第36話 Story about ロザリオ 6-1
ようやく辿り着いた。
「ここで、セシーの乗っていた船が、襲われたんだな」
言葉に出して確認するロザリオの、視線の先にあるディスプレイには、数百万個の無人探査機が射出されつつあることを示す模式図が、3次元映像として投影されていた。
ゴルフボール大の探査機だ。
戦闘艦ボドルムから放射線状に送り出されるそれらの内の半分ほどは、スペースコームジャンプで移動した。
残りは、比較的近くを隈なく走査。しらみ潰しと言える探索が実施された。
襲撃された船は、すぐに見つかった。
通信も航行も不可能な状態のようだが、乗員の命に直ちの危険が及ぶ状態でも無いようだ。
彼らの救助は後にして、襲撃者を見つける方を優先した。
船の近くでは、戦闘の痕跡と思われる残骸も、数多く見つかった。
「撃破された戦闘艇の欠片だと思われる人工構造物が、多数散らばっているな。
1人乗りの戦闘艇が、十艘分ほどだと思われる」
「それなら、宙賊による襲撃の跡と見て、良さそうだ」
コフトの報告に、シェリングが真っ先に反応した。「ヤツらはたいてい、50艘くらいの戦闘艇で襲撃してきて、十艘程度の損害を出しながら、略奪を成し遂げることが多い」
「うむ、残骸の残留熱量から見ても、撃破されたタイミングは、さっき通報を受けた襲撃と一致する。
ミス・セシリアたちを乗せた船を、襲った連中に間違いないだろう」
サーベイランス担当と新参者のやり取りを受け、チーフ・ミハルも言う。「となると、超光速で飛ばした探査機が襲撃者を発見する可能性は、高いな」
1時間後、チーフの予測は的中した。
「ありましたよ、チーフ。3光年ほどの距離に、巨大な人工物を発見。
テトラポッドの形状で、周囲に宇宙船と見られる熱源多数。核融合施設と思しきパターンの熱源も、テトラポッド形の人工物の近くにあります。
航宙民族の拠点でしょう。ここに、拉致された人たちが捕らわれている可能性は、高いでしょう」
コフトが告げると、普段は柔和なチーフ・ミハルのㇵの字の眉に、気迫がみなぎった。
「ヤック、準備ができ次第、敵基地の予測攻撃可能圏外でなるべく基地に近い位置へ、スペースコームジャンプだ。
コフト、探査機を使って、ワープアウト位置の厳重な走査をたのむ。
マニエラ、探査機を経由して、相手に位置を知られないように警告メッセージを伝えたいから、手配しておいてくれ」
矢継ぎ早の指示を受けるや、「了解です」「はい」「分かりました」と、それぞれの担当者が同時に短く返し、弾かれたように動き出した。
円環形式の座席なので、互いの顔が良く見え、声も聞き取りやすい。
「イゴル大尉も、戦闘艇団の全艇に出撃準備をさせておいてくれ。
ワープアウト直後に警告し、反応によっては直ちにカタパルト射出する。
その後のことは、大尉が判断してくれ」
「オーケー、チーフ。任せてもらおう」
相手の攻撃可能圏など、分かるわけがない。あくまで予測だ。
これまでに知り得た情報から、機械的に算出した推定値というものを使う。
スペースコームジャンプを果たした直後には、決定的な隙が生じる。
約5分間、電子機器が使えない時間が生じ、移動も索敵も攻撃もできない。
そこを狙われたら、戦力差に関わらず絶望的だ。
だからワープアウトは、敵の攻撃が及ばない場所にしなければならない。
だがそれは、確実に知れることなどめったにない。一か八かの危険を、冒すしかない。
ここで危険を冒すことは、宇宙保安機構の使命であり宿命だ。
攻撃可能圏の推定が間違っていれば、ワープアウトと同時に命を失うかもしれないが、やらない訳にはいかない。
「ワープアウト予定位置に、人工構造物は確認できないわ。
推定値に間違いがなければ、攻撃を受ける可能性は無いわね」
「じゃあ、推定通りなのを信じて、ジャンプするぜ。たった今準備が完了した」
下令から15分ほど後に発せられたマニエラとヤックの報告に、チーフ・ミハルが頷く。
プルシャプラからここまでも、スペースコームジャンプでやって来た。
本来は天体地中都市の近くでのジャンプを、プルシャプラでは禁止している。宙賊に見つからないように。
だが今回は、拉致された者たちの救出という緊急の要件にかんがみて、特別に許可してもらった。
ワープの兆候や痕跡は、百光年以上離れていても観測される場合があるから、ここに来るジャンプも気付かれたかもしれない。
ここからのジャンプも、察知され得る。攻撃可能圏の予測がもし外れていたら、ワープアウトと同時の絶命となる可能性はかなり高い。
「よしっ! では、行こう」
危険を全て承知のチーフが、それでもこう告げ、ヤックも迷いなくコンソールを叩いた。
他の面々も、やや緊張気味だが覚悟を決めた顔だ。
イゴル大尉は既に、戦闘艇のコックピットに収まっている頃だが、同じ顔をしているだろう。
ワープした。虹色のひっかき傷となって、宇宙を跳躍した。
攻撃は、受けなかった。
ワープアウト後の、何もできない恐怖の5分間を耐え忍んだ彼らは、何の反応も示していない航宙民族の基地を観測した。
