第37話 Story about ロザリオ 6-2
イゴルたちの放つミサイルの方も、当然見つけられるはずがなく、50発ほど放たれたそれらの全弾が、十分な効果を発揮した。
といって、命中弾があったわけではない。
全弾が、敵から外れた位置で炸裂した。
発射されたミサイルはプラズマ弾で、爆心から数㎞以内に高温を、十数㎞以内に高磁場を生じる。
基地施設や敵艦艇が高温エリアには入らず、高磁場エリアだけに入るように、大尉たちは位置を選んで炸裂させていた。
高磁場エリアに包まれた電子機器は、しばらくの間麻痺状態になる。
50個もの高磁場エリアが基地を飲み込んだ結果、基地全体が麻痺状態になった。
手も足も出せない。
そして麻痺した基地や艦艇に、約百個の無人探査機が雪崩れ込んだ。
周辺に集まっていた3百個の一部だ。内部を飛び回り、自律的に捜索してくれる。
基地や艦艇が麻痺していた2分ほどの間に、百の眼が隈なく全てのそれらを探査し尽くし、内部の人間の顔形や体格などを1人も漏らすことなくスキャンした。
「捕虜と見られる人々を発見。捕らえられたばかりと見られる人や、かなり以前に捕らえられ強制労働を強いられていたとみられる人がいる模様」
報告するコフトの表情は、しかし、どんよりと曇っている。「ただし、ミス・セシリアやアナスタシア嬢と見られる反応は、見つかっていません」
「なぜだ! どうしてアナスタシアがいないんだ!」
叫ぶシェリングと同じことを、ロザリオも思っていたが、彼よりは冷静を保った。
「航宙民族たちや、拉致された人たちに、話を聞くしかないだろう。焦りは禁物だ」
同じ焦りを共有しているはずの男に、肩を叩かれながらそう言われると、シェリングも落ち着きを取り戻すしかなかった。
航宙民族たちは、麻痺状態が解消されるとすぐに、降参の意を伝えて来た。
索敵能力を失っている間に、戦闘艇団も無人探査機も、位置を変えた上でパワーをダウンしていたから。
パワーダウンしたそれらは、見つけにくい。1つ2つなら、レーダーを粘り強く走査させれば見つかることもあるが、20艘の戦闘艇と百個の無人探査機は、電磁波放射を止めてしまえば見つけ切れない。
つまり敵にとっては、機構側の戦力がどこにいるかが、分からなくなっている。
しかし、至近距離にいて強力な武装を保有していることは分かっている。
見えない敵に、必中距離で銃口を突き付けられた状態なわけだから、降参するしかなった。
拉致された人々は、幾つかの小型艇に分乗してポドルムにやって来た。
航宙民族たちについては、武装解除の上で、投降と逃亡のいずれかを自由に選択する権利を与えた。
「逃がすのか? なぜだ? 全員捕縛して、連行すれば良いじゃないか。
いや、いっそ、この場で皆殺しにしてやってもいいくらいだ。
あんたたちの兵器レベルだったら、簡単にできるだろ?
