定の個人にしか解読不可能にしてある暗号、ということです。
こういうことを考えるのを、楽しいと感じる人に読んでもらいたいと思いながら描いているわけですが、今回は本編ではそれを割愛してしまっています。
我ながら矛盾しているなと思いつつ、話のテンポなどを考えると、ここでは夢暗号の詳細に触れることはできませんでした。
本編に詳述されていない未来技術についても、読者各位で想像を膨らましてもらえたら、などと考えるのは余りに身勝手でしょうか?
しかし、余り詳しく説明せずに登場させる未来技術は、今後も出てくるかもしれませんので、ご了承ください。