「こちらの素性を確かめようとする動きくらいは、見せるだろうと思っていたのだが、ここまで無反応とは。
スペースコームジャンプの兆候を観測する技術が、無いのか? 」
「いやいや」
通信機を通して、イゴル大尉がチーフに反論する。「味方の航宙民族やどこかの商船が、突然ワープアウトする可能性はいつでもある宙域だから、ジャンプの兆候を捕らえても、いちいち注目していられないのだろう。
略奪戦の準備が万端でなければ、船を見つけても何もしないさ」
「そうか、じゃあ早速、警告を相手に伝えよう。マニエラ、いけるか? 」
こくりとうなずくコミュニケート担当を見て取ると、チーフ・ミハルは手元のコンソールを叩き、航宙民族への言葉を紡ぎ始めた。
高収束性のビームで探査機に、そこからは放射電波で、航宙民族基地へと届けられるメッセージだから、ボドルムの位置を知られずに送信できる。
「我々は、地球連合の保有機関である宇宙保安機構だ。
当方の保護下にある市民が拉致され、そちらに監禁されている可能性が高いと、我々は考えている。
今すぐの施設内捜索を、承諾願いたい。30分以内の返答がない場合は、捜索を強行実施する。以上」
メッセージを伝えた15分後に、基地からは戦闘艇と見られる飛翔体が百余りも飛び出し、ボドルムとは見当違いの方向へと進んだ。
単純に電波の来た方角へと、迎撃部隊を派したのだろう。
居場所を偽装する工作の可能性も、数分前に兆候を捕らえたはずのスペースコームジャンプも、全く念頭にないらしい。
「返事はなく、迎撃態勢を敷きました。完全拒否と、受け取るしかありませんね」
緊張気味のロザリオに、苦笑を浮かべたチーフが応える。
「そうだな。承諾などあり得ないと思ったが、多少は言葉での返答があっても良いと、期待したのだけれど、やはりダメか」
「まあ、当然だな。じゃあ、出撃するぜ、チーフ・ミハル」
言い放つと同時に、返事も待たずに大尉が出撃したことを、ロザリオも手元のディスプレイに確認した。
20艘の戦闘艇団が、一団となって敵を目指す。強烈な加速だ。
カタパルト射出は、強い熱源を生じる。
この瞬間に、敵は襲撃者の正確な位置を掴むはずだ。
実際、全く異なる方角に陣取っていた敵は、ポドルムのいる辺りをレーダーで走査し始めた。
そのことは、さっき数百万個も射出した内から、3百個くらいの無人探査機を基地周辺に集めてあるから、良く分かる。
敵のレーダーの正確な走査範囲を、探査機が検知している。
それによると、敵のレーダー走査範囲は、微妙にずれていた。
ボドルムの位置は正確につかめているが、イゴルたちの戦闘艇団の位置はつかみ切れていないようだ。
常に、戦闘艇団の少し後ろばかりを、走査している感じだ。
「思った通り、こちらの加速能力は、彼らにとって想定できないレベルみたいだな」
落ち着いた表情で戦況を見つめるチーフ・ミハルが、つぶやいた。
「戦闘艇が射出されたことは分かっているけど、早すぎるから、位置がつかめないのですね。
レーダーで見つけることすら、できないのですね。
あちらのコンピューターの、演算速度の問題もあるのかもしれませんけど」
「両方だろうぜ、オフィサー・ロザリオ。戦闘艇の加速度もコンピューターの演算速度も、レベルが違い過ぎるから、宙賊はこちらの戦闘艇団を、見つけることすらできないのさ」
経験豊富なコフトが、自信たっぷりの顔で教えた。そしてその通り、勝負はあっさりついた。
今回の投稿は、ここまでです。 次回の投稿は、 2023/4/22 です。
物凄く多勢に無勢な戦いが始まろうとしている状況は、ご理解頂けていますでしょうか?
たった1艦で、何百もの艦船が寄り集まっている場に襲撃を仕掛けようとしています。
技術力や戦闘能力に大きな差があるということで、チーフ・ミハルもこんなことをやる気になっているわけですが、こちらは相手を見つけられて、なおかつ相手にはこちらを見つけられないことが、この場合には最も重要です。
見つける能力と見つからない能力こそが、最大の戦闘能力になっている、とご理解ください。
ロザリオたちの側は、何百万個とばら撒いた探査機が、相手をはるかに上回る見つける能力の源となっています。
探査機という呼称も奇妙に響くかも知れず、偵察機とか哨戒機とか呼ぶのが適切かもしれませんが、宇宙っぽさを演出するには「探査機」の方がふさわしいかと思ってそうしました。
現代でも沢山の探査機が、宇宙を飛び回って様々な観測を行っています。
有名な小惑星探査機「はやぶさ」の大きさが6m×4.2m×3mだそうで、それよりはるかに高性能なのがゴルフボールの大きさで実現している、という設定になっています。
こういうのを何百万個もばら撒いて運用できる能力があるおかげで、艦船の数で数百倍、人数で言えば千倍以上と思われる相手にケンカを売ることができているわけです。
未来の宇宙における戦闘についての、自分なりにリアリティーを追求した予測に基づいた設定なので、後書きで強調させて頂いた次第です。