そうでなきゃ、また被害が出るぞ。宙賊に反省なんか、期待するな」
やや血相を変えて、シェリングがまくしたてた。
「すまないが、そういうやり方は、恨みや怒りの際限のない拡大再生産になると、私は思っている。
父親を殺され恋人を拉致された君が、激しい恨みや怒りを覚えることは理解するが、同じ感情を相手にも与え、今後もずっと、互いにこんな感情を与え合うなんてことになるのは、極めて愚かだ。
だから私は、市民の保護という目的に対して、最小限を越える破壊や殺戮や抑圧は、決してやらないよ」
申し訳なさそうなㇵの字の眉を晒しながらも、しっかりとした声でチーフは諭した。
「皆殺しにしてしまえば、再生産もないじゃないか」
「皆殺しなんて無理だよ、シェリング」
こんどはロザリオが、なだめるような口調で言った。「あの基地内に航宙民族は、3千人以上いたんだぜ。
たった20艘の戦闘艇と百個の無人探査機で、全員なんて殺せない。
それに、航宙民族の全てがここに集まっているわけもない。
ここにいる奴らの仲間などが、ここ以外のどこかにいるんだ。
ここの人間を殺せば、恨みや怒りの拡大再生産は、必ず生じるさ」
「だからって、俺たちの大事な船を襲い、大事な積み荷を奪い、大事な人を連れ去った連中を、許すっていうのか」
「許したわけじゃない。だから、取り返せるものは取り返した。
だけど、航宙民族にも航宙民族なりの事情や都合がある。
取り戻すべきものを取り戻す以上の痛手を、むやみに相手に与えるのを、私は肯んじない」
この場の最高責任者がこう言うと、シェリングもいつまでも強弁はできなかった。
ものに当たり散らしたりブツブツ言い続ける姿は見られたが、正面切っての反発は自重した。
チーフ・ミハルの好意で、この艦に乗せてもらっているのだから。
その後手分けして、拉致されていた人たちに話を聞いたことで、セシリアやアナスタシアがここにいない理由は、ある程度分かって来た。
襲われた交易船にも、プルシャプラの連絡船が救援に向かい、修理して航行と通信を可能にしたので、そちらからも情報を得られた。
「襲われる少し前に、ミス・セシリアは、別の交易船に乗り換えたそうだ。
元の船はマラカンダに向かっていたが、彼女はバーラーブという別の天体都市を目指したらしい。我々には未知の都市だ。
あちこちの天体を巡って来て、次にはそこに向かう予定の交易船と、プルシャプラから出発してマラカンダに行こうとしている交易船が、襲われる少し前に、ランデブーして積み荷などを交換したのだな。
しかも、バーラーブ行きの船の方も、ランデブーの少し後にSOSを発信した上で、消息を絶ったそうだ。
そちらも、宙賊に襲撃された可能性が、高いな」
「何ですって、チーフ⁉ じゃあ、セシーが拉致された可能性は、依然として残るのですか?」
「分からない。ついさっきプルシャプラに通信で問い合わせて、その船の消息が未だに途絶えたままだと、聞かされただけだ。
消息を絶つ理由は、宙賊の襲撃以外には考えられないそうだが」
「なんてことだ、セシー。君はやっぱり、虜囚の身なのか? 」
肩を落とす部下に、同情の視線を向けながらも、チーフ・ミハルは話を先に進める。
「アナスタシア嬢の方は、一旦は他の人々と共に、ここの基地に連行されたそうだが、少し前に、奴隷として買い手がついてしまったみたいだな。
彼女以外にも何人かが奴隷として売られて、どこかに連れて行かれたみたいだ。
アナスタシアを買ったというのも、バーラーブを拠点としている商人だそうだ。
連れて行かれた先がバーラーブかどうかまでは、分からないのだが」
「くそっ! アナスタシア。マラカンダに奴隷として売られ、宙賊に拉致され、今度はバーラーブの商人に奴隷として売られ、どうしてあいつが、こんな不運に・・・・・・」
情報収集は、セシリアやアナスタシアのことばかりというわけにはいかない。
落ち込むロザリオやシェリングを心配しつつ、キョセ・ミハルは、それ以外の情報も集めた。
制圧した基地からは、百人余りの航宙民族が投降した。
定住民への合流を望む者や地球連合による保護を求める者なども多数いて、積極的に情報提供してくれた。
それらと拉致された人たちからの情報を総合すると、ここのようなテトラポッド形をした航宙民の基地というのは、幾つかあるらしい。
バクトラという名の、航宙民族による部族連合王国が形成されていて、それの保有する宇宙基地の多くが、ここのようなテトラポッド形をしているらしい。
中には、墳墓天体と呼ばれる人工物が周回している基地もあって、そこには歴代の大王が埋葬されているそうだ。
墳墓天体には、この基地より大規模な核融合施設が併設されていて、そこからエネルギーを各部族に供給することで、大王一族の権威付けや王国の結束維持を図っているとの情報も得た。
この辺り一帯をバクトラ王国が支配していることから、プルシャプラが被る略奪被害の多くは、この王国を構成する部族のどれかによるものが、ほとんどであると考えて良いという。
「こうなると、バクトラ王国というものにも、接触を図る必要が出て来るな。
ミス・セシリアやアナスタシア嬢を助けるためにもだが、ガウベラ帝国の影響を調べるのにも、地球連合の安全を確保するのにも、バクトラとの接触は必要だ。
友好関係を築くことができれば、理想的なのだが」
「それは余りにも、現実離れした理想と言わざるを得ませんな」
プルシャプラに報告を入れた際に、通信機の向こうでゲオルグが意見した。「我々としては、宇宙保安機構には持てる武力を総動員して、バクトラ王国を滅亡させ航宙民族どもも根絶やしにして頂きたいのです。
それしか、我々の安全を確保する方法は、ありません」
「俺もその点に関しては、執政官ゲオルグに賛成だ」
シェリングも改めて主張した。「何百年も宙賊に苦しめられ続けて来た俺たちには、あいつらと友好を結ぶなんて考えられない。
奴らも我らを、略奪の対象としか見ないだろう。
もう、どちらかがどちらかを根絶やしにするまで、俺たちは対立するしかない。
そして俺たちにはあんたたちと友好を結ぶ意志があり、奴らにはあんたたちも略奪の対象だ。
今回見せてもらった宇宙保安機構の兵器レベルを見ても、話しに聞く保安機構の動員力を考えても、あんたたちならバクトラ王国を滅亡させることは可能なはずだ。
ミス・セシリアやアナスタシアの救出を考えても、バクトラ王国の拠点を片端から潰して回るべきだ、チーフ・ミハル。
その点を理解して、是非考えを変えてくれ」
ゲオルグとシェリングの嘆願に、チーフ・ミハルが首を縦に振ることは無かった。
これまでと同じ理由で、彼は航宙民族と友好を目指す路線を選ぶと宣言した。
どこまでも平行線をたどる彼らの議論を聞きながら、ロザリオには、セシリア救出に対する絶望感ばかりが膨らんで行った。
バクトラ王国などという、想像もしていなかったような巨大な集団に、セシリアの運命が委ねられているかもしれないという事実を前に、頭を抱えるばかりだ。
「どうすればいいんだ、セシー。君の救出への筋道が、全く見えてこないよ」
今回の投稿は、ここまでです。 次回の投稿は、 2023/4/29 です。
セシリアを救出できるかと思わせておいて、実は彼女とスパルタクスがいたのとは別の基地でした、という肩透かしでした。
この肩透かしを成立させるために、テトラポット形の施設などを覚えておいてほしいと訴えていたわけですから、我ながらあざといことをしたものだと思います。
ロザリオたちが向かって行ったのが、セシリアたちのいる基地と同じだと思ってもらわなければ、成立しない肩透かしでした。
一方で、物語のこの段階でヒロインが救出されるわけがない、と先読みされていても、肩透かしは不発に終わったでしょう。
先読みを成功させる鋭い読者様もおられたかもしれませんし、事前に後書きで散々アピールしたにもかかわらず、セシリア救出の可能性に気付いて頂けていなかった読者様も、おられたかもしれません。
鋭い読者様も、余り鋭くない読者様もおられるかもしれない中で、どんな情報の出し方をしたらうまく肩透かしを演出できるものか、作者としての悩みは尽きません。
最大公約数を狙うべきなのか、特定の読者層に的を絞るべきなのか、作者にはちんぷんかんぷんです。
暗中模索の難しさを実感しつつ、でもそれを楽しんでいる自分を感じてもいます。
こんな作者を理解して、情けをかけ、もうしばらくお付き合い頂ける読者様が一人でも多くいて下さることを、切に願っています。




